第2話 クーパーの配達員

 ここ最近では、例の伝染病の流行りから、世の中は自粛ムードになり、感染者が増えると、政府も自治体も、

「緊急事態宣言」

 であったり、そのひとつ前の段階での、

「蔓延防止特別法」

 なるものを発令することで、人流を抑え、さらに、、飲食店を中心に、時短営業や、休業要請を行ってきた。

 それによって派生してきたのが、

「宅配による食料や日用品などの、生活必需品の提供サービス」

 であった。

 特に、食材や、出来上がった食品などを自転車などで配達するという、

「クーパーイーツ」

 なるサービスが流行っていた。

 元々、ピザの配達や、食材の配達などの業者は昔からあったが、ファーストフードやファミレスなどの料理をそのまま配達するというやり方は、この時代にあった、画期的なものだったのだ。

 まず、クーパーイーツの会社が、ファーストフードや、ほか弁屋、ファミレスなどのメニューの入ったカタログを一般家庭にポスティングして、会員を募るのだ。

 そして会員になった人は、カタログを見て、注文をする。電話注文であったり、WEBからの注文などで行い、今度は、それをファーストフードなどに、注文を入れる。

 もちろん、最初から宅配会社とそれぞれのファストフードの店とは契約済みだ。

 なんといっても、ファストフードは、自分で配達しなくても、配達業者に頼むことで、配達してくれるのだから、これほど楽なことはない。少々の配達料を取られたとしても、それは、売りえ峩々上がることで、しっかり元が取れるというものだ。

 クーパーイーツ側は、配送員のアルバイトに指示を出す仕事になる。後は配達員が動いて、宅配してもらえるというものだ。クーパーイーツ側は、配達料を、会員からと、店からもらうことで利益を得るという仕組みだ。

 今実際に行われている他の食料宅配などの仕掛けと同じかどうか分からないが、少なくとも、かなり早い段階で坂巻グループは手掛けていたので、オリジナルのやり方であった。

 ただ、いろいろな諸問題がないわけではない。その一つが、アルバイトのマナーであった。

 確かにアルバイトを雇って、配達させるというのは、画期的なことだが、半分は歩合制のため、急いで数をこなすというのが、問題になる。そうなると、自転車の運転が荒くなってしまい、歩行者や車との接触やトラブルがどうしても付きまとってくる。

 中には、同じような会社の中には、トラブルが絶えないことで、結局信用問題となってしまったことで、事業から撤退しなければならなくなったところも少なくないと聞く。

 全国展開をしているような大企業ではそんなこともないかも知れないが、それでも、トラブルは絶えないなど、テレビのワイドショーで社会問題だということによるニュースが毎日のように叫ばれていた。

 しかし、今のような自粛による、いわゆる、

「おうち時間」

 というものが習慣になってくると、このような形態の商売は、どうしても必要になってくるので、絶えることのない事業だと言ってもいいだろう。

 そんなクーパーイーツのおかげで、ファーストフードや、ほか弁屋などは、十分に潤っている。テレビでも宣伝をしていて、全国展開の店も、いくつかあるようだ。

 この坂巻グループの街では、さすがに他の会社が入り込む余地はなく。宅配は、一手に引き受けられていた。

 その分、会社も県全体を網羅していたが、坂巻グループの街の売り上げは、全体の三分の一を占めるに至っていた。

 配達員もかなりいて、ランチタイム前など、同じマンションに数人の配達員が重なることも珍しくなく、皆軽く挨拶をして、配達に勤しんでいるのだった。

 プラザコートにも利用客は結構いて、玄関で配達員同士鉢合わせなど、何度もあったことだった。

 このマンションは、比較的最初の頃にできたマンションだった。

 というのも、坂巻グループが進出してくる前から、ここに建っていた、数少ない既存マンションの一つで、そのせいか、オートロック形式のマンションではなかったのだ。

 新興住宅として後から坂巻住宅が建設したマンションは、オートロック完備になっていた。

 このマンションも、最近、坂巻グループが買収したこともあって、近々、オートロックに変える計画があるということだが、既存のマンションを変えるというのは、時間も手間のかかるようだ。今のところは、

「計画がある」

 という程度であったのだ。

 そんなプラザコートだから、配達員は楽だった。いちいち、入り口で呼び出して、ロックの解除をお願いするのは、結構鬱陶しいものだった。それがない分、配達員の間では、

「プラザコートは楽だよね」

 と言われていたのだった。

 この日、配達員の一人松岡君は、クーパーの依頼で、

「まず、ハンバーガーショップに受け取りに行って、それを注文者の届ける」

 という仕事をしている。

 実はこのやり方は、正直、今の時代に合っているものではない。

 言い方は悪いが、

「ひとつ前のやり方だ」

 と言ってもいいだろう。

 今の宅配というのは、スマホアプリでなんでもできる。

 配達員に指示を与える社員を、イーツ側で持たなくても、タクシーの配車サービスのようなもので、注文者、食事製造者、さらに配達員との間がマッチングし、活動している配達員にヒットすることで、うまく回っていくのだ。

 クーパーイーツは、そんなアプリを利用していない。

 これは、会長のこだわりであり、基本的に文明の最先端を運営するのが、坂巻グループであったが、たまに、このようなアナログ企業を残すことにしていた。

 これは気まぐれではなく。

「なんでもかんでも、アプリに頼った時、アナログのノウハウがなければ、もし、アプリがダウンしてしまった時に、つぶしが利かない」

 というのが、その理由であった。

 クーパーイーツはその方針に引っかかった業種の一つであり、敢えて、アナログ方式を起こしたやり方をしていた。

 だからといって、別に困るということはない。配車を人が行うというだけで、他は違いはないのだ。

 他の宅配からすれば、

「そこが命だ」

 と言いたいのだろうが、会長とすれば、

「それだけでは、安心を与えることはできない」

 という考え方になるのも、経営者としては当然のことだと思っていたのだ。

 だからこそ、上層部の役員も、会長を信じてついていっているのだ。その信頼感が、坂巻グループの強みであったのだ。

 クーパーイーツは、実は、宅配関係の会社が日本に入ってくるもっと前から存在していた。

 今から、15年くらい前から稼働していた。

 ネットスーパーのような会社は、生協をはじめとして、いくつかはあったが、実際にファミレスや、ファストフードのような店と提携して、製造と配達を分けるという画期的な発想を行っていた会社はほとんどなかっただろう。

 やはり、アプリを使わずに、アナログだけで運営するというのは結構大変で、人件費や通信手段など、結構大変なことも多い。

 必須なのは、アプリの中での配達員の、位置情報が問題だった。それさえ克服できれば、金のことを考えなければ、理屈として、この事業を立ち上げることができるのだ。

 最初はなかなか、個人情報漏洩などの観点もあって、なかなか認められなかったが、そのうちに、凶悪犯に対しての児童の問題なども相まって、GPSが発展することで、この事業も、次第に形にできるような計画が組まれていったのである。

 試験的にやってみると、結構いけるのが分かった。

 何しろ、どこもやっていない事業なので、独占できるというものだ。

 それこそ、彼らが参入した時は、ほそぼそであったが、しっかり利益は取れていた。そして、いずれブームが来ると分かっていたので、それをじっと待っていたというわけであった。

 今回、そんなクーパーイーツの配達員である松岡君は、エリア的に、このプラザコートへの配達も何度か担ったことのあるので、ベテランだともいえた。

「クーパーイーツもマニュアル型だけど、このマンションもいい加減古いよな。まあ、それで面倒なことはないのだが」

 と、いまだにオートロックでないことを、彼なりに考えていた。

 どっちもアナログだと思うと、自分の性格のようだと思わないでもない松岡君だったのだ。

 松岡君は、若いくせに、パソコンなどには結構弱かった。

 特にスマホのアプリなどは苦手中の苦手で、

「俺なら、他の宅配関係にはついていけないかも知れないな」

 と、本当は向こうの方が楽だと分かっていながら、馴染めないことで、あまり関わりたくないと思っているのも、無理もないことであった。

 松岡君が配達を頼んだのは、このマンションの5階に住む人で、有名なハンバーガーチェーンの注文だった。

「家族で食べるのか、それともカップルか、あるいは、ひょっとして人で食べるのか?」

 そんな興味は尽きなかった。

 このマンションには何度も配達に来ているが、法地に作られたマンションということで、この街には似たような構造が多いので、この街で育った人は、

「この建て方が当たり前だ」

 と思っている人もいるかも知れないが、そもそも、松岡は、大学進学でこの街にやってきたので、最近、この街の住民になったのだった、

 彼の大学は、この街にあった。

 というか、彼が専攻している工学部のキャンパスがこの街にあり、大学の敷地の半分が坂になっていた。

 しかも、この大学の創設者も、坂巻グループの一人であり、現学長も、坂巻グループだった。

 彼の大学キャンパスの中央に、総合受付のある一号館があるのだが、そこは正面玄関もかねていて、その入り口には、大きな額に飾られた、教訓のようなものが書かれていた。

 それは、初代学長が、ナポレオンの関係者が口にした教訓を日本語に訳したものを自分なりに解釈し、自分の言葉として表現したものだという。

「神なき知恵は、知恵ある悪魔を作るものなり」

 というものであった。

 つまり、

「神」

 というべき信念を持っていないモラルのない知恵は、悪魔の中でも、知恵を持った悪魔を作り出すということであり、

「どんなに科学が発展して、便利になったとしても、そこに神と思しきモラルや秩序がなければ、発展した科学を扱う人間は、悪魔でしかない」

 ということになるのだ。

 学生たちには、そんな悪魔にならないように、科学の発展とともに、人間育成が日露尾であるということを説いている。

「理性、モラルと科学の発展はセットである」

 ということなのだ。

 考えてみれば、そうではないか。

 今まで科学の発展というのは、平和利用というよりも、兵器として使用されることが多かった。原爆開発もしかりであるが、なんと言っても、松岡君が考えていたのは、ドイツの科学者である、

「フリッツ・ハーパー」

 こそ、この

「神なき知恵は、知恵ある悪魔を作るものなり」

 という言葉の、

「知恵ある悪魔」

 なのではないかということを考えているのだった。

 ドイツの物理化学者として、彼は、空気中の窒素からアンモニアを生成するという、

「ハーパーボッシュ法」

 と呼ばれる技術を使って、人間の危機的問題であった、食糧問題を解決したとされる。

 しかし、一歩では、第一次大戦中に、ドイツ軍に協力し、当時としては、最大の、

「大量殺りく兵器」

 と言われた、塩素を中心とした毒ガス開発を行った人物だった。

 彼の考え方としては、

「科学者と言えども、母国が戦争をしているのであるから、母国を守るために、協力を惜しまないのが、愛国心ではないか?」

 と思っていたのだ。

 だから、かたやハーパーボッシュ法で、人類を食糧問題から救いながらも、愛国心の名のもとに、毒ガスという大量殺りく兵器を生み出すのだから、

「どちらが本当の彼なのか?」

 ということである。

 ひょっとすると、ハーパーボッシュ法というのは、彼にとって、人類の未来というよりも、名声を得たいということと、自分の存在をアピールしたいがためだけの開発だったのかも知れない。

 人類のためなどというのは彼の中には微塵もなく、彼はそういう意味においても、

「神なき知恵」

 を持った、

「知恵ある悪魔」

 だったのかも知れないのだ。

 そんな彼のエピソードとしては、彼の奥さんである、クララは、ドイツで初の女性の博士号取得者であった。

 しかし、結婚後、彼女には家庭に入らせ、彼女の科学者としての信念や誇りを奪い、ただの主婦にしてしまったのだ。

 これは、ハーパーからすれば、自分の妻であろうと、自分よりも名声を持っていることを許さないということで、彼女の台頭を恐れたのかも知れないといえるのではないだろうか?

 それを考えると、ハーパーが、毒ガス開発をしていることにクララが意見をすると、聞く耳を持たなかったというのも分かる気がする。科学関係のことで口出しをされたくなかったのだ。特に奥さんではあっても、著名な科学者であるクララからは、奥さんからの苦言ではなく、科学者としての苦言だと思い、ライバルから言われている気がしたのではないだろうか。

 だからこそ、あそこまで固執したに違いない。

 クララはそれから少しして自殺した。

 夫の毒ガス開発に抗議しての自殺だとされたが、実際には、自分の科学者としての才能と、それを伸ばしたい本人の探求心とが、ジレンマとなり、毒ガス開発というよりも、科学者としての意地が、自殺に追い込んだのではないだろうか。

 だから、夫のハーパーも、奥さんは自殺したにも関わらず、毒ガス開発をやめないどころか、さらにドップリト開発に浸かっていくのである。

 科学者と科学者の、エゴのぶつかりあいが、最悪の自殺という形で表に出た。まわりも分かっていたのかも知れないが、ある意味美談として、

「夫の悪行に抗議して自らの命を絶った献身な奥さん」

 ということで、クララの名は残ったことだろう。

 確かに当時は、帝国主義社会であり、戦争が起こったことで、国のためということであれば、戦争に協力するのは、ドイツ民族として当たり前だという気持ちも分からなくもない。

 だから、彼の考えがすべて間違っているとは言えないところもある。

 原爆の投下についても、いまだに半分以上のアメリカ人が、

「正しかった」

 と思っている。

 それは、

「原爆を使うことで、早く戦争を終わらせることができ、アメリカ兵をこれ以上死なせることがなくなる」

 という大義名分があったからだ。

 ハーパーにも同じような考えがあったのかも知れない。相手が戦争継続をあきらめるくらいの打撃を与え、戦争をやめれば、お互いに無益な殺生をしないで済むという考えがあったとすれば、彼の考えも分かるというものだ。少し違うかも知れないが、

「死ぬということが分かっていても、少しでも長生きさせるための延命措置を行うのがいいのか悪いのか? 安楽死を許さないのが正義なのだろうか?」

 といういまだに答えの出ていないことと発想は同じなのではないだろうか?

 それを考えると、ハーパーの毒ガス研究がもたらした結果は悲惨であったが、考え方まで否定してもいいのだろうか? と考える、悪いのは、ハーパーなのか、それとも、戦争を起こしてしまった張本人なのか、これこそまるで、究極の選択をしているようではないだろうか?

 そんなハーパーは毒ガス開発を生涯後悔していないという。

 世の中には、いろいろな兵器を開発した人がいて、そんな彼らに、科学者としての責任を負わせようとする人がいる、確かに科学者というのは、開発したものに対しての責任があるだろう。

 日本の科学者の中には、

「開発をしてそれを実用化させるには、まずその効果同時にマイナス面もしっかり検証し、使用した場合のマイナス面をしっかり使用する人に説明するという、説明責任をともなっているという。説明責任を果たすことなく、責任から逃げた科学者は、その罪と罰に、それからの人生、ずっと苛まれ続けるのだ」

 という。

「それが科学者の科学者たるゆえんだ」

 とまでいう人もいるのだった。

 なぜなら、科学者にしか、メリットとデメリットを証明できる人はいないからで、

「知っていて、それを口にしないのは、犯罪者と同じだ」

 という理屈は、一般人なら、誰にでも分かるというものではないだろうか。

 逆に理解できない人は、それだけ、問題を抱えているということで、科学者の中にはそういう人は多いかも知れない。

 特に、自分の研究をなかなか認めてくれないと考えている科学者はいつも孤独であり、まわりは、いつでも敵になりうるという考えを持っていれば、それも仕方のないことなのかも知れない。

 自分も大学で工学の勉強をしていると、このあたりの倫理的問題は、うるさいくらいに講義では言われる。

 確かにその通りだと思うのだが、科学者としての気持ちになると、ハーパーや、オッペンハイマーなどの科学者の気持ちも分かるのだ。

 だが、開発したものに対して、最後まで責任を持たなかった科学者の末路というのは、次代に翻弄されることになってしまうのも、必至だったといえるだろう。

 初代学長の言いたいことはよく分かる。

 神というのは、抽象的な言い方だが、要するに、

「道徳的、倫理的なモラル」

 ということになるのだろう。

 それを持ち合わせていれば、使用する人間に対して、そのメリット、デメリットを示すことで、選択の幅を与え、言い方は悪いが、そこまですることで責任を全うしたといえるのではないだろうか。

 そこまでしていれば、まわりはきっと、彼が責任回避をしても、擁護する人間もいるだろう、何もしていないから、悪者にしかならないのだ。

 今でこそ、この考えは当たり前のことのように言われているが、当時の帝国主義時代であったり、軍国主義のような。自分たちから見れば、異常な精神状態の時代で、そこまで考える方が稀だったのかも知れない。

 何しろ、戦争に行って、敵前逃亡は、重大犯罪であったり、戦争に反対し、反対意見を口にしただけで、投獄され、拷問を受ける時代だったのだ。

 それも、戦争継続のための、戦意高揚という意味では、ある意味仕方のなかったことなのかも知れない。

 だが、本当にそうなのか?

「今後の歴史に今こそ考えなければいけない時ではないか?」

 という人がいるが、果たしてその通りではないかと、松岡君は考えていたのだった。

 戦争というのが、どこまで行っても、一度起こしてしまうと、決着は決してつくものではない。小競り合いでは着いた決着も、そのまま怨念となって、将来では、報復されかねないというのは、歴史が証明しているではないか。

 まあ、もっとも、次代が異常だったから、このような科学者が生まれたのかも知れない。彼らは純朴に、愛国心だけで動いていたのかも知れない。少なくとも、今の日本における、かつての無能で自分のことしか考えていなかったソーリ二人には、この当時の科学者の足元にも及ばないというのは、間違いのないことだろう。

 それを考えれば、

「自分たちが何をしなければいけないのか?」

 ということも、大学の講義では重要なことであるのだった。

 ただ、最近では、大学の講義も大切だが、もっとリアルな問題が起こっていた。パンデミックによって、アルバイトがなかなかできなくなり、金銭的に困窮してしまったことだ。

 田舎から出てきているので、そのための生活費と、学費を少しでも家族に負担を掛けられないに、今のようにバイトがないと困っていたところで、飛びついたのが、配送員の仕事だった。

 この仕事は、いくら配達してなんぼという世界だった。この街には、思ったよりも、需要が多いようだ。実際に、住宅街の割には、ファストフードの店や、弁当のお店とかも結構多い。たぶん新興住宅のため、作業員や、近くの事務所の人に需要があったのだろう。建設が終わったあたりも店を撤退させることなく営業していると、結構客が入っているようだ。

 それは、学校であったり、修行施設などがたくさんあるからで、住宅街そのものよりも、そこに隣接するいろいろな施設などの従業員のためというのが一般的なのだろう。

 おうち時間が増えると、学校も休校になったりする。親は仕事を休むわけにはいかないということで、子供の食事は必然的に、クーパーイーツになるのだ。

 学校が休校なのに、生徒が友達の家に行ったり、表で食事をするというのは本末転倒であり、学校からも厳しく言われていて、下手をすると、警察から職質があって、学校に通報されるということもあるだろう。

 学校もそのことは生徒や父兄に伝えている。当然、プリントにして、

「通知」

 という形で知らせているに違いない。

 そうなると、食事は、クーパーイーツに頼るしかないだろう。

 そんなこんなで、どうしても、需要は増えるのだ。

 ただ、この現象はこの街だけではないだろう。しかし、ここで言いたいのは、ファストフードの店を、開発が済んだ地域でも、閉鎖せずに残しておいたことが、元々どういうつもりだったのか分からないが、功を奏したといえるだろう。

 それを思うと、この街での、クーパーイーツの売り上げ、さらにファストフードの売り上げなどは、かなりあるに違いない。

 しかも、この街では、専門のお店、例えば、和食や中華、フランス料理の店など、品目、数量ともに限定ではあるが、

「宅配用」

 としてメニューを作成し、時短要請に対しての対策を、他の地域に先駆けて行っていたのだ。

 そんな噂を聞きつけて、テレビの取材などがあったことで、この街を、モデルケースにしようという話もあったくらいだ。

 そういう意味でも、今度のパンデミックは、全世界でも、日本中でも、この街でも、大きな痛手であったが、その痛手が一番少なかったのは、この街だったといえるだろう。

 だからこそ、

「やり方によっては、マイナスだってプラスにできる」

 という教訓として、モデルにしようとして、研究にやってきた自治体や、チェーン店の企画部の人などが取材にくることが多かったのだ。

 この街でも、せっかくの取材なので、快く引き受けた。

 今までは新興住宅ということで、ほそぼそとやっていた。しかし、時がくれば、街の宣伝を行っていこうとは思っていたのだ。

 ただ、その時は、そう簡単に訪れることはないだろうということで、余裕を持っていたが、意外な形で早めに訪れたのだ。

「この機を逃すことはない」

 ということで、世間の注目を浴びるためのいい機会ということで、取材にも積極的に受けることにしたのだ。

 もちろん、最初は、

「バックに坂巻グループがついている」

 などということは伏せていた。

 しかし、どうしても取材の中で、それを相手が指摘してくることもあったが、それをあえて否定するようなことはしなかった。むしろ、

「坂巻グループがついていてくれることで、体制が一元管理できるというメリットもあり、各会社間の横のつながりがうまく行き、情報伝達や共有がうまく機能し、今のような、一本筋が通った強い自治体になることができたんです」

 と宣伝した。

 確かに、金の流れなどを気にする人もいるだろうが、今は世界的に非常事態なのだ。そんなことを言っているよりも、成功例などをどんどん示し、パンデミック後の経済復興をいかに成し遂げるかということが大問題なのだ。

 今の政府は、医療にも経済にも中途半端で、

「二兎を追う者は一兎をも得ず」

 のたとえのように、どちらも成果を上げられず、国民の期待を裏切り続け、もう誰も政府など信用していないという状態になった。それこそ、政府の

「自業自得」

 なのである。

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