貴方に送るは黒い薔薇
@801kpuchuu
第1話
カラン グラスに入っている氷が揺れ表面に付いていた水滴が落ちる。それを一人坂口安吾は静かに眺めていた。久しぶりの休暇,馴染みだったbarそして彼の人達との思い出の場,もう安吾以外誰も来ない思い出の場。カランコロンとドアベルが鳴る音がし客が入って来る安吾は微塵も興味を示さない彼が来るわけがないから,しかし入ってきた客は席に付かず立ち止まっている。 もしかして一見の客だろうかと横目で見るとその人物と目が合った,合 っ て し ま っ た。 その人物は太宰治であった。 少しの間沈黙があり先に目を離したのは安吾だった。じゃあそろそろ帰りますそう言いお代をおき出口の方へ向かうそしてすれ違いざま 安吾,待ってるから。そう太宰から呟かれる。 その言葉はきっと安吾のこれからの人生を大きく左右するものだろう。場所の検討はもちろんついている。あの日太宰から告白された返事を安吾は未だに返せずにいる。 だかもう終わらせなければならない今夜あの場所で。
今夜はきっと来てくれると信じてたよ安吾。 待たせてすみません。 二人はとある人物の墓石の前に佇んでた。墓石の前には二つの花束が供えられていたが一つは黒い薔薇の花であった。 …正直僕には分からないです。何故貴方が僕にあんなことを言ったのかも全て,分からないんです。 つまりNOということかい? …はい,すみません。 まあそうなるとは思ってたし最初から安吾に拒否権なんて無いけどね。 え, だから強制的に付き合ってもらうよ安吾。ニコッ っ〜 その場から立ち去ろうとする安吾を太宰が許すわけもなく背後から抱き耳元で囁いた "置いていかないで" とても太宰とは思えぬ弱々しい声だったその声を聞いた安吾は太宰に向き直ると抱きしめ返し背中をさすった。 すみません貴方にそんな姿をさせたかった訳じゃないんです。僕にできる範囲なら付き合います。 じゃあ今夜一緒に寝てくれるかい。 ええ構いません。
(あの日から太宰君はしっかり睡眠がとれていない。化粧で隠せないほどのクマができている彼のことだきっと睡眠薬が効かないのだろう) ねぇ安吾。 何ですか? 今日会ってから一回も私の名前を言ってくれてないよね? えっ,(無意識だったのだろうか…否違う心の中では呼んでいた。つまり自分の本能的に言うのを拒んでいたのだろう)僕なんかが貴方の名前を言える権利なんて無いあの日のようにはもう呼べないんです。 なら私が呼んでって言っても呼んでくれないの? いえさっきも言ったとおり僕にできる範囲でなら何でもしますよ。 じゃあ呼んで,あの日みたいに。 …だ,太宰君。 うん,もう一回。 太宰君。 後は私が眠るまで慰めて。 はい。 そうして太宰君は十分も経たないうちに眠りについた。 僕はその寝顔を見てある事を思い出したあぁ彼はまだ子供なのだと普段から酒を嗜みさらにポートマフィアの幹部であったこともあり故に忘れていた。不意に視界が歪みそれが落ちるのをぐっと堪え顔をあげると,開いた窓から霞一つ無い綺麗な満月が覗いていた。 その綺麗さに思わず見とれていると隣から泣き声が聞こえてきた ヒック…もう置いていかないで,一人にしないでよッ 太宰君…大丈夫,大丈夫ですから 安,ご? はいそうです安吾です。 安吾は,私のこと置いていかなぃ? えぇ置いていきませんよ。 ずっと一緒に居てくれるの? 勿論です。 そっかあ…ありがとう。 そして安吾の手を握りまた眠りに落ちていった。っ〜ありがとうなんて,言わないでください…。 安吾はその手を握り返すことができなかった。
貴方に送るは黒い薔薇 @801kpuchuu
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