また明日、

emakaw

第一章 すべての始まり

 朝から憂鬱な気分だった。別にそれにはなんの理由もなかったが、とにかく憂鬱だった。

「咲莉、いってらっしゃい。気をつけてねー」

お母さんの声が聞こえた。なんとなく適当に返事をした。

 今は学校で友達の真由と話している。今日の話題は好きな人についてだ。真由は恋愛には目がないタイプなのでずっと喋っていた。私はそういうことには疎いので適当に頷いていた。

「あ、チャイムなっちゃった。咲莉、またねー」

 朝の会が始まる。

「咲莉さん、次の休み時間に先生のところに来てください。」

なんだ?私はここ最近悪いことをした記憶はない。呼び出されるようなことしたかな…。

「先生、なんですか?」

「うーん…ちょっと廊下に来い。大事な話なんだ」

えっ?大事な話?とりあえず廊下に行った。

「えっと…ショックかもしれないが、聞いてくれ」

「そんなにショックなことなんですか?ちょっと、心の準備が…。……は、はい。なんでしょうか」

「……………お母さんが……………」

「お母さんが?」

「お母さんが…その…お亡くなりに…なったそうだ」

「…えっ?誰のですか?わ、私の?」

「……そう…だ」

なんで、なんでなんでなんで…お母さん…お母さん…!

 声を上げることもできなかった。ただ、私の頬をぼろぼろと涙が落ちていくだけだった。

「お母さん…。先生、嘘って言ってください。嘘でしょ、嘘でしょう?」

「…」

先生はただ黙っていた。なにか言ってよ…。

「辛かったら保健室行くか?」

「…はい」

言われるがまま保健室に行った。

「咲莉さん?話は聞いたよ。辛かったでしょう?ゆっくり休んでね」

「ありがとうございます」

 次の休み時間には保健室に真由が来た。余計なお世話だ。なんで言ったんだ。先生ひどい…。

「えっと…。咲莉、大丈夫?分かるよ、咲莉の気持ち」

「………真由には分かんないじゃん、私の気持ちなんて。嘘つかないで。分かるわけないじゃん!」

「咲莉…」

「…ごめんなさい」

 真由にはひどいことを言ってしまった。真由なりに頑張っていたんだと思う。

ずっと泣いてばかりいたからか、睡魔が襲ってくる。

「…先生、ベッド借りていいですか」

「いいよ。疲れてるでしょ?ゆっくり休んでね」

「ありがとうございます」

ベッドに横になってすぐ眠りに落ちた。

 気づいたら帰る時間になっていた。

「咲莉、辛かったね」

嫌なほど聞いたこの言葉。みんな適当に言ってるくせに。私の気持ちが分かるわけないのに。

「一緒に帰らない?…えっと、咲莉……ちゃん?」

坂野友樹(ともき)だった。別にそこまでかっこいいわけでもないし、不細工なわけでもない、普通の人間だった。

「別にいいよ。あと、咲莉でいいよ」

「ありがと、咲莉」

 飽き飽きとするほど歩いた通学路。でもなんだかいつもとは違って見える。そうか、影が二つあるから。いつも一人で歩いていたから。

「あのさ、咲莉。僕、お父さんが癌でさ…その、いつ死んでもおかしくないんだ」

急に喋りだしたからびっくりしたが、まあとりあえず

「ふーん。そうなの?」

とだけ言っておいた。

「よかった。今の咲莉ならそんなに驚かないだろうなって。ずっと誰かに言いたかったんだ。でも言っても変に共感されて最悪な気持ちになるんだ」

「…私を…信じてくれたって…こと?」

「…まあ、そういうこと」

「友樹くん、明日も…これからも一緒に帰ろ?」

彼となら打ち解けることができる気がした。彼とならずっと話していられると思った。

「別にいいよ」

まるで他人事のように彼は言った。

「ありがと」

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