第72話 ふたりの
ちらりと私に目配せをする美心。私は頷いた。美心が遙華、ゲドウツクルであるということが知られたところで特に問題もない。秋葉は信用できる。
美心が頷き返し、秋葉に答える。
「......そ、そうだよ。え、知ってるの、あたしのこと?」
ジッと顔を見つめる秋葉。
「うん、まあ。でも、顔は似てはいないのにゃ」
「記憶があるだけで別人だからね、あはは......」
そっかあ、と良い秋葉は微笑んだ。なんだ?どうした?
「いやね、昔生でライブを聴いたことあったんよ。うちのお父さんがゲドウツクルの歌ってみたが好きでねえ。家とか、車とかで一緒に......ずっと聴いてたんにゃあ。それで一人ライブに行ったことがあるにゃ」
秋葉は懐かしむように口元を綻ばせる。
「だから、美心の生まれ変わりの話を聞いてもしかしてと思ったんだぁ。歌い方が凄くそっくりだったしさぁーあ。ほら、ブレスのタイミングが独特だしね」
私以外にも気がつく人が居たのか......。
「好きな歌い手さんが私の娘になるとか、ホントに何が起こるかわからない世の中にゃ」
「まあ、ね......」
「あはは、は」
偶然なのか必然なのか。奇跡のような出会いばかり。もしこれを夢の中の出来事でした、なんて言われたら......ああ、やっぱりかぁ。と腑に落ちてしまうほどに、今の私は幸せだ。
「ところで倫」
「ん?」
「ひとつ報告があるにゃ」
「なに?改まって......」
「まあ、特に気にする必要はないかもだけど.......スレの人間にも美心がゲドウツクルの生まれ変わりだと言っている人がいたにゃ」
「「!?」」
「適当かもしれないけど、一応伝えておくにゃん。コテハンも無かったから誰なのかわからなにゃいけども」
「......そっか。まあ、似てるからってだけでそう書き込んだ可能性もあるからな」
「たしかに」
美心がじーっと秋葉を見つめている。
「一応聞くけど、パパは転生してないよね......?」
「!?」
え?みたいな怪訝な表情の秋葉。
「あ、いやママも転生者だから」
「!!?」
ぶっ込むねえ、美心たん。......あれ、そういや私、これバレて大丈夫か?美心は性別変わらずだけど、私は元男なんだが。
「マジかにゃ!?」
「あー......うん。ちなみに元男なんだよね。ごめん」
「お、お、男......!?」
目をまんまるに見開く秋葉。あ、これ......我々の友情にヒビが――
「TSじゃねーかっ!!!リアルTS始めてみたにゃー!!すごいにゃああーー!!」
――入らなかったようでなにより。なんか興奮してるんだが。怖いんだが。
「いやぁ、にゃんでしょうねえ!元々可愛いとは思っていたけど、元が男の子だと思うと余計に可愛く見えて来てしまうのはぁ!!」
「のわっ!?唐突に頭をナデナデするなっ!!」
「ちょ!ママといちゃいちゃしないでよパパ!!はい、バリア!!だめだめ、お触り禁止ですよ!」
「ちぃ......ガードが硬いっ!!」
ナデナデとか......初対面の時を思い出すな。あの時は秋葉だとは思っていなかったけど。
つか、元男はさすがに嫌われるかと思ったけど、そんなことも無かったな。
まあ、元男といっても今は完全に女なんだが。お湯被ったら男になるわけでもないし。
「秋葉、そろそろ時間じゃないか?」
私が聞くと秋葉が携帯の時計を見た。
「あらほんと。撤収せねば!」
「あ、おいくら?」
美心が食事代を気にする。
「あ、娘ここは私がだすにゃ。コミケの打ち上げは私がだす決まりなのにゃ」
「え、そーなの」
「うん、そーなの。パパにあまえよーぜ」
「そっか。わかった」
美心がにんまりと微笑み、秋葉に言う。
「ありがとう、パパ。ごちそうさま」
「......こちらこそ、ごちそうさまだにゃあ」
「なにが!?」
◆◇◆◇◆
「あ、ども」
待ち合わせの場所、もとい秋葉の泊まるホテル前にいた蓮華。彼女はこちらに気が付き、小さく右手をあげた。
「やほー蓮華ちゃん!」
「......こんばんは」
「こんばんはー!」
蓮華が「あ」と秋葉に気がつく。
「こんばんは、初めまして......私、天羽リンネの西野蓮華と言います。あなたが秋葉さんですよね?モデリングしてくださった」
「うんうん!私が秋葉だよ、初めまして!」
「とても素敵な子に仕上げていただいてありがとうございます!ずっと会ってお礼が言いたくて......」
ぺこぺこと頭を下げる蓮華。真面目で良い子なんだよなぁ、とこういう時私はいつも思う。
「うんにゃあ、こちらこそにゃ!蓮華さんの力になれて嬉しいにゃ!よければ仲良くしてほしいにゃ」
「ん、?......はい、是非......仲良く、しましょう。にゃ?」
「「!?」」
語尾が移った!?
「どーした蓮華!?なぜ猫語を!?」
「可愛いな蓮華ちゃん!!」
「え!?え、え?だって、秋葉さんがニャンニャン言ってるから、そういう流れなのかなって......!違うの!?」
「いやそいつは酔うとそういう口調になるだけだぞ。でも可愛いからいんじゃないかな!」
可愛ければオッケーオッケー!
そんな感じでカァーっと顔を赤らめる蓮華をなだめながら我々は秋葉の部屋へと向かうのであった。
配信のネタにでもして逞しく生きてくれ、リンネ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます