第65話 鈍感力
打ち上げ花火の火薬の匂い。終わりを迎えた祭りのメインは、残り香をおいて闇に消えた。
私達は、屋台をめ巡り目的のりんご飴を探す。繋いだ手がなんども離れそうになるが、そのたびに互いに引き寄せる。
あの頃よりも強い力で。
「あ、たこ焼きはっけーん!ママ、たべよーぜぃ」
「ん。了解」
購入したたこ焼き二つを近場の木陰で食べる事に。私のは出汁醤油で美心のはネギ塩味。
「いただきまーす!」
「いただきます」
はふはふとたこ焼きを頬張る。美味え。久しぶりに食べたからか、異様に美味え。
「はい、ママ。あーんして」
「え。......あーん」
差し出されたたこ焼きを言われるがまま食らいつく。大きいから一口では食べきれないから、その間ずっと美心がたこ焼きを持っていてくれていた。なにこれ餌付け?
「むぐ......ありがと」
「ふひっひぃ!いえいえ〜。それじゃああたしにも頂戴な〜」
「ん。はい、あーん......」
美心の小さなお口。艶のある綺麗な唇。......私のおでこにはこの唇が触れたんだよな。そう思うと変に意識してまうな。
「えっと......ママ、はやく食べさせてよ。はずいんだけど」
「あ、すまん。はい、あーん」
パクリと食らいつく美心。あむあむと食べるその様は私の何かを刺激する。なんだろう、これ......妙な気分になる。
「んむ、んむ......ごちそーさまっ、ありがとうママ。美味しかった」
「そっか。そりゃ良かった」
「?、ママ、なんで顔が赤いんですか?」
「え......わからん」
「ええっ」
風邪かな?と私の額に触れる美心。......これは現実なのか?もしかして、夢だったりはしないのだろうか。怖いくらいに幸せだ。
姿形は違うけど、目の前にいるのはかつて愛した人で転生前には満足に出来なかったデートをしている。
(あの頃はお互い忙しくて......日帰りで、僅かな時間しか共有できなかった)
ああ、本当に......幸せだ。あの頃とは違って、たくさんの仲間と最愛の人が側に居てくれて、仕事も楽しい。
あの時、自分から動き出して良かった。無謀といわれようと挑戦して良かった。
ちょいちょい、と袖を引く美心。
「ママ、大丈夫?具合悪いの?......お家帰る?」
「いや、大丈夫。ちょっと転生前を思い出してた」
「おお、転生前!太郎くんの時のことかぁ〜!ふふっ」
「?、なんで笑ったの?」
「今とは全然違うからさぁ。太郎くんは背が高かったけど、ママは小さいし。対極的だなって思ってさ」
「確かに。背はもう少し欲しかったな。美心くらいは欲しかった」
「え、そーなの?このサイズも小さくて可愛いですけど」
「そう?たまに中学生くらいに間違われて補導されたりして困るんだが」
「ぶふっ!あははは、そっかぁ!その身長と童顔なら子供と間違われるね!あははは」
ば、爆笑してる......。
「笑い事じゃねえよ。一人で出歩くのも場所によっては大変なんだから」
「でも基本引きこもりでしょママ」
「いやまあ、そうだけど......あれ、打ち明けたとたん心なしか好戦的じゃね?あなた」
「そんなことないもーん。ふひひ」
なんかSっ気が出てきてるような。
「ところでさ、蓮華がデビューしたわけだけど......美心はどう思ってるの?」
「へ?そりゃあ嬉しいよ?なんでぇ?」
「姉的には不安な部分も大きいのかと思ってさ。ほら、アンチとか......蓮華、メンタル病んでるから心配じゃないの?」
「あー、確かに」
「美心は元々、歌い手でそういうの相手にしてきただろうし、対処法も自分なりにあるだろうから大丈夫だと思うけど、蓮華は下手したら再起不能になりそうだよね」
「そう?あたしは大丈夫だと思うけどね」
「ほう。そんなにヤワじゃないってこと?」
「ううん。側に支えてくれる人がいるからさ」
「支えてくれる人?恋人でもできたの?蓮華」
支えてくれる人ができたってのは大きいな。精神面を病みやすいVTuberは同期や仲間たちと支えあってやっていくしか無い。
「そっか......あ、でもそれリスナーに知られたら大変だから気をつけるように言っといてね」
「え、そうなんですか?リスナーに知られたら大変なの?」
「そりゃ好きなVTuberに男がいたら嫌になるリスナーもいるでしょ」
「まあ、そうだね。でも男じゃないし」
「え、女の子なの?」
「半分?」
「半分!?」
ケタケタと笑う美心。あれれー、おっかしいぞー。これ、私騙されてる?からかわれてる系か?
「なにわろてんねん」
「いやいや、だって!全然気が付かないんだもん!おっかしいなあ!あははは」
「......身近な奴?」
「身近な奴!あと鈍感な奴!くくっ」
「鈍感で身近な、って......まさか、私か?」
「せいっかい!!今はもうママがいるから大丈夫だよ」
「いやいや、私にできることなんて少ないから」
「そう思ってるのはママだけなんだよね」
「いやいや」
「実際、ママが背中を押してあげたから蓮華ちゃんは会社を辞めれたんだよ?ママの事信頼してるんだよ、蓮華ちゃん。それがあの子の中で支えにもなってる」
「......そうなの?」
「そうだよ。あたしの妹、よろしくね......ママ」
「そういわれると......まあ、私の娘でもあるからな」
大切な人であるに変わりはない。だから、まあ安心して寄り掛かれるくらいにはなんとかならないとな。私も。
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