第38話 二人の距離。
「いや、浮気って......あれ?帰るってDMで書いてなかった?」
「だから帰ってきたんだし!」
いやワシのウチかーい!!まあ、美心のウチと言ってもあながち間違いではないが!!
「ごめん......でも、あれじゃない?今までえまちゃんと一緒に居たんだよね?あの子の部屋で待ってれば良かったんじゃ」
「......えまさん、ここまで来て急にどっか行っちゃったんだもん。ママと一緒かと思ったけど?違うの?」
ぶっすぅ、と珍しい怒りの表情を浮かべる美心。.......ん?これって、なに?
「違う。あ.......え?だから、浮気.......えまちゃんとってこと?」
ハッと目を見開く美心。
「ま、まあ、ママがどこで何しようが関係ないですけどねっ!!」
ぷいっ、とそっぽ向く美心。あらあらまあまあ。
「もしかして、嫉妬してたのか」
「し・て・な・い・っ!」
キッ!とこちらを睨む美心さん。
ええっ、なにこの子かわよ。ふと先程の橋田さんとの食事を思い出す。酔いもあって、美心がちょっとそっけなかったりする節があることを相談した際のこと。
『それはあれだよ、美心さんえまさんに岡りんとられちゃうんじゃないかって警戒したんだよ〜!』
『......とられる?』
『ほらほら、えまさんとは古くからの付き合いでしょう?』
『いや、といってもそれほど深い付き合いでもないけど』
『でもでも、そんな事美心さんにわかるわけないじゃない。二人の関係、気になってると思うよ〜美心さん』
『そうかな』
『そーだよ』
......そーなのかな。
「美心、とりあえずお部屋いこう」
「ん」
美心は不服そうに頷く。......ストレス溜まってたのかな。こんな美心はじめてみた。拗ねてるところ悪いけど、こういう美心も新鮮で可愛いな。
(......前世では23だったっけ。でも、肉体に精神年齢は引っ張られるんだろう。私もそうだった......中、高校生の頃、前世では耐えられた事も耐えられなかったし......)
ふと、気がつく。
(いや、けど前世でも甘えん坊なトコあったよな。遙華......くくっ)
前世の彼女も、今の彼女も変わらず愛おしく可愛い。
(......って、え?)
その時、するりと左手に美心の手が絡んだ。
「美心さん......?」
「お酒の匂い、する......転ぶと危ないでしょ。手を繋いであげます」
ぷいっ、と再び顔を背ける。
「だ、大丈夫だよ美心、そんなに飲んでないし」
「いーーーのぉっ!ほら行くよっ!」
か、かわええええああああばばばば!
つんつんしてる美心可愛すぎんか!?
機嫌の悪さが表情にでて、目つきが鋭くなっているのも可愛い!ぎゅうっと握りしめる手の力強さ、ぐいぐい引っ張る強引さ......やだ惚れちゃう!!(いや既に惚れてる〜いうて!)
エレベーターのボタンを押してくれる美心。手は依然繋いだままで、彼女の体温を感じる。あと柔けえ。
......転生前は、あまり手を繋ぐこともなかった。遠距離でお互い忙しくて、会う機会自体がなくて......でも、一緒に出掛けた時はいつも私が手を引いて歩いてた。
美心の横顔に彼女の面影を重ねる。
あの頃を思い出す。
また、佐藤太郎として西野遙華と話がしたい。
けれど、岡部と美心との関係が崩れるのが怖い。
それにより、もし彼女を失うことになれば......私はおそらく再起不能になる。
(......だったらこのままでいるほうが、ずっと良い)
いつもより少し遅いエレベーターの到着音が鳴り、扉が開く。無言のまま乗り込み、扉が閉まる。
――ぎゅう。
「......え」
香水なのかシャンプーなのか。ふわりと美心の良い匂いが鼻腔をくすぐる。
腰に回される美心の細い腕、密着する体。
......ハグされとる。
(......美心がえまちゃんに嫉妬してるとしたら、これはあの時のハグ......に対してのあれか。ずるい!あたしも!って事か)
「美心さん......大丈夫?」
「エレベーターの揺れで転んだらあぶないから」
このマンションのエレベーターに揺れを感じた事はないが、まあそういう事にしておこう。
そんなこんなで超甘えん坊モードに入った美心の頭をなでなでしていると、私の部屋の階に到着した。
「ついたよ」
「ん」
部屋の扉を開きつつ、考える。これ、もう今日はウチ泊めた方がいいかな。美心のお母さんには前会った時に、ウチに泊まることがあるかもしれないと話はしてある。
(メールしとかなきゃ......)
「ママ、お手て洗いますよ」「あ、はい」
めっちゃ介護されるやん。
「あ、手を洗うから......」
「わかった」
意外とあっさり繋いだ手を放してくれた美心。もしかしたら片手ずつ洗わされるかと思ってたけど、流石にそんな事なかった。
そう思っているのも束の間。美心は後ろから腰に手を回してきた。......甘えん坊過ぎる。ぎゅ~っと抱きしめてくる美心。可愛いけど、心配になってきた。
私、こんなになるほど寂しがらせていたのかな。
「......終わったよ、美心。はい、次美心の番だよ」
「ん」
美心が手を洗いだす。つーん、とした表情でしきりに鏡でこちらをちらちら見てくる。
「どこも行かないから大丈夫だよ。......てか、今日泊まってく?」
「ん」
美心は頷いた。
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