第29話 来訪者
「あ、もしもし、美心?」
『あ、はい、美心です。メール見ましたよ』
「ありがとう。ごめん、忙しかったかな」
――時刻は23:11。
『いえ、ティッシュに広告の紙いれてたので大丈夫ですよ』
「広告の紙?」
『あ、内職です。あははは......』
あー、内職か。......早く収益化させてあげたいな。
『――おねえちゃん誰とお話してるのー?』
電話の向こう。可愛らしい声が聞こえた。
『お姉ちゃんのお友達だよ。静かにしててね――......すみませんママ、妹です』
「あー、妹ちゃんか」
確か二人いるんだよな。蓮華さんあわせて三人か......すげえな。
再び電話口から『ママならあっちよー』と妹ちゃんの声が聞こえる。
『だーめ、ほら「しーっ」だよ』と妹ちゃんに言う美心。
「あはは、いいよいいよ」
『ホント、すみません。あ、あのコラボの話ですよね』
「うん。......いくらなんでも急過ぎるよね。あれならまたの機会でって言う手もあるけど」
ただ、それはあまりオススメできないけど。
『いえ、やります。今を逃せば今度いつになるかわかりません......それにこの期を逃せば次は無いかも』
そう。相手が人気VTuberな以上、次があるなんて思わない方がいい。
えまちゃんはああ言って約束してくれたけど、相手は大手VTuber事務所所属の売れっ子タレント。
企業である以上、利益優先、他に有益な相手がいたらマネージャーは簡単にそちらへ舵をきるだろう。私らの約束なんてあってないようなもの......そういう風に思っといたほうが良い。
「ん、だね。わかった......了解って返事しとくよ」
『ありがとうございます』
「あ、それと」
『はい?』
「コラボで何をするか決めるためにえまちゃんに連絡してくれるかな」
『......わ、わかりました』
また......これは緊張なのか?
「どした?もしかして、えまちゃんの事苦手?」
『いえ、そうでは無いんですけど......えっと、なんでも無いです』
いや何でもあるやろがーい!けれど、聞いても教えてくれないってことは聞かれたくないのかな?
んーむ、ようわからんな。まあ、言いたくなったら言うでしょ。
「そっか。まあ、何かあったら言ってよ。出来る限りのことはするからさ」
『......はい』
んんん?な、なんか心無しかムッとしてないか?なぁぜなぁぜ?
『あ、そろそろ......妹をいい加減寝かせなきゃ』
「あ、ごめんごめん、遅くに悪かったね」
『いえ、こちらこそありがとうございました!おやすみなさい!』
「あい、おやすみーっ」
え......なんだろう。心無しか冷たいの。なぁぜなぁぜ?
ふと美心の配信部屋が目に入る。んー、しっかし早いもんだよね、もうチャンネル登録者15万人突破とか。ふつーは大手の箱とかに入ってないと数年かかりそーなレベルだろ、これ。
スレ民と美心の力だな。あとパパとか。......いや、関わってくれたリスナーやSNSで広めてくれた全ての人のお陰か。
(......アリスは皆に愛されてここまで来たんだな。すげえなあ)
目を閉じうんうんと頷く私。その時ふと思い出した事があった。
「あれ?......そういや、一万突破でお絵描きとかなんとか言ってなかったっけか?」
確か、初期の方でそんな話題が出ていたような気が。後でアーカイブ見直しとくか。せっかくあいつらがやってくれって言ってるんだから、やったげたほうが良いよね。
お絵描き......美心は絵は描けないっていってたけど、どんな感じなんだろうか。画伯なのか、はたまた謙遜していただけで超絶上手いのか。
「乞うご期待だな。とりま話はしとかないと......」
記念配信、か。あれ、そーいえば私、美心に......
――ピンポーン。
「!?」
ドキリと心臓がとぶように跳ねた。
(ええええっ!!?)
バッ、と時計を確認すると0:13が示されていた。
だ、誰よ!?こんな時間に......マジで怖いんだがっ!?
バクバクとおさまらない動悸、若干震える手と動けそうにも無い脚。
(こ、怖い......)
実のところ護身術は前世で修得済みで、戦えるっちゃあ戦える力はあったりする。けれど今は小柄な女性。この体で太刀打ちできるか不安すぎるし、何より心が立ち向かえそうにない......!
なんだろうな、やっぱり女性になってからというもの基本は前世と同じ思考で動けるんだけど、本能的なものに関しては肉体に依存してるみたいで、そう、だから......今のこの状況が鬼怖い!!
ちなみに一度満員電車に前世的なノリで乗ってみたら痴漢の気配を感じて途中で怖くなり降りてしまったという事もあった。あれはマジで怖かった......全員敵に見えたわ。あと気分悪くなった。
って、いや違う!今はこの深夜の来訪者!
ぴくりとも動けずに固まっている事、30秒位が経過した頃。
『......り、倫ちゃぁん......居ないのぉっ』
聞き覚えのある声が扉の向こうからした。
「えまちゃん......?」
いや事前に連絡よこせや!と思ってしまったが、PCを横目で見れば.......あら不思議!通知が届いているではありませんか。
やべえ、考え事してたから......集中してまた周り見えてなかった。
「ごめん、えまちゃん!今開ける!」
いやあ、えまちゃんで良かったぁ。ちびるかと思ったぁ。
......てか、なんでこんな時間に?
私はロックを外した。
――ウィイーン......ガチャン
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