第11話 歌
初配信、同時接続数14人。チャンネル登録者数14人。
配信切り忘れという事故がありながらもなんとか成功をおさめたアリスの初配信は、それも含め美心の魅力を多く引き出せたモノとなったように思う。
そしてその次の日、初配信から切り取られたと思われる切り抜きがおそらくはスレ民の手により制作され放たれた。その成果、登録者は56人にまで増える。
そしてその後、ママである私とパパである秋葉の手により描かれたFAの拡散によりさらにその数字は伸び、あの初配信から数週間が経った今では登録者は106人までになった。
(......かなりいい感じだ)
個人勢としてはかなりのスピードの伸びをみせている。ここからまた更にshortを活用して爆発的にバズらせたい。
「美心、登録者100人越えたね」
携帯から横に座る美心に目を移し、教科書とノートを広げ勉強している彼女に私は声を掛けた。
「う?」
グロッキーな表情でこちらを見る彼女。
「あ、ここの答え違うよ」
ついでに発見したミスを指差し指摘する。
「うあああああ!!!」
「うおっ!?」
絶叫し机に勢いよく突っ伏す美心。やべえ!?パーメットスコアが急上昇したか!?
「み、美心大丈夫か!?」
「いやだあ、勉強もういやぁ!......配信が、配信したいよぉ......!!」
「頑張れ、もう少しだけ!ほら、赤点とったらまたリスナーに笑われるぞ!二日前みたいに玩具にされるのは嫌だろ!」
「......ううぅう、ネタになるならそれも良し......」
「くそ、立派なVTuberになりやがって......良い心意気だが、でも勉強から逃げるな」
「逃げちゃだめだ、逃げちゃ(ry」
頭を抱えぶつぶつ言い出す美心。こええよ。これはちょっと休憩させた方が良いな。
「と、とりあえず冷たいお茶だすから休憩したら?」
「......あい」
冷蔵庫から麦茶の入ったポットを取り出す。それを透明なグラスにそそぎ、「氷はいるかい?」と聞く。
「あ、ひとつだけお願いします、ママ」
「あいよー」
冷や冷やの麦茶をコースターと共に美心の目の前に差し出す。すると彼女は先程の暗い顔とはうってかわりにんまりとそれを飲みだした。
「美味しいです、ママ!ありがとうございます!」
「ん。良かった」
カラン、と溶けた氷が崩れ底に落ちる。私も飲み干したグラスにもなにかつごうと再び冷蔵庫をあける。
「そういえばママ」
「ん?」
「VTuberは特化型が伸びるって言ってたじゃないですか」
「ん、ああ、言ったね」
「あたしもそろそろ方向性を決めた方が良いですかね」
「んー、どうかな」
「?」
「いや、美心はかなり早いペースで伸びてるからどうなんだろうと思って。スレの人間が切り抜きやPwitterやSNSで宣伝してくれているのもあるだろうけど、美心自身のキャラがウケている可能性が高いから......無理に特化させないほうが良いのかなって」
良くも悪くも特化型はリスナーを限定してしまう。それによってこのままいって得られたはずのリスナーを逃してしまえば特化にする意味は無い。むしろマイナスだ。
「ふんふん、なるほど」
「美心はどう思う?」
「いえ、あたしも伸び的にいい感じなのでこのまま行きたいかなって。特化型の路線が良いとママが言うならそちらで考えようと思っただけなので」
「私が言うならって、私の言う事が絶対正しいって訳じゃないぞ」
「そーなんですか?」
「そりゃそうだよ」
ポカーンと目を丸くする美心。いやどういう表情やねん。
「......ちなみに特化にするとしたら、何にするつもりだった?」
「んー、お料理とか?」
「あれ、美心料理できたっけ?」
「できません!」
どやあっ、と謎のドヤ顔を見せつける美心。いやどういう表情やねん。
「そこはママのお力で、教えていただいてあたしの料理スキルを成長させていくコンテンツ的なやつにしようかなと!」
「なんという他力本願」
「ふひひひ」
しかし料理系は伸びるんだよな。VTuberは知らないけど、YooTuberではかなり伸びてる印象がある。
「でも確かにshortとかにしやすいジャンルではあるよね」
「でしょ!あたしよく見ちゃうんですよね、美味しそうな料理のshort動画!短いから次々と見ちゃってお腹すいちゃうっていう」
「食いしん坊め。てか、絶対それ美心が色々食べられるからやりたいっていう下心あるだろ」
「ぎ、ぎくぅ......!!」
口で「ぎくぅ」言うな口で!はあ、と私はため息をつく。しかし、確かに料理は良い。問題はそのレパートリー。私は決して料理研究家ではないし、この子に作ってあげた料理は全てYooTuberのレシピを元にしたものだ。
スレにそういうのに強い人いれば良いんだけど。主婦の方とか。今度聞いてみるか......まあ、そう都合よくいないと思うけど。
「まあ、その話は後々考えよう。案としては良いから」
「おお」
「他にはどう?何かある?」
「他......やっぱり歌ですかね」
「歌、か」
そういや美心の歌聞いたこと無かったな。けど自分から歌を出してくるということはそれなりに自信があるという事......上手いんだろうな。それにこの魅力ある声なら集客も期待出来る。
考え込む私に美心が声を掛けてくる。
「......歌は難しいですかね?」
「んー。いや、美心の声なら特徴的で魅力もあるしイケる気はする。それよかMIXとか出来る人を探さなきゃな〜って思ってさ」
「......MIX?」
「うん、MIX。音量や音圧、音程の調整をしてくれる人を見つけないと」
「ふむふむ。でもライブで生歌歌ってる人もいるじゃないですか。あれはダメなんですか?」
「ダメではないけど、あれは歌唱スキルに自信のある人かそれなりに登録者数のいるVTuberが許される配信で......って認識なんだけど。美心、やりたいの?」
逆に言えば上手ければ登録者が増えるコンテンツではある。そしてshortにもしやすく、それにより手っ取り早く、広く多くのユーザーに存在を知ってもらえる強力な武器にもなる。
「歌には自信があります」
美心はうなずいた。
「......何が歌いたい?」
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