第10話 祝!初配信! 【牧瀬美心 視点】



――ふぅ。と、深く息をつき、あたしは手元のマウスをなぞる。



(あと三分で配信がスタートする......)


さっきまでは大丈夫だと思っていたんだけど......うう。緊張してきたあーっ!!やばいいい!!


刻々と消えていく時計の秒数。


これあれだ!献血のときに土壇場になって恐怖心が爆発するあれに似ているッ!!絶対いまあたし顔真っ青なんですけど!バイトの面接よりこわいいい!!


ヤバいよ!これ絶対最初噛む!!噛む自信しかないよ!!


でも落ちけあたし!献血が怖いのは針を刺す瞬間だけなんだよ!そう、針さえ刺してしまえばあとは怖いことなんかない!!むしろ血を採られている間はスッキリするまである......いや、あたしだけか?あの気持ちよさは?もしくはストレスからの開放で開放感があれになってあれなのか?んんん〜わからんっ、て......


なんの話ししてーんだいッッ!!!


あまりの緊張にあたしは心の中で自分への強烈なツッコミをいれていた。そして気がつく。


はっ、と画面に目を向ける。すると配信開始まで残り時間が一分に差し迫った現実だけが示されていた。


(はわわわわわ......怖いッ、怖すぎるぅ)


ひと、ひと、ひとおおおお!と右のてのひらに指先で「人」の字をなぞり、ごくりと飲み込む。しかしどう考えても気休めになるはずもなく......これ考えた人は喰種《グール》かなにかなの?人喰って落ち着くとかなくない?


「......やっぱり、いきなり過ぎたかな」


胸に詰まる息を吐き出すように弱音が出た。スレ民が言っていた言葉に今日配信することが間違えな気がしてくる。もっと準備もしてイメージして、万全な体制で臨んだほうがよかったんじゃないか、と。


(いや......違う)


まずは始めること。一歩を踏み出すことが大切なんだ。


ママは言っていた。失敗しても大丈夫だと。そこから学んでいくことが一番大切なんだって。


あたしもそう思う。いくらイメージしたところで実際にやってみなければわからないことなんていくらでもある。バイトでもそうだった。前の人生も......予想もつかない事でたくさん失敗してきた......でも、だからこそ、そこから学んで成功したことがたくさんあった。


(......この体で、始めて経験すること)


多分、VTuberも同じ。やってみないとわからない。わからないことは学べない......いこう、アリス。たくさん失敗してたくさん傷ついて、そして大きくなるんだ。



「アリス、行きます」




――カウントがゼロになった。




「こんばんはー!きこえてますかー?」


『お、はじまった』

『おおおお、声可愛い』

『こんばんは』

『ういうい』

『可愛い』

『きこえてるよ』

『音少し大きいかな』


あたしの言葉に返ってくる皆の反応。懐かしい感動が蘇る。


「おおお、みんな!来てくれてありがとーございます!とりあえ音調整......えっと、これか」


『良いねえ!可愛い』

『これボイチェンか?』

『ちょいロリっぽいな』

『音質良いねえ』

『ガワと声が合ってるな。可愛い』


「うへへ、ありがとう!」


『いや笑い方よ』

『笑い方ww』

『うへへてw』


「それじゃあ自己紹介するね。改めて、初めまして吸血鬼と化猫の間に生まれた吸血姫、紅莉あかり 有栖ありすっていいます!よろしくお願いします!」


『よろしくー』

『よろよろ』

『ういうい』

『ケモミミ可愛いねえ』

『ちらちらみえる犬歯も可愛い』

『そこはこだわった』


「え、あ、パパ?ありがとう!」


『いえいえ。お誕生日おめでとう』

『おめー』

『おめおめ』

『生誕祭か』

『おめでとー』


「うあうあ!ありがとー、嬉しい!」


『しかし揺れのほうも素晴らしいですねえ』

『おっきいねえ』

『ふふ、何がとはいいませんがねえ』

『ふふふ』

『ぐへへへ』


「ねー、すごいよねえ!でもあれだよあんまり変なこといったらママが見てるから気をつけてね」


『おー、このスパナでぶん殴られないように気をつけてね?』

『スパナ持ち......お前がママか!』

『こわ』

『殴られるうう』

『こわいこわい』

『ひいい』


「あははは。って、自己紹介途中だった。身長は157、体重はひみつ、好きなものはトマトジュースで嫌いなものは虫!魔界の吸血鬼族の姫なんだけど、人間界を支配するため人を知ろうということでこの世界に来ました!......とまあ、そんな設定です!」


『おいww』

『設定いうなよw』

『さいごのw』

『初手でぶっ込んできたな』

『設定いいい』

『はて、設定?(難聴)』

『おまw』

『くそウチの娘はスパナで殴れない...!』


「『娘をスパナで殴る』!?、こわっ!?ママこわい!?」


『ww』

『こええwww』

『ママ怖すぎるw』

『パパまもってやれw』

『むりかも。ママ怖いかも』

『おいww』


「ちょ、パパ!?弱い!パパ弱い!!」


『www』

『ww』

『wwww』

『ぱぱー』

『助けてやれよw』


「あははは!さてさて、では次ー。人間界では色々と学ぶためにあたし学校に通っていて、それと生活費を稼ぐためにバイトもしてるんだよね。だから必然的に配信時間が限定されるんだけど、ごめんね」


『苦労人だな』

『バイトしとるんか』

『それも設定?』

『学校とバイトと配信って中々ハードやな』

『え、設定じゃねえの』

『えらいな』


「学生なのとバイトはホントだよ。だからごめん。その分、動画とかたくさん作るから!一生懸命、心を込めて活動していくから、みんなよろしくね!」


『まじかよ』

『頑張り屋さんかよ』

『過労4すんなよー』

『がんばれ』

『すげえ』

『応援するぜ』

『バイトってなにしてるんだ』

『学生って大学かなあ』

『がんばれー』


――ちらりと同接をみれば14の数字。ママとパパ、他に12人。すごい......14人の人が来てくれてあたしの配信を観てくれている。嬉しい。けれど、相変わらず緊張はおさまらず頭が真っ白になりかけている。今にも心臓が破裂しそう。


ふふ、良いよ。この集まってくれたリスナーのみんなの為なら、あたしの心臓くらい......いくらでもさ。


「......心臓を捧げよ、ってね。ふへへ」


『え』

『ん?』

『心臓を捧げよ?』

『え』

『ふぁ?』

『なんて?』

『どゆこと!?』

『えw』

『いや笑い方w』


「あ」


無意識だった。思考が錯綜し集中すると独り言をつぶやく癖が、この場でまさかの暴発をかました。一気に青ざめる顔。


「ご、ごめん!独り言の癖が!違うの、今のは......ちがうから!!」


『独り言怖すぎるだろw』

『心臓よこせってこと?』

『いやハートは奪われてるけどもw』

『おいおい巨人でも倒しに行くんかw』

『心(臓)の奪い方の癖がすごい』

『ちょっと今立体機動よういするわ』

『いくぞおまいらww』

『うおおおおお!!』

『捧げまぁすっwww』

『アリスたんに捧げるううう』


「お、おおお、ちょ、みんな......ま、ママ!!助けて!?」


『へっ、このスパナの錆にしてやんよ!巨人くらい!』


「スパナでっ!?ぱ、パパ!?パパは!?」


『待ってね、立体機動つけてるアリスいま描いてるから!』


「描かんでいいよ!?ノッてないで助けてえええ!?でもありがとおおお!!」


『ちょwママとパパww』

『助けてくれないww』

『おいおい!俺のが可愛く描けるから!待ってな我が娘!!』


「ママああああ!?」


『良い悲鳴ww』

『初配信でアリ虐ww』

『ママとパパに!?』

『強く育てよ、娘』


「ま、負けない......あー、えっと、そう!あたしはね高校生だよ!あとは、バイトは色々しててハンバーガーのワックトナルトとコンビニのヘブンレイブンに、パン屋さんに、カフェ、あとはー内職系だとティッシュに広告の紙を入れたり、造花作り、アクセサリー検品とか!」


『ふぁ!?』

『ガチ?w』

『え、オーバーワークがオーバーキルされてね』

『バイトww』

『内職までしてるのかw』

『え、わしより働いてる』

『おまえニートやろw』

『ま、ママより働いてる......ウチの娘』

『ママww』

『ぱ、パパよりも働いてる.......』

『働けよ』

『パパ働いて?』

『いや働いてよパパ』

『ママとの扱いの差が酷い!?』

『ww』

『www』


「ふへへへ」


『笑い方よw』

『ふへへへてw』

『個性が爆発しとる』


「あ、でも大丈夫。VTuberやるのにバイト少し減らしたんだよね!その分配信とかがんばるから、安心してね〜!」


『別の意味で安心するわ』

『え、減らすてどんくらいや』

『少し減らすって...少し?』

『安心できないわww』

『ママさん、娘さんが働きすぎです。止めてください』

『いやw娘がこんなにたくさんバイトしてたの初めて知ったんだが俺もw』

『笑っとる場合かww』

『www』

『ちょwww』


それから雑談はつつがなく進み、ママやパパ、リスナーさんの盛り上げもあり個人勢初配信にしては成功の部類に入る生配信となっていた。


(ああ、楽しい.......すごく!)


あたし、ホントに配信して良かった。でも、そろそろ終わりの時間だ......寂しいけど、また次の配信で会える。


「......と、言うわけでー!今日はここらへんで配信を終了しますね!来てくれてありがと!!みんなまた来てね!!今度は告知するから、よろしくねー!!」


『はーい』

『おつかれい』

『楽しかった!』

『これは伸びる』

『アリス可愛いかったよー』

『歌も聴きたいなあ』

『おつおつ』

『ゆっくり休んでな』

『おやすみ』

『おやすー』

『ばいばーい』

『またね』

『お疲れ様ー』

『楽しみにしてるよん』

『おつかれい』


「ありがと!!それじゃあ、ばいばいバイヴァンパイア〜!!」


『急に』

『!?』

『なにww』

『え』

『ヴァンパイアー!w』








――ふう、おわた......!つかれたあ!


ヘッドセットを外しテーブルへと置く。時間にして一時間弱。喋り続けていた喉はからからだ。水分を求め水筒に入れていたお茶をカップにあけ喉を潤してやる。


「ぷっはぁー!!んまあーい!!」


その時コンコン、とドアがノックされた。


「入って大丈夫?」


「うん、ママ!!」


ガチャっと開いたドア。ママがにこにことした表情でこちらに歩いてくる。あたしは椅子から立ち上がり、一目散にママの小さなからだへダイブ。


「うあっと!危なっ」


「うへへ〜、ママぁ!どーだった?ちゃんと出来てたぁ!?」


「うん、良かったよ。頑張ったね、えらいえらい」


ママがあたしの頭を撫でてくれる。これぞ至福の時。ごほーびタイムである。


「もっと撫でてぇ、ママぁ」


「甘えん坊だなぁ、娘」


「だって頑張ったんだもん」


「そーだね。頑張ったよ......どうだった?初めての配信は」


「楽しかった!ママとパパが居てくれたし!それに、リスナーさんの皆がすっごく優しくて、話すの楽しかったよ!!14人も来てくれたしさあ!!」


「うん、そーだね。みんな良い奴ばっかりだよ」


「すっごく緊張したけどさ、次の配信が楽しみだよおおおお!!うへへへ〜」


「いや、笑い方よ」


と、その時。ふとママの雰囲気が変わったのを感じた。あたしは「?」といった感じでママの顔を見上げる。すると、ママはある一点を眉間にシワを寄せ見つめていた。


それはあたしのPC。


それにならいあたしもPCに向く。すると終わったはずの配信画面、コメントが流れ続けている事に気がつく。......ん?


すたすたとママがPCまで歩いていく。あたしもよたよたと半ば四足歩行になりながら生まれたての赤子のようにPCへと歩く、ってかハイハイした。




そして画面を見れば――




『おまw配信きれてねーぞww』

『えママと一緒なん!?』

『おおおおおwww』

『初手でこの攻め方は大物すぎるぜ』

『初配信で切り忘れww』

『いやまってママ女なの!?』

『配信終了してw』

『それなw』

『ママも可愛い声しとるがな』

『娘の甘え方半端ねえ』

『だめだ全然気がつかんな』

『甘えるアリス可愛いなw』

『撫でてぇ』

『配信きれてないぞー』

『おーい』

『配信切り忘れたらてえてえだった件』

『素晴らしい』

『パパはおらんのけ?』

『残念ながらパパはここに。くそ、まざりてえッ』

『www』

『事故で自己紹介ってかぁ?』

『↑はい3点』

『お、気がついたか!?』

『会話がなくなった!!』

『霊圧が消えた!?』


「あー、えっと.......き、切り忘れた。ごめんなしゃい」


こうして、あたしアリスの初配信はある意味大成功に終わった。そして、怖い独り言、配信切り忘れ、最後の最後に噛む。中々類に見ないポン(ポンコツ具合)を披露し、ついでにママの性別バレを加える伝説の回となった。








――そして、これが後に個人勢でありながら、チャンネル登録者数100万人越えを果たす一人のVTuberの誕生であった。









______________________________________




★お読みいただきありがとうございます!無事(?)アリスの初配信が終了し、これから物語がどんどん展開されていきます。


これからも是非、岡部と美心の物語にお付き合いくださると嬉しいです!仲間も増えていきますのでよろしく!


そしてもしよければ、作品のフォロー、♡、☆☆☆での応援よろしくお願いします!

作者のモチベが爆上がりますのでなにとぞー!!

【※☆☆☆の評価欄は最新話の下の方にあります】


※いつもコメ返し無しですみません。でもちゃんと全てに目を通しているので、ばんばんコメントしてくださいね!




★お知らせ★


【TSした男子高校生はガールズバンドでなり成り上がる。】という新作を始めました!


こちらは朝起きたら突然、女体化してしまっていた男子高校生のお話です!


いじめられ引き籠もりだった主人公、青山結人が天性の歌声を手にし、ガールズバンドの五人で成り上がっていく物語!ざまあも有ります!


ご興味があればぜひご一読を!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る