《地獄から人間界へ》堕ちてきたニンゲンと共に人間社会を知り学園生活を送りなさい!!

のこ竹。

第一話 杜撰なキミは地獄から人間界へ行きなさい!!

 ハジメマシテ、オレの名前はエンマ。


 ここは裁判室、日本で人間は一日約四千人が死んでいる。動物を含めたら何十倍にもなる。そんな数の死者の罪状を確認して天国行きか地獄行きかを決めるなんて閻魔大王一人では到底手が回らない。


 だから選ばれし十数名のエリートが閻魔大王の役割を分散、果たし、こうして死者の生前の記録が記された巻物に目を通し罪があるのかないのか決めていく。


 そこから地獄に落ちるのか、はたまた天国へ行くのか決まる。ま、人間なんてほとんどが地獄行きだけどね。


「はい、君地獄行き」


 オレことエンマはいつもの様に軽く生前の巻物に目を通し死者に罪状を述べる。

 

「な、なんで」

「動物を殺害、こりゃひどいねぇ…」

「それには訳が…」

「地獄行き!地獄行き地獄行き!言い訳無用!連れていけ」


 やめろ!と叫ぶ男は鬼達に担がれ地獄の門へと連れていかれる。そこに入れば最後、己の罪の分だけ苦しみ輪廻転生できる、それは動物になるか、昆虫になるか、人間になるか、微生物になるか、わからないけどね。


 さてさて、今日は次で最後の人間かな?


「入ってどうぞー」


 扉が開き、鬼が人間を肩に担ぎやってくる。


「…寝てンの?」

「はい…ここに落ちてきた時からずっと寝ていて…」

「床に置いて下がれ」

「は、はい!」


 鬼は人間を床に置いて少し下がった、オレはその人間に近づく、仰向けに倒し身体に負傷がないか見ていく。


 ここに落ちてくる人間は大抵怪我をしている、それは事故死や他殺、自殺など様々な形で身体に残る。だからそれが延長して目を覚まさないままここに落ちてきたのかと思ったが外傷はない。


 それも、ビックリするくらいに何も無い。


 首吊りか?と思い頭を支え首を確認するが跡がなかった。


 こいつ、どうやって死んだんだ?


 そう確認いていくと人間はスッと目をゆっくり開けた。漆黒の髪の隙間から除き見える青い目、宝石のような綺麗な瞳だった。


「…こ、こ…は」

「ここは裁判室、地獄に行くか天国に行くか決める場所だ」

「……俺…」

「ンー起きたなら自分で身体起こしてくれるかな?重いんだよオマエ」


 パッと手を離すと人間は地面に頭を打ち付けた。


「いっ……っ…」


 壇上に登り椅子を引き座る。オレは人間を見下ろした。


「ようこそ、裁判室へ、汚い人間ちゃん」

「………」


 この裁判室に入ると自動的に入った人間の生前の記録が書かれた巻物が机の上に設置される。それを手にとり目を通す…のがいつもの流れなのだがいくら待っても巻物が机の上に現れない。


「巻物に不具合でも起きているのか?…仕方ない、尋問するか」


 机に肘を置き気だるそうに尋問を開始した。


「人間、名前を言え」

「…蒼井あおいつばさ……」


 人間は自分の両腕をつかみ怯えるように訴えた。


「どうして俺は…ここに…?」

「………」


 記憶の混濁、たまに見受けられる。死んだことを受け入れられなくてパニックになっているんだろう。めんどくさい。


 この人間もどうせ…罪を犯している。


 そうだ、罪状を適当に突きつけて地獄に落ちてもらうか!どうせこの人間も何かしら罪を犯しているだろう。


「はい、人間ちゃん?君は地獄行きが決まりました」

「地獄行き…?」

「そー、だから後ろの鬼さんと一緒に地獄の門に行ってくれるかなー?」

「…地、獄……」

「鬼!連れてけ!」


 鬼は返事をし、人間を誘導する。人間は現実味を感じられていないのか文句一つ言わず鬼の後をついて行った。裁判室の扉を鬼が開けようとした瞬間、扉が開いた。


「エンマ、君は杜撰ずさんだ」

「ア?…って、閻魔大王!!」


 長く白い髪を靡かせ裁判室に入ってきたこの男は閻魔大王、人間界では巨大な男や髭を蓄えた太ったおっさんなど様々な憶測が飛んでいるが実際の閻魔大王は、中性的で長くく白い髪に金色の瞳、180後半はある地獄の王様とは思えないであろう風貌だ。見た目だけの年齢だと20代後半くらいか?


 実際は何百年何千年と生きているじじいだが。


「エンマ、キミは人間に対して少し思いやりがないようだね」

「…どういうことだよ」

「キミには人間の他にも動物など裁いてもらってるね?その動物の生前の巻物にはきちんと目を通し公正な判断の元天国もしくは地獄行きを決めている、しかしキミは人間になると杜撰になる」


 動物などはきちんと生前の巻物に目を通すのに、人間になるとそうしない。それは何故なのか?


「はっ、人間なんて罪を犯して落ちてくるのがほとんど、それにオレはちゃんと罪を見て罪状を下してる」

「…君は人間に対して偏った思想があるね」


 閻魔大王は指を突き出し大きな丸を描いた、その縁は輝いていて、中央を見ると先が見えない霧がかった空間が見える。


「この先、人間世界に繋がっている」

「…出して何する気だよ」

「エンマ、キミには人間とはどういう生き物か学び直してきなさい」

「はあ!?」

 

「キミが思うほど、人間を理解しているとは思えない。キミは死者の魂を扱う仕事に慣れてしまい、生者の感情や思考を忘れてしまっている」と閻魔大王は語った。

 

 エンマは壇上から飛び降り閻魔大王に近付き抗議する。


「ぜってー嫌だ!エンマの仕事はどーすんだよ!」

「私が受け持とう、だから存分に偏った人間思考を変えてきなさい」


 ふざけんな!と勢いは止まらないがそれを無視し閻魔大王は人間を見た。


「キミにも、人間界へ行ってもらうよ、蒼井 翼」

「俺も…?」

「キミは彼に人間界の事を教えてやってくれ、そすれば君の罪状は白紙にして天国に連れて行ってあげよう」


 先程大きな円を描いた空間から眩い光が差し込む。まてまてまて!と叫ぶエンマを横目に人間は目をきゅっと瞑り時の流れに身をまかせた。


 ーーーー


 ーーー


 ーー


 ー


 目をゆっくりあけるとそこは草原だった。


 ポケーと体を大にし青空を見ていたら視界からガバッと起き上がり頭を抱え大声で叫ぶエンマがいた。


「ちくしょー人間世界に落とされた!あんのクソ大王!!」

『落ち着きなさいエンマ、いや、炎真 眞斗えんま まさと

「炎真 眞斗?俺の名前かよ…センスねぇな」

『人間世界ではフルネームが必要だからな、君たちが住むのは学寮になる。同じ部屋同士仲良くするんだよ?』

「は!?この人間とか!?」

『人間呼びはやめなさい、彼の名前は蒼井 翼だ、仲良くするんだよ?』


 「お・前・な・ん・か・と」という目でこっちを見てくる、グサグサと刺さっていたい。


「俺は…」

『蒼井 翼、キミは名前は覚えていても何をしてきたか、自分が何者かわからないね?』

「…はい」

『心配はいらない、根本的なことは覚えているだろう?例えば、箸の持ち方、学園生活の送り方等』

「そ、それはわかります…」

『よろしい、二人はいつまで地面に座り込んでいるんだ?立ち上がり学園に向かって歩んでいけ』

「は、はい!」

「チッ、なんでこんな事に…最悪だ」


 二人は立ち上がり歩き出した、ずっと真っ直ぐを歩くとそこには大きな私立学園があった。嫌々ながらも達成しなくてはエンマに戻れない。二人の人生が今日からスタートする。

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