流れ着いた異世界で世界樹を再生する話(仮題)
はぐれうさぎ
第1話 流れ着く
「う、うーん……」
べたつく肌の不快さに加え、空から照り付ける日差しの熱さと地面から伝わる肌を焼くような熱さにうめき声をあげる。
ぼんやりとした意識のまま目を開くと、ぼやけた視界に白と青の景色が映った。
わずかに身じろぎし、そのままの状態でぼーっとしていると次第に意識がはっきりしてくる。
「……砂浜?」
意識がはっきりしたことで認識できたのは、目に映る白い砂浜とその先に見える青い海と空。
そして下半身に打ち付ける波の感覚だった。
「何がどうなったんだっけ?」
砂浜にうつぶせに倒れていた状態を仰向けになるように変え、雲ひとつない空を見ながらつぶやく。
顔の前に手をかざし、日差しを遮りながら記憶を探ると、すぐに何が起きたのかを思い出した。
「……あー、飛行機が落ちたんだった」
そう、乗っていた飛行機が落ちたのだ。
思い出せる最後の記憶は、周囲の乗客がパニックになって慌てふためく姿と窓の外を結構な速さで流れていく景色だった。
墜落の瞬間の記憶はないが、こうやって砂浜に流れ着いている以上は運よく助かったということなんだろう。
いや、乗っていた飛行機が墜落している時点で運が良かったとは思えないが。
「というか、呪われてんのか俺は?」
飛行機に乗るに至ったここ数か月の出来事を思い出して愚痴る。
呪われているなどと愚痴ってみたが、言葉にすればそれほど大した話ではない。
会社が倒産し、なんとなく結婚を考えていた彼女に振られただけだ。
まあ、言葉にすると簡単な話ではあるが、気持ちの上ではそう簡単に済ませられる話ではなかったのだが。
彼女に振られてからは、しばらく抜け殻のようになっていたし。
ただ、そんな俺の状態をどこで聞きつけてきたのか、励ましてくれたのが倒産した会社の先輩だった。
その先輩が何度も飲みにつれて行ってくれ、励ましてくれたおかげで何とか今後のことを考えることができるようになった。
だからこそ、気持ちに区切りをつけるために傷心旅行に行こうという気にもなったのだ。
……まあ、その飛行機が墜落してしまったわけだが。
「あーもー、なんなんだよっ。飛行機が落ちるとかありえないだろっ」
身体を起こして、ぐしゃぐしゃと頭をかきまわす。
“会社が倒産する”
“彼女に振られる”
まあ、この2つはよくあるとまではいかなくても、それなりにありふれたことだろう。
だが、さすがに乗っていた飛行機が落ちるというのはない。
それを考えると無性に腹が立ってきた。
「つーか、暑いんだよっ、くそっ」
完全な八つ当たりという感じだが、そんな悪態をついて海へと飛び込んだ。
「何をやっているんだよ、俺は……」
海に飛び込んだ後、全力で泳いでみたり、海中に潜ってぼーっと海面を眺めてみた結果、ようやく頭が冷えたので砂浜へと上がる。
水も食料もない遭難した状態で無駄に体力を使うなどバカの所業だが、やってしまったものはしょうがない。
とりあえず、海に飛び込んだことで、ずっと感じていた暑さが多少マシになったので良しとするしかない。
まあ、どう考えても差し引きマイナスな気がするが。
「うん?なんだあれ?」
頭が冷えて落ち着いたことで、ようやく周囲を確認するという初歩的なことに考えが至った。
なので、さっそくあたりを見回してみると、砂浜にやたらと目立つ真っ赤な物体が落ちていることに気づく。
「カバン?」
近づいて見てみると、それは赤い巾着状のカバンだった。
たぶん乗客の荷物が流れ着いたのだろうと推測し、なんとなく周囲を見回してから中を確認する。
「水と乾パンの缶詰。……で、スマホ?」
中から出てきたのは、500mlのペットボトルの水が6本と乾パンの缶詰が3つ、それとなぜかスマートフォン――スマホが1台だった。
スマホがなければ非常袋とでも思ったのかもしれないが、さすがに非常袋にスマホは違う気がする。
いや、予備のものであればなくもないのだろうか。
「……まあ、誰が何のために用意したものかはわからないけど、ありがたくもらっておくか」
そう口に出して、ペットボトルの水を飲む。
暑さとバカみたいに泳いだせいで体が水分を欲していたのか、一気に半分近くを飲んでしまう。
そのまま飲み干してしまいたいという欲求を抑え、多少落ち着いたところで改めて周囲を確認する。
南国の砂浜。
それが周囲を確認した感想である。
海を背にして見渡してみた結果、目の前には森、そして左右には延々と砂浜が続いていることが分かった。
より詳しく説明すると、目の前の森の手前にはしばらく砂浜が続き、その先に草原というか草がまばらに生えた場所があり、さらにその向こうにジャングルとでも言うべき森が広がっている。
左右については、左側は砂浜が果てしなく続いていて、少なくとも目に見える範囲には何もない。
対して右側は、同じように砂浜が続いているが、遠くに岩っぽい何かがあるのが見える。
背後にある海も改めて確認してみるが、行き来する船はおろか島の影すら見つからなかった。
「どうしたものか」
周囲の確認が済んだことで、これからのことを考える。
残念なことに、目に見える範囲には人の住む集落のようなものは見つからない。
というか、目の前の森を見るに、明らかに人の手が入っていないので、ここは無人島なのかもしれない。
飛行機の墜落とあわせて考えると、目的地がタイであったことから東シナ海、あるいは南シナ海に浮かぶどこかの島だと思われる。
あいにく、飛行機が墜落したときにどのあたりを飛んでいたのかはわからないし、タイに向かうまでの海上にどのような島があるかも知らない。
なので、ここがどこの国に属する島なのかもわからない。
けれどまあ、そんなことはわからなくても問題ないだろう。
何せ飛行機、それも旅客機が墜落したのだ。
日本でもニュースになっているだろうし、救助隊や捜索隊も組織されているはずだ。
となれば、俺がこれからすべきことは、救助が来るまでしのぐことと、救助隊や捜索隊に対して生存者がここにいるということをアピールすることだろう。
「いや、もしかすると電波が来てるかも」
ふと手にしたスマホの存在を思い出して電源を入れてみたが、当然のようにアンテナは立っていなかった。
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