第5話


 目覚まし時計が鳴り響く。


 私は無理やり体を起こして時間を確認する。


 7時45分


 「まだ間に合う。」


 勢いよく立ち上がり、無造作に服を脱ぎ、制服に着替える。


 鞄を持ち上げながら勢いよく部屋を飛び出る。


 机に置かれていた朝食の冷たいパンをかじりながら、私は走る。


 時刻は7時50分、いつも通りなら間に合う時間だ。




 チャイムと同時に席に着く。


 タナカ先生が点呼を取る。


 「出席番号1番、島田 美咲。」


 私は返事をする。


 「はい。」


 「よし。」




 1時間目の授業は国語。


 ………いつも思う、国語はなんだか色のない科目だと。


 嫌いはない、かと言って好きでもない、その中間の立ち位置。


 私自身は、読書などは好きなほうだが、国語は性質が少し違う気がしてならない。


 ………なんだか、これは解釈違いの様で、毎回授業を受けるたびに釈然としない気持ちになる。


 …別に批判しているわけではない。


 ただ、ただ、これは無知で純白な一市民の感想だから。


 …とにかくだ、伝えたいことはシンプル、私の中で国語が微妙な教科だという真実だ。


 なので、私は適当に授業を受けた。



 2時間目以降も同様で、可もなく不可もなくな授業が続いたのでそれとなく適当にやり過ごした。




 放課後。


 私は走って家に帰った。


 ぐちゃぐちゃになった自分の部屋を掃除したかったのだ。




 家に帰ってみるとそれはもうひどい有り様だった。


 誰のいたずらか、私の部屋の壁は幼児の描いたラクガキで埋め尽くされていた。


 床は絵の具と水でびちょびちょで、ちょっとした洪水状態。


 天井は一面の青空に変わっている。


 ………これは最近、掃除をサボっていたが故だろう。


 とりあえず、私は部屋の大切な物をベットの上に避難しようとしたが。


 水位は私の膝ほどの高さだ、無事なものがあるはずがない。


 ………。


 こうも散らかると私はどうしていいかわからない、ただ立ち尽くすばかり。


 ………。


 そうしていると、いつの間にか、水位は首元まで上がってきていた。


 私はどうすることもできない。


 いや、何もしなかった。


 こうして、立ち尽くしていれば楽になると考えた。


 ………。


 ………。


 …いっそこのまま惰性に絡まった過去の執念と共にすべてを洗い流してくれ。


 ………。


 私は目を閉じた。


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのか?』


 何かが問いかけた。


 「どうだっていいんだ。」


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのか?』


 空白は聞いた。


 「知らない。」


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのか?』


 母は言った。


 「ほっといてくれ」


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのか?』


 土星は尋ねる。


 「………………。」


 ………。


 ………。


 ………。


『これでいいのか?』


煩悩は語り掛ける。


「………………。」


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのか?』


 心が叫ぶ。


 「………………。」


 ………。


 ………。


 ………。


 ………。


 『これでいいのだな?』


 問いかけられた。


 「………………………………あははは、そうだなぁ…」




 心臓が鳴り響く。

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