「ラド、僕が王家の後継者って設定は間違いじゃなかったんだ。でも、ルキフェが承認した後継者ではあるけど、魔王国で戴冠したわけではない。魔王国で、僕の存在を知っている者は限られてる。ガランたち竜族、魔族のクラレンス、エルフのブリアレンぐらいかな」

「あとは、アザレアたちもですね」

「うん。ああ、そうだった。ルキフェは前回も勇者に討たれたけど、存在が消滅したわけじゃないよ。僕が、障害となる『狂乱』を取り除けば、すぐにでも復活できる」

「『狂乱』ですか……。エルク陛下、我らの存在意義は、魔王ルキフェ陛下にお仕えすること。そう育てられました」


 ラドミールは立ち上がり、僕の前に膝をついた。


「ですが、私たちには、新しい任務ができました。傭兵団が金で請け負うものではない、本来の任務です。魔王エルク陛下、心より忠誠をお誓いいたします」


 そういって、深く頭を下げる。


「ラドミールよ。私、魔王エルクは、そなたの忠誠を受け入れよう。魔王国のために励んでほしい」

「はっ!」


「で、ラド。かしこまるのはもういいよ。座って」



 僕はテーブルに置いてあるベルを鳴らして、宿の小間使いを呼ぶ。


「お茶をお願いします。それとアザレア、ラウノ、オディーに来てもらって。後で入室してもらうから近くで待機するように伝えてね。ラド、ヴィエラたちも一緒がいいよね?」

「はい、お願いします」

「ではヴィエラたちもね」


「さて、ラド。君の任務と、ルキフェと僕の希望が合っているか話そう」

「はい。我々『影』の目的は、先ほど申しました通り魔王ルキフェ陛下にお仕えすること。魔王討伐軍に関する情報収集と妨害を目的としています。幾つかの部隊が私と同じように活動しております」


 傭兵団の取り込みに成功? 棚からなんとか……こりゃ、シロ丸の御加護にしても都合が良すぎるなぁ。次に起きる悪いことはなんだろ? まっ、踏み潰すけどね。


「わかった。ルキフェと僕の望みは、魔王国の国民が幸せに暮らすことだ。もちろん魔王国を離れた者たちもだ。そのためには、『狂乱』の謎を解くことが必須だ。ルキフェは、自分が狂乱すると皆を不幸にするからと復活出来ないでいる。ラドたちの情報はそれに役立つかもしれない」

「……はい。『狂乱』に関しては不明ですが、『影』の力を結集できるかと思います」

「ラド、指揮系統はどうなっているの?」

「我らを指揮するのは一族の長老たちです。私は急ぎエルク陛下のことを報告します」

「族長はいないの?」

「魔王国を出奔して以来空位です。血統では私も継承者の一人ですが、隠れ住んで活動しているため、空位となっています」

「うーん、その隠れ住んでいるところは人里離れている? 聞いたわけはこうだ。ラドが僕に関することを報告し、長老たちの許可と協力を得なければいけないだろう。でも信じてもらえるかは疑問だ。何か証拠を示さないといけない」

「はい」


 うん、人里離れたところであれば、黒竜ガランを呼び寄せて、証拠とすることが出来るかもしれない。


「隠れ里は南の海ちかく、小国連邦の山間にあります。王都エステルンドからであれば、移動に要する日数は急いで一月ほどです」

「うーん、そこは『影』の人たちだけが住んでるの?」

「はい。離れた場所に交易のための街を作っていますが、長老たちは人目を避けて隠れ里に住んでいます」

「竜が飛んできたら、どう思われる?」

「!」

「黒竜ガランを見れば証拠になるかな?」

「はい! 黒竜ガラン様は魔王様の騎乗竜と伝わっています。竜族に騎乗できるのは魔王様と、竜族が自ら乗ることを許した者だけと聞いています。信じてもらえるでしょう」


 詳細は詰めないといけないね。一緒に行く必要もあるし、楽しみかな。


「アザレアたちを呼ぼう。彼らに『影』のことを話すが、いいかな?」

「はい、エルク陛下のお心のままに」



 アザレアたちとヴィエラを呼び入れた、けど。


「あ! せっかく入ってもらったけど、食堂に移動しよ。ここじゃ椅子が足りないね」


 食堂に全員が腰掛けたところで、僕は自分について話し始めたんだ。


「ヴィエラ、メルヤ、みんなに改めて自己紹介しよう。僕は魔王エルク。魔王ルキフェの後継者だ」

「エルク様!」


 アザレアたちが慌てた。


「大丈夫だよ、アザレア。ラドミールたちは僕ら側だ。ルキフェの助けになろうと魔王国を出た魔族なんだ」

「はい。アザレア、我々は勇者に復讐しようと国を出た部族の者です。今までは魔王討伐軍の妨害を目的としてきましたが、今後は魔王エルク陛下の命に従います。ヴィエラ、エルク陛下は本当に王族の後継者だったんだ。それも我らの王の」

「……」


 ヴィエラはラドミールを見て大きく目を見開く。僕に視線を移すと、頬を一滴の涙が流れた。立ち上がり、ひざまずいた。


「……魔王エルク陛下。エルク陛下に忠誠を誓います。この生命、いかようにもお使いください」


 あわてて同じように膝をつこうとした者たちを止め、ヴィエラを立ち上がらせる。


「アザレア、ラウノ、オディー、君たちの気持ちは嬉しいが待ってくれ。ラドミール、ヴィエラ、みんな、君たちの忠誠を受け入れるよ。でもね、それを表に出すのは……ルキフェの望みを叶えてからにしたい。ここじゃなく、魔王国の人たちの笑顔に囲まれてね」


 あの子を笑顔にしてからじゃないと、忠誠を受ける資格はないよね。ラドミールの忠誠は受けちゃったけど。


 お互いの素性を打ち明け合った後に、これからのことを話し合う。

 そうそう、ボルイェ商会の会頭にもキチンと伝えて、礼を尽くしたよ。

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