第3話 確認
沙理が外で話せる内容ではないから家で話したいと言うので俺は彼女の家にお邪魔した。なぜ俺が彼女の家にお邪魔したのかというと電話をしている時、側にいてほしいと沙理が言ったからだ。
「電話かけたけど……」
俺は歩夢に電話をかけ、スマホを沙理に渡した。
「渡さなくていいよ。けど、匠は聞くだけにしてね」
彼女は俺にスマホを持たせたままスピーカーのボタンを押した。
『匠くん? どうかしましたか?』
俺のスマホからかけた電話だ。なので歩夢は俺だげが電話の前にいると思っている。
「あっ、楠さん、今井です。連絡先わからなかったから匠のスマホ借りたんだけど、今、お話してもいいかな?」
『今井さん? 少しの時間なら大丈夫ですけど』
歩夢と沙理は、友達ではないが高校での部活仲間だ。なので面識はある。
「良かった。ねぇ、楠さん。昨日、何してたか教えてもらえるかな?」
『昨日ですか? 昨日は、友達とカフェに行っていましたよ』
誰に対してでも同じ回答。やっぱり、俺の見間違いで────
「そうなんだ。ところで楠さん、昨日、私と会ったよね?」
『そ……会ってませんよ。昨日、私は、大学の友達と会っただけで他の人とは会っていませんよ』
「その友達と会った後か、それか前に男の人とホテルに入っていこうとしてたよね?」
沙理の言葉に歩夢は、暫く黙っていたが、数秒後に彼女の声が聞こえてきた。
『人違いです。証拠もない嘘をつかないでくれますか?』
「嘘じゃない。匠をこれ以上もてあそばないでよ」
『何のことですか? 私は匠くんのことを1番に想っています』
やっぱり、歩夢は浮気なんかしてない。だが、沙理は歩夢の言うことを全く信用しておらず、困った顔をしていた。
「……11時頃は、何してたの?」
『家にいましたよ。カフェに行ったのは、午後からです』
「家……」
『家ですよ。匠くん、そこにいますよね?』
そう尋ねられ、俺と沙理は顔を見合わせた。
俺は一言も話していない。なのに近くにいるとわかっていた。
「あぁ、いるけど……」
『匠くんは、私のこと言うことを信じてくれますよね?』
そりゃもちろんと言いたがったが、隣にいる沙理から凄い視線が来ていることに気付き、言葉がつまる。
歩夢のことを信じたい。けど、沙理が言うことも嘘には聞こえないんだよなぁ……。そう思っていると紗理にグイッと腕を引っ張られた。
「うぉ! 近っ!」
彼女に引き寄せられ、危うく頭から彼女の胸に飛び込みそうになった。
「ダメだよ、匠。こんな嘘つきな人に騙されたら」
『嘘はついてません。嘘をついているのはあなたですよ。あなたがこうして私に嘘つきと言うのは今井さん、あなたが────』
「い、言わないで!」
紗理は歩夢が何を言うのかわかっていたのか彼女の言葉を遮った。
『……すみません、確かにこれは私の口から言うべきではありませんね。ところで早く匠くんから離れてください』
歩夢は俺と沙理がどうなっているのか見えてないが、会話で何となく今どういう状況かわかっているようだ。
「別にくっついてないし」
そう言いながらも沙理は俺の方に体を寄せてくる。
「沙理、今日はどうしたんだ? 何かいつもより距離近いし」
幼なじみで仲がいいが、沙理がここまで俺に近づき、離れないことはなかった。
「近くないよ。幼なじみなんだから普通だよ」
「いやいや、普通じゃないから」
そう言って俺は沙理の両肩を持ち、自分から引き離す。
「ごめんな、歩夢。沙理が変なこと聞いて……聞いたことは忘れていいから」
俺は歩夢の言うことを信じる。沙理の言うことを全く信じてないわけではないが、歩夢が嘘をつくわけがない。
『はい、わかりました……。今井さん、すみません、もしかしたら言葉がきつかったかもしれません』
歩夢は沙理の発言に少し怒っており、いつもより言い方がきつかったのではないかと言う。
「……私もごめん。別れてとは言わないけど、匠をこれ以上傷つけないで」
『今井さんは、私が匠くん以外の人とホテルに入っていくところを見かけた……。だから私が浮気していると言いたいのですね?』
「うん……匠が好きなら匠だけを好きでいて」
『浮気はしてませんし、誰かとホテルに入ったことはありません。言われなくても私は匠くんだけを好きでいます』
歩夢がそう言うと沙理はスマホを通話中となっている俺のスマホを手に取り、俺に手渡した。
「私は見間違いだと思ってないから」
沙理はそう言って後は歩夢と2人で話してと言った。
俺はスピーカーボタンを押し、オフにした。
『匠くんは、やはり幼なじみで信用できる今井さんの言うことを信じますか?』
「ううん、俺は歩夢を信じるよ。人違い、なんだよな?」
『はい、人違いです。匠くんには嘘、つきませんから』
「わかった。じゃあ、また明日学校でな」
『えぇ、また明日』
電話を切り、歩夢と少し話した後、俺は帰ることにした。
***
匠くんからの電話を終えた私は、スマホを机に置き、自分の部屋から出てリビングへ向かう。
リビングには誰もおらず私はゆっくりとソファに腰かけ、先程の電話での会話を思い出す。
やはり今井さんは、匠くんのことが好きなのですね。だから匠くんを私から取るため、私が他の男の人といたと匠くんに言った……。
匠くんは、私が浮気しているとなれば、私と別れるはずと彼女は考えたのでしょう。
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