【完結】どちらかが嘘をついている件について
柊なのは
第1話 彼女と幼なじみ
あぁ、そういうことか。ここ最近、俺が彼女を誘う度に断っていた理由は他の男と会うためだったのか。
俺、
彼女の名前は、
告白された時はもちろん嬉しかった。彼女といる時間は楽しいし、断る理由はなかった。
恋愛経験ゼロの俺だったが、彼女と付き合い始めてからは、彼女の隣を歩けるよう、見た目や女子のことを理解できるよう努力した。
誕生日には2人でケーキを食べたり、デートはお互い行きたい場所を話し合い、一緒に過ごす時間が付き合う前より増えていった。
けど、ここ最近はずっと誘っても予定があると言って断られていた。
綺麗な長い髪に遠くから見てもすぐに歩夢だと気付けるほど彼女は美少女だった。彼女と付き合えたのは奇跡だったんだ。
俺は相手がいなかったから適当に選んだ遊び相手なんだろう。
知らない男と恋人繋ぎで歩き、そしてその男の頬にキスする歩夢を見て、俺は浮気されていることを知った。
昨日、久しぶりにどこか行かないかと誘ったが用事があると言われて断られていた。
(用事ってこれかよ……)
浮気した彼女に浮気してたのかと言いに行く気にもなれず俺は行こうとしていたショッピングモールに行くのをやめて、家に帰ることにした。
***
家に向かって暗い顔で歩いているとよく小さい頃から来ているカフェからハーフアップの髪の女の子が出てきた。
「あっ、匠じゃん。どう? カフェ寄っていかない? ひーちゃん、会いたがってるよ」
そう言って、明るく俺に話しかけてくれたのは同じく俺とここのカフェに小さい頃から来ている幼なじみの
ちなみにひーちゃんというのは先ほど沙理が出てきたカフェのオーナーだ。
「いや、いいよ……。また気が向いたら行くって言っといて……」
今はそっとしておいてほしい。今の沙理の明るさにイラッとしてしまいそうな自分がいたが、何とか抑える。
「……ねぇ、何かあった?」
沙理は、俺の表情を見て何かあったんだと心配してくれた。
「言いたくなかったら別に言わなくてもいいよ。けど、匠って悩み溜め込むタイプだから誰かに話した方がいいかなって……」
一緒にいた時間が長いからか沙理は俺が悩みを誰にも話さず1人で悩んでしまうことを知っていた。
言ったら少しは気持ちが楽になるかもしれないと思い、俺は沙理とカフェに入り、話を聞いてもらった。
「楠さん、匠のどこが嫌だったのかな。匠、優しいし、カッコいいし、いいところたくさんあるのに……」
そう言って目の前で話を聞いてくれた沙理は、頼んだショートケーキを食べる。
「ありがと、沙理。話し聞いてくれて」
「何かあったらいつでも相談乗るからね。ひーちゃん、匠にバニラジュースお願いします!」
沙理は、そう言ってオーナーの
「えっ、俺……」
「こういう時は甘いものが必要だよ。ねぇ、久しぶりに食べに来ない? 今日はからあげだよ」
彼女ができる前は、沙理とはよく夕食を一緒に食べていた。
「うん……行こうかな」
「やった。じゃ、お母さんに匠が来るって言っておくね」
「ありがとう」
***
「あら、匠くん、久しぶりね」
「お邪魔します」
沙理の家に入るとお母さんが出迎えてくれた。
「はいはい、入って~。夕飯までゲームしない? 私、あれから結構上手くなったんだよ」
「ほんとか?」
「ほんとだよ。疑うなら1戦、やってみよ」
そう言って沙理はテレビゲームができるよう、用意し始めた。
「ほらほら、やるよ~」
「はいはい、てか準備早すぎだろ。やる気満々だな」
そう言ってソファに座る沙理の隣に俺は腰かけた。
ゲームしている間は、ただ楽しくて、歩夢のことはもう忘れていた。浮気されたんだ、もう気にすることはない。
「勝った~!!」
「負けた……。結構、やらないうちにやってたんだな」
「そりゃね。負けて悔しかったからまた匠が来たときにリベンジしようって思ってたの」
「そうなんだ」
沙理とこうしていると懐かしく感じる。歩夢と付き合い始めて沙理とはあまり話さなくなったからだろうか。
ゲームの後は、今井家で夕食を食べ、沙理は駅まで送るよと言ってくれて、2人並んで歩く。
「沙理、今日はありがとな。おかげで元気でた」
「いえいえ。ところで楠さんとはどうするの?」
「どうするって……まぁ、会ったら別れようって言うつもりだよ」
「そっか……」
沙理は、立ち止まりくるっと後ろを振り向いた。
「じゃ、また明日」
「あぁ、また明日。今日は本当にありがとな」
そう言うと沙理は、小さく笑い、手を振った。
沙理に背を向け家へ向かって歩こうとしたその時、後ろから誰かに腕を捕まれた。後ろを振り返るとそこには沙理がいた。
「沙理?」
「匠はさ……ううん、やっぱり何でもない。バイバイ、匠」
「あぁ……」
(何だったんだろう……)
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