第6話 特級探索者、ダンカメを探す
「お願いします。おすすめのダンカメを教えてください」
「なるほど。わたくしを呼び出すほどの用事とはこれでしたか。先ずは事情を聞かせてもらっても?」
次の日。
高校の昼休みに僕は唯一の友達ともいえる女生徒を図書室に呼んでいた。
紅茶と茶菓子が似合いそうな優雅な雰囲気の彼女の名前は月宮シオン。僕と同級生でテストは毎回一位の超優等生だ。
彼女は頭を下げる僕を面白いものを見たと言った愉悦の表情で見つめ、鈴のような声でこう言う。
「では先ず。昨日の配信を見ましたよレンレンさん」
「うわあああああ見てたのかよおおおおお!!!」
彼女は僕と同じダンジョン探索者だ。しかも配信者と、大手探索者ギルドの幹部を務めている。
完全にソロの僕とは真逆の活動スタイル。そんな僕が彼女と唯一の友達と言えるのは、その昔、彼女をダンジョンで助けたのがきっかけだ。
クスクスと右手で口元を抑えながら笑う上品な所作。彼女のことは同業者兼同級生くらいしか知らないけど、多分僕と違って良家の生まれだろう。
「図書室ではお静かに……と言いたいところですが、ここはわたくしと貴方しかいませんからまあいいでしょう」
「まさか僕をからかうためにやっているんじゃないよね……?」
「さあ? ですが、わたくしの誘いを散々断って、他の女性になびいたんだな〜〜とは思いますが」
目が笑ってないっす月宮さん。
シオンからは度々、ともに配信をやらないかとか、ギルドに入るつもりはないかと誘われていた。ただ、僕はソロプレイ至上主義、なんなら黒騎士は一人で戦ってこそカッコいいと思ってたので断り続けていたのだ。
まあそんな僕が、魔王の誘いに乗ったとなれば前々から誘い続けたシオンにとっては思うところがあるのだろう。
「泣き落としが有効でしたか……やはり黒騎士を堕とすには涙が強かったと……わたくしの判断ミスでしたね」
「あ、あの〜〜それで頼み聞いてくれますか?」
「交換条件でなら引き受けますよ。そうですね……数多あるダンカメから貴方に馴染むようなダンカメを選ぶとなると選択肢が多いですから……今度わたくしとダンジョンに潜るでいかがでしょうか?」
ニコニコの笑顔を向けながら僕にそう言うシオン。ダンジョン……まあダンジョンくらいなら安いものか。
「じゃあそれでお願いします。どんなダンジョンでも付き合いますので」
「ふふっ、よろしくお願いしますね。
まあ本題に入りましょうか。ダンカメと一言で言っても、機種は様々です。今や、どの企業もダンジョンで使うガジェットには力を入れていますから」
ダンカメはダンジョン配信をする上で必要不可欠な道具だ。俗に言うダンジョン内で使えるカメラで、さまざまな機能が搭載されている。
酒呑童子が使っていたダンカメは探索者から奪った物なので、新品を用意するという約束の下、本来の持ち主に返してもらった。
なのでダンカメを用意することになったのだが、これがまあ種類が多いこと多いこと。スマホよりも激戦区なんじゃないかっていうくらい、機種が多い。
「特級探索者の貴方であれば予算面はとりあえず考えなくてもいいでしょうから、機能性重視、耐久性重視で探しましょうか」
「ま、まあ予算は気にしていないから、いい奴を頼みます」
「はいはい。ではこれなんてどうでしょうか?」
シオンがタブレットを操作して、画面を見せてくれる。お値段は二十万円くらいのダンカメだ。球体型の浮遊式カメラとなっており、アバターと連動させることで、視界内に配信画面を出せるようになっている。
「わたくしも同じものを使っていますがとにかく便利ですね。視界内にコメント欄、同接人数、配信時間などを映し出せて、簡単な操作で出し入れできますよ。
コメントを見逃しにくく、いつでも反応できるのがいいところでしょうか。集中したい時は、そう言った機能をオフにすることもできますし」
「おお、便利そう。たしかにこれでいいかな。月宮さんが使っているから信頼度も高そうだし」
「あら……ふふふ。嬉しいことを言いますのね。ではよろしければ今日の放課後にでも……」
シオンがそう言いかけたその時だ。学校のチャイムが鳴り響く。
昼休みの終了を告げるチャイムだ。
「なってしまいましたね。少し、手を貸していただいても?」
「いいですよ。支えますね月宮さん」
僕はシオンの側に近寄って、右手を取りながら彼女の身体を支える。彼女は重い動作で立ち上がった。
シオンは生まれつき身体が悪いらしく、平時は杖をついていることが多い。立ち上がるのにも一苦労のようで、こうして身体を支えてもらえると助かるとのことだ。
「ありがとうございます。ではわたくしは教室に」
「こちらこそありがとう。助かったよ」
僕は図書室の鍵を閉めて職員室に返さないといけない。階段で別れようと思った時、僕はあることを思い出して足を止める。
そして階段を登っていく月宮さんの背中に向かって……。
「放課後! 門の前で待っているから! よかったら一緒に見に行こう!」
その声に彼女はいつものゆっくりとした上品な動作ではなくて、少し慌てたような素早い動作で振り向く。
「ええ、一緒に行きましょう。では放課後にっ!」
彼女はにこやかに笑って教室へと戻っていくのであった。
僕はその小さな背中を見届けた後、職員室へ向かう。
そして、午後の授業はあっという間に終わり、放課後がやってくる。
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魔王様と始めるダンジョン配信~特級探索者と魔王様の戦いがバズり伝説になったようです。配信でSランクモンスターが消し飛んだ? いつも通りです~ 路紬 @bakazuma
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