魔王様と始めるダンジョン配信~特級探索者と魔王様の戦いがバズり伝説になったようです。配信でSランクモンスターが消し飛んだ? いつも通りです~

路紬

第1話 魔王様ダンジョン配信に興味を持つ

「ふむふむ。のぅ、人間。これはなんじゃ?」


 あるダンジョンの深層。


 探索者の亡骸で満たされた場所で、彼女はスマホの画面を見ながら口にした。スマホの画面には配信中と映し出され、その隣にはコメント欄が流れている。


"うぎゃああああ!! 探索者ギルド連合全滅!?"

"魔王やばすぎぃ! やっぱ数じゃ勝てんのか!?"

"というかこの魔王可愛くね!? 俺めっちゃタイプなんだけど"


「なんじゃなんじゃ? 人間とは随分と便利なものを使っとるのぅ。その肉体を壊しても死なぬし、何度だって妾に挑んできよる。

 まあ? そのおかげで妾は退屈せずに済んどるのがのぅ! ワッハッハッハ!!」


 彼女は普通ではあり得ないほど巨大な盃に口をつけると、血が混ざった酒を一気に飲み干す。


 それと同時進行で深層に積み上がった死体が一つ、また一つと無数の光る粒子となって消滅していく。


「おいおいもう消えるのか!? その前に! のぅ、お主! 早よ応えんか!! まだ首の骨はへし折っておらんぞ!?」


 彼女は右手で首根っこを鷲掴みにしている探索者に対してそう聞く。


 探索者のガタイはかなりの物だった。百八十センチ以上はあるだろう。筋骨隆々とした身体、その全身を覆う白銀の重装鎧。


 その探索者の直下には真ん中でへし折れた巨大なハンマーと、何度も拳で殴打されて原型を留めていない大盾が落ちていた。


 探索者は自分の首を掴んでいる小さな子供のような手を、引き剥がそうと両手に力を込める。しかし、すんともうんとも言わない。


「ほれほれ! 早く言わんとお主だけ皆に置いてかれるぞ? 人間というのは危険なところもみんなで渡れば怖くないんじゃろ? どうせ死なんのじゃ。話してくれたら、サクッとその身体壊してやる。心配するな!!」


 彼女は一人、二人と探索者の死骸が消えていくのに焦ったのか、首根っこを掴んでいる探索者にそう話を急かす。


 探索者は今にも息絶え絶えといった様子で、強く彼女を睨み返すとこう口にする。


「くたばりやがれ……この酒カス魔王」


「あっそ。じゃあ、これは妾が貰って勝手に遊ぶからお主は壊れておけ」


 彼女が指に力を入れる。


 すると探索者の抵抗虚しく、数秒と経たず、ゴキリという鈍い音が響き、探索者はぐったりと脱力する。


 壊れた探索者の肉体などどうでもいいと言った様子で、彼女は無造作に投げ飛ばす。一回、二回、三回と肉体がバウンドして、地面に転がる。そしてその数秒後、その肉体も、光の粒子となって消えていった。


「んでんで? この流れとる文字はなんじゃ? もしかして妾のことが見えておるのか!? やっほー!!」


 彼女はスマホの画面を覗き込み、笑顔でスマホの画面に向かって様々なアクションをしていく。


"この魔王様が可愛すぎる"

"ダンカメ使う魔王様助かる"

"魔王様の配信……あり"

"誰も探索者のこと心配していないの草"


「うおおおお!!! ええのうええのう!! 人間はこんなええもん使うとるのか!! 実に羨ましい限りじゃ!!」


 急加速するコメント欄に興奮を示す彼女。地獄のような景色の中で、一人場違いな姿をしている彼女を視聴者たちはこう呼ぶ。


 ——魔王、酒呑童子。


 あるダンジョンの最奥に存在する鬼系モンスターたちの頂点。それが彼女だ。


 身長は百四十に届かず、かなりの少女体型。全体的にサイズが大きい赤と紫を基調とした着物。小さい手には大小様々な大きさに可変する鋭い爪が生えている。


 そんな彼女の中で一番目を惹くのが額から生えた二本の鋭い角だろう。先端が真紅に染まった角。可愛らしい少女の容姿なのに、それだけで彼女が人外ということを示している。


"魔王様のダンジョン配信キボンヌ"

"ダンカメ強奪して配信する魔王様かあ……壊れるなあ(性癖が)"

"魔王様の声で脳みそ溶けました"


「ほほう? 妾の声で脳みそ溶けるとは人間とはかくも面白い生態しとるのぅ。妾たちとは違って、面白いもん担いでくる人間たちじゃ、愛いのぅ、愛いのぅ」


 魔王とは一部ダンジョンの最奥にいるモンスターたちの頂点的存在だ。


 それぞれが規格外の力を持ち、討伐されても時間が経過すれば記憶や人格を引き継いで復活する。


 しかし、そんな魔王が討伐された事例は世界でもごくわずか。先ほども、魔王討伐のために数百人規模の探索者が一斉に挑んだが、三十分と経たずして全滅してしまった。


 ただのモンスターとは違い、高い知性と高い能力を兼ね備える最強の存在。故に、人間たちが当たり前のように使っている電子機器も、慣れない手つきであるがなんとか使えているようだ。


"というか対魔王戦をダンジョン配信しようとして、魔王様に配信端末奪われてるの草生える"

"魔王様がチャンネル作る時代くるわね"

"風が動き出したわね"

"それ、やばい風なのでは……?"


 盛り上がりを見せていくコメント欄。それを読みながら彼女は何を思ったのか、彼女は歴史を揺るがすような一言を発する。


「なにやら、だんじょんはいしん? とやらが人間の流行りらしいのぅ! どれ! 妾は前々から人間について知ろうと思ってたのじゃ! ちょうど良い、妾も始めるぞ! そのだんじょんはいしんを!!」


"魔王様がダンジョン配信きっつつつつああああああ!!!"

"始まったか†祭†"

"これは百パーセントバズる! 絶対バズり散らかす!!"


 ——魔王、酒呑童子によるこの宣言は瞬く間に切り抜かれて、広大なネットワークを駆け巡る。


 しかし、これだけでは終わらない。


 この日伝説は二つ生まれる。

 一つは先ほどまでの魔王がダンジョン配信に興味を持ったこと。

 そしてもう一つは……。


 ——魔王とある探索者の戦いが配信されるまで後一時間。



☆★☆★☆


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