第15話 自分磨きをしよう

 さて、喜んでくれているのが発覚した今、俺が真っ先に取り組むことは何だ?


 そう、この期待を裏切らないことだ。


 となると、昨日保留したあれやらそれやらを活用するということで。


 どうしよう。

 何も知らないぞ。近頃は、男子もメイクするとは言うが。俺は、とんと縁がない。そもそも、そんな機会に恵まれたことすらないのが実情だ。中学の頃は、校則があったし、高校の今はやる意味がない。まぁ、自分のためにやっている奴はいるらしい。


 どうしようと唸っていると、遠い昔を思い出す。ここ最近は、思い出すことも減っていた。それはまだ俺の小さかった頃のこと。ちょうどこんな初夏のこと。


 ≪おかあさんは、どうしてはだがしろいの?≫

 ≪ねぇ、   。千歳がこんなことを尋ねてきたのだけれど、どう返したらいいのかしら≫

 ≪それは、オレに言われても困るんだけど。   の思うように答えたらいいんじゃない?≫

 ≪そういうものなのね。勉強になったわ≫

 ≪勉強にって、そんな大層なものじゃないけど。まぁいいや≫

 ≪んー、千歳がいまおかあさんとはなしてるの。おとうさんはしずかにしてて。しーしなきゃダメなの≫

 ≪あらあら、怒られちゃった。これ、運んどくね≫

 ≪ふふ、じゃあ千歳。お母さんとお話しよっか≫

 ≪うん≫



 懐かしい記憶。あれから、もう10年。生きてるんだろうか、もうとっくに亡くなっているんだろうか。互いを名前で呼び合って、仲の良かった父と母。あれ、何で俺だけ消えてない?だって、一緒にいたはずで。


 キリキリ、頭が痛む。思い出そうとすると、痛くなる。当時かかった先生が言うには、らしい。衝撃を受け止めるためにこうなっているんだと。


 頭痛が落ち着き、考える。今するべきことを。


 父と母を懐かしむことじゃない。病気を治すことだ。


 とりあえず、明日恥を忍んで一翔と一緒に買い物に行こう。あれでいて、あいつはこういうことに何でか詳しいから。

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