弱肉強食の学園で……

狂歌

プロローグ 始まりの街に現れた人間(ロスト)

『次は学園都市オリュンポス入り口前〜入り口前でございま〜す』

「……ん」


 バスのアナウンスが流れ、数分後、前から三列目の窓際にいる学生服を着た男が目を覚ますと、窓の外を見つめる。

 掠れた視界に最初に入ったのは、大海原の中心にある学園都市「オリュンポス」。

 学園都市オリュンポスとは、今から10年前、2014年に作られた都市だ。

 人口14万、土地の形は、10角形となっており、そこから、様々な区へと分けられている。

男が降りた場所はどう頑張っても1時間かかる為、オリュンポスに向かう人達は、このバスで、向かうのが大半。

待機所には出勤の為の人や、これから遊んでやる感が満載の人、色んな人がごった返していた。

停留所に止まると、プシューとバスが止まる時の独特な音が聞こえる。

 バスが完全に止まると立ち上がり持っていた荷物を持ちバスを降りると、オリュンポスへと入る為の改札所へと向かっていく。

 数分ぐらい歩くと、改札所らしき建物が見え始めてきた。

改札所に到着すると荷物の検査を受け、そのまま出口へと向かっていった。

出口に繋がっている扉を豪快に脚で蹴りつけ、開け放つ。

次の瞬間、学生の目に映ったのは、左を見ても、右を見ても、ビルしか見えず、自然の植物や木が少量しかなかった。

 学生はしばらくビルや街の人々を見つめていた。


「おぉ〜……ここがオリュンポス……」

 

 そう言い放つと、近くにあった地図に近づく。

 地図には、学園都市オリュンポス第六区「正門広場」と書いてあり、広さはまぁまぁあり、他にも左から、「五区」、「十二区」、「七区」に繋がっている。

 学生は一通り地図を見ると、地面に置いてあった顎まであるケースを背負うと、キャリーバックを引きながら、歩き出す。

 改札所から北東に進むと、オリュンポスの各区に繋がっているモノレール乗り場につく。

 モノレールが動く時間を調べていると、ちょうどモノレールが現れ、乗り込む。

 モノレールの扉が開くと同時に入り込むと、隅っこの席に座り込む。

 最初の駅だったらしく、人があんまりおらず、隅っこに座れて学生はラッキーっと指パッチンをする。

窓の外の景色を眺めているとモノレールが動き出す。

 モノレールに乗って数分、最初の駅に着くと、大量に人が乗ってくると、今までガラッと空いていた席が埋まってしまっていた。 

 全員が乗った後に一人の老人が入ってくるが、老人は周りを見渡していた。

席が余っていないか確認していたが、当然の事ながら、空いておらず、フラフラしながら、手すりを掴み立っていた。

 腰が痛いのか、自身の腰をトントンと叩き、痛みを和らげている仕草をしていた。


「おい、そこの老いぼれ」


 そう学生が言い放つと、鋭い眼光で隣に立っている老人を見つめていた。

 その声は、冷徹で、落ち着いたトーンで、言動といい、声のトーンいい、他の人達から聞いたら、老人に冷たい若者だと思うだろう。

 当然ながら、老人も、突然の事で驚いたのか「へ?」と声が漏れていた。


「な、なんでしょう?」


 そう老人が途中まで言い放つと、学生が立ち上がり、荷物を持つと、老人に手で座りなっと合図し、席を譲っていた。

 流石に予想外だったのだろう老人は目を丸くし、パチクリと瞬きをした後「い……いいんですか?」と学生に尋ねる。


「後数駅だけだ……それにあんたは腰が悪いように見える……ゆっくりしな」

「おぉ……ありがとうね……君は優しい人だね」


 そう言いながら老人は譲ってもらった席にゆっくりと腰をおろす。

 そしてまたモノレールが動きだす。

 しばらくモノレールの振動揺られながら目的の駅まで待っていると、さっき止まった駅の三つ 目の駅に止まる。

扉が開くと今度はものすごくはしゃいだ学生二人組が乗り込んでくる。


「よっちゃんさー、そこは無理にでも連れ込めって〜」

「イヤイヤ〜あれは無理だって〜それだったらまっちゃんが次やれよ〜」


 周りの迷惑を全く考えてない声量で話をする金髪で片耳にピアスをしたよっちゃんに、銀髪に舌ピをしたまっちゃんが先程の老人の前にいく。


「ねぇおじいちゃん〜、俺らさぁ腰痛いんよぉ」

「だからさぁ変わってくれねぇかなぁ」


 気色悪い猫撫で声を出しながら、二人して腰の痛いフリをし、老人の席を奪おうとしていた。

 だが、老人は疲れていたのか、壁にもたれて眠っていた。

 その姿を見て、どうやら二人は無視してきたと勘違いし、少しキレ気味の声のトーンで、さっきと同じセリフを言うが、老人が起きる気配がなかった。

 流石に堪忍袋の尾が切れたのか、短気なのかわからないが、よっちゃんと呼ばれていた男が老人が持っていた杖を思いっきり蹴飛ばそうとする。

 

「おい、クズ共」

「あ?」


 杖を蹴り飛ばす寸前で動きを止めると、侮辱してきた声の主の方に目線を送る。

 その瞬間、よっちゃんが勢いよく後ろに吹き飛ぶと、駅の柱にぶつかる。

 一瞬の事で、呆然としていたまっちゃんだったが、我に帰り、「よっちゃん!」っと言いながら吹き飛んでいったよっちゃんの所に駆け寄っていく。

 そして蹴り飛ばした人物は制服についていたネクタイを緩め、スーツケースと荷物を持ち、駅から降りると同時にモノレールが出発して行く。

電車を見送ると、少しほっとした気持ちになっていた。

男はそのまま辺りを見渡すと人集りがあった。

突然の事だったのだろう他にいた人達が驚き、ザワザワし出す。

 

「て、テメェ……何顔面蹴っ飛ばしてくれてんだ!」


よろよろと、まっちゃんの肩を借りながら立ち上がる。

どうやら、男の蹴りが上手いところに入ったのか、鼻元を手で押さえており、手の隙間から血がドバドバと垂れ流れていた。

血の量から見ると多分鼻の奥が切れたのだろう。


「……」

「おい何よっちゃんの話を無視してんだ!!」

「テメェここでぶっ飛ばしてやる!!」


1度男が背伸びをすると、懐から携帯を取りだし操作し出す。

どうやら、降りたい駅では無かったようで、よっちゃん達の文句戯言を聞き流しながら検索していた。

そして無視された事で更にヒートアップしたのか、男に向けて、拳を構え、戦闘体形になる。

だが、あろう事か今から襲われるというのに学生は余裕そうに欠伸をすると、持っていた携帯をしまい、駅に付いてる時計を見つめていた。


「ッ!なんだァ?余裕そうだなぁ?!」

「……全く、お前らは自分の立場を分かってないな」

「あ?、立場だァ?」


男はやっと閉ざしていた口を言葉を出したと思えば、また火に油を注ぐような発言をする。

その発言がよっちゃん達の怒りに怒っていた火が大きく燃え上がる。


「ああそうだ……お前らみたいな雑魚が俺に勝負を仕掛ける事がどれだけ愚行か……」

「……ク、アハハハ!!」


男がいい終わりしばらく無言が続くと、開口一番にまっちゃんとよっちゃんがおかしかったのか、腹を抱えて笑い転げていた。


「ざ……雑魚?、俺らを?アハハハ!!」

「こ、こいつ世間知らずの口かァ?!アハハハ!」


これは流石に他にいた乗客の中にもクスッと笑う者が何人かいた。

その光景に男は少し拍子抜けしたのか、ポカーンとマヌケな顔になる。

少し耳を澄ますとボソッと何人か声が聞こえる。


「あの子外の人かな?」

「あの二人を知らないって事は」

「でもまっちゃんよっちゃんって言ったら、第4区の方では有名な人達だよな?」


どうやら、あの二人はここでは有名人らしく、他にも、「ここは相手が悪いなぁ」っと言う声も聞こえてきた。

各区で有名な奴がいるんだなぁっと男が思っていると、よっちゃんアホタレ共のバカみたいな笑いが大きくなっていた。


「アハハハ!……あ〜、面白かったなぁ、まぁモグリなら仕方ないよなぁ?、アハハハ!」

「そうだなぁ……じゃあここはここの歓迎式で、祝ってやろうぜ!!」


そうまっちゃんが言い出すと、学生に向かって一瞬で、相手の懐に近づくと、目にも止まらぬ速さで、顔面パンチをするフェイントをかまし、寸前でおもむろに中段回し蹴りを繰り出す。

常人ならば、避ける事すら出来ず、倒れ込む。


「……は?」


突然の事だった。

まっちゃんが蹴りを仕掛けた次の瞬間、彼は地に足を付けておらず、逆に宙を舞っていた。

まっちゃんは何が起こったのか分かっておらず、空を見つめていると微かにだが顎が痛み出す。

その痛みで分かった事がある。

まっちゃんの蹴りが当たる寸前、彼よりも早く男がアッパーカットをし、宙に浮かしていたのだと。

しばらくし、そのまま地面に思いっきり叩きつけられ、気を失ってしまう。

当然の事ながら、周りにいた乗客も、よっちゃんさえ、驚きが隠せず皆無言と化していた。

さっきまで笑い声がこだまする駅が、今じゃ誰もいないかのような静けさがあった。

先程のモノをみて、呆然としていたよっちゃんが我に返ると、ゆっくりと男の方を見る。


「てめぇ!この俺らを【双犬】のまっちゃんよっちゃんと知っての事か!」

「……知るか駄犬コンビ」

「アァ?!」


その時だった。

よっちゃんはある事に気がついた。

その事に気がついた時、彼の表情は顔を涙でぐしゃぐしゃにし、この世のものじゃないって言ってるような恐怖した顔になっていた。

いや、どちらかと言うと彼にとっては気が付かない方が良かったと、彼自身後悔していた。

まっちゃんの顛末を見れば攻撃されたことは分かっていた。

だが、一体いつ?どうやって?一般人の視界ではまっちゃんが勝手に吹き飛んだように見えていた為、未だに呆気に取られていた。

改めてこの2人の説明しよう。

双犬のよっちゃんまっちゃん――オリュンポス第4区を縄張りにしているチーム「ヘルドックス」の重鎮。

双犬の意味合いは、常に2人で喧嘩をし、連携プレイに長けていた所から取られた。

その重鎮と言われている相方が一瞬にして、しかも相手は外からの人間に加え、1歩も動かなかった。

男の足元を見ても勢いよく動いた形跡も、攻撃した形跡まで無かった。

その現状を見たよっちゃんは本能で察知したのか、1歩後ろに下がると、腰を抜かしたのか、尻もちをつく。


「2つ言う」

「ッ!」

「1つ、自分の立場をちゃんと弁え……2つ、弱い奴がその下の弱い奴を虐めんな」

「へ。。、あ、」

「もし、今度あんな真似をしていたら」


そう言うと、近くにあった壁に立つと、ゆっくりと姿勢を低くし、拳を横腹まで引き締める。

一呼吸し、拳を思いっきり前に突き出す。

拳が壁に当たると一瞬にしてヒビが入り、同時に少し凹んでいた。


「この俺、反生はせ 夜卯祐ようすけがお前らの骨を全てへし折ってやる」

「は。。。はひ。。」


そうよっちゃんが答えると同時に、失禁し、気を失ってしまう。

それを見届け、強烈な脅しをした手に着いたコンクリートの粉末を振り落とす。

ザワザワと人の驚き声や叫び声を無視し、持っていた荷物やらを持ち乗客達の方に歩き出す。

皆自然と道を開けていく。

人は自分とは違う異質な物体には関わりたくないという性質がある。

今その異質な物体=反生となっているだ。


「……怖がるのかよ」


そう一言、吐き捨てると駅のホームを後にする。






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