魔法少女は護らない
華永夢倶楽部
エピソード1 侵略
『番組の途中ですが速報です。ただいま
街中のサイレンが鳴り響き、外を出歩く人や車は慣れた様子で屋内へ避難する。未だにサイレンを無視して現場に向かう命知らずな者がまだいる為、警察が現場付近に待機し関係者以外の立ち入りを禁じ、エネミーの動きを常に監視しながら“彼女達”の到着を待つ。
「こちらB班、エネミーを確認しました」
「今回のエネミー特徴は?」
「大きめのクーラーボックスを抱えた、女子小学生くらいの背丈をしたエネミー1体です」
「了解。恐らく所有物からして戦闘型ではないだろうが、引き続き警戒を継続せよ」
「了解」
警察の人間複数がエネミーの動向を逐一伝える為、お互いが姿を晒した状態で見つめ合う。
それはエネミーからしたら侵略先で発見した知的生物が無防備で突っ立っているという、間抜けな行動に見られてもおかしくはないだろう。
しかしエネミーは、どういうわけかその場にいる警察を駆逐するわけでもなく、逃げ出すわけでもなく、ただその場に立ち尽くすだけ。
「動かないな……」
まるで海へ釣りに来ただけの少女にしか見えない。
しかし、彼女は正真正銘のエネミーだ。
「ん……」
初めてエネミーが声を発する。
果たして今の発音は声とみなして良いのかどうかはさておき、警察は今までの経験を活かして警戒する。
「ん……」
今度は、警察へクーラーボックスを差し出す。本来なら罠だと一蹴したい所だが、過去には似たようなエネミーからの差し出しを拒否した事で感情が悪い方へ昂ったのか、その場にいた警察を虐殺した事例がある。
そのせいで今、こうして差し出しをくれた場合は1人の警官を受け取り役に指名せざるを得なくなった。
もちろん、被害を最小限に留める為に。
「ん……」
1人の警官がエネミーのそばまで歩み寄ると、右手で近くの建物を指差す。
「えっと」
警官は困った表情で助けを求めようとするが、誰も助けようとはしない。
相手を刺激したくないか、自分を身代わりにさせたのか、はたまた両方か。
彼は半ばネガティブに自分の死を覚悟しながら、エネミーの要求を飲む事にした。
「行ったな」
「あのエネミー、何が目的なんでしょうね?」
「少なくとも戦闘型ではないのは確かだ。もしそうならとっくに俺達に手を出してる」
「ですけど、一応念の為に呼んでおいた方が……」
「まだだ。“彼女達”はエネミーの駆除が目的なんだ、捕獲や保護は承らないだろ」
「なら、
「向こうだって慈善事業じゃないんだ、つまり我々警察と同じ。そこは分かってくれ」
「……………………」
今の警察に出来る事は、エネミーと一緒にいる鬼頭警官の無事を祈るだけ。たったこれだけ。
「遅いですね、鬼頭さん。私はやっぱり呼ぶべきだと思います」
「分かった、許可する」
上司の後手後手なやり方に腹が立ちつつも、新人警官は一番近いパトカーの無線に手を伸ばす。
「こちら
『了解』
その無線から発せられた声は、その魔法少女とやらにしてはとても幼過ぎる印象が第一だった。
しかし、そんな程度でいちいち気にしてる余裕なんてない。
『こちら、魔法少女司令。現場の根室漁港にはあと数秒で到着します』
その無線からいつもの速過ぎる出動に驚いているが、もう少しで当たり前の事になってきた。
とにかく、あと数秒で来るらしい魔法少女と顔を合わせようと無線を片付けパトカーから目を逸らすと、既に魔法少女は“そこ”に立っていた。
「あ……」
新人警官にとって、魔法少女に会うのはこれで3度目。魔法少女らしく拠点からここまでワープしたのかは未だに分かっていない。
「私は魔法少女、
「私も同じく魔法少女、
2人の外見で特に印象的なのは、お互いがそれぞれ対照的に見えるところ。
まず白老晃と名乗った魔法少女。澄み渡るブルーを基調とした服装に髪色、そして職務に対して堅実かつ真面目にこなしそうな目つき。あまり冗談の通じなさそうな少女に見える。
そして名寄美咲と名乗った魔法少女。可憐さを思わせるピンクを基調とした服装と髪色、そして周りの人とは友達感覚で話しそうな柔らかい笑顔。いざという時にやるといったギャップを秘めていそうな少女に見える。
「エネミーは現在、どこに?」
「今は鬼頭警官と一緒に、そこの建物にずっと立て籠っています」
「何かしようとしていましたか?」
「えっと、手持ちのクーラーボックスの中身を渡そうとして、今に至る感じです」
「となると、今回も“調査型エネミー”か……」
調査型エネミー。侵略対象に文字通り調査員を投入し、その惑星の情報を採取する事に特化したエネミーの事をそう呼ぶ。
なので方法次第だが、人間でも駆除自体は可能だ。ただしエネミーにも反撃する力があるのであまりオススメはしない。
「もしかして、あの人が鬼頭さん……?」
美咲が指差す先には、確かに鬼頭警官の姿が。
「ひっ……」
何故か全裸で現れたかと思いきや、千鳥足でよろめき倒れ込む。
エネミーの餌食になった。そう考えるしかない。
「情報を採取されたか」
「え、情報ってどうやって……?」
「体液。無理矢理唇を奪ったか、あるいは吸い上げたか、はたまた両方か」
「お気の毒だけど、鬼頭さんは恐らく助からないでしょうね。一緒にいたエネミーに根こそぎ吸い取られて」
助からない。
やっぱり一歩遅かったんだ。
「やっぱり、被害が出る前に出動を要請すべきだったんだ。だからこうして死者が……」
そこへ晃が口を挟む。
「それはやめた方がいい。やったら最後、上司から批判されるか命令違反で解雇されるかもしれない。死者のいない活動こそが理想だけど、独断で行うにはまだ実績が足りてない。今はまだ堪えるべきだと思うわ」
冷酷ともとれる、正論。
しかし冷静になって先の事を考えたら、晃の言う事はあながち間違いではない。
「晃ちゃん、エネミーが‼︎」
美咲が指差す先には、鬼頭警官と一緒にいた調査型エネミーの姿が。
もっと人間の情報が欲しいのか、魔法少女を含む周囲の人達を見回す素振りを見せる。
「司令官、あのエネミーを見てどう思います?」
晃がスマホの様な平たい機械をエネミーに向けて、通話を始める。
『あれは調査型エネミーの中でも、生物の情報採取を目的としたエネミーね。名前は“アクアトープ”、クーラーボックスに今まで採取した生物の情報が保存されているはず』
「あれは、人間だけでも捕獲は可能でしょうか?」
『可能よ。ただし男の人を1人エサにする必要がある。吸い付いたら採取に夢中になるから、その隙に腕自慢の人が確実に拘束すれば、あとは駆除するだけ』
「了解」
晃は通話を終えると、警官達の間へ割って入る。
「男の人って……」
これ以上は、おおよその予想がつく。
「あっ、あぁ‼︎」
エネミーが1人の男に狙いを定め、情報を抜き取ろうと手を伸ばす。
そこへ晃がエネミーの背後に立ち、首を絞める。
「……ッ‼︎」
それでもエネミーはまだ採取をやめない。
男はエネミーに情報を採取されていき、やがて生気を失っていく。
そんなエネミーに対して、晃は首の骨を粉砕する。シンプルだけど少し不快な音が鳴り響き、駆除を行った。
「うっ……」
そして同時に、男も倒れる。
「駆除、完了」
晃は男の姿を見ても表情を変えず、その場を立ち去る。美咲はその後を追いかけるようにパタパタと小走りで付いて行く。
「魔法少女……」
死者2名。これを平和を守る立場から見るには、どうも意見が分かれそうな結末になりそうだ。
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