黄昏の森の優しいオオカミ

ぐれん

第1章 森を歩けば

第1話 好奇心の先に

その森は、入口にして出口 あなたに、大切なものを教えるための場所 忘れないで 僕はいつも君のそばに居る

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 ある日、突然見知らぬ世界に放り出されたら、人間というのはどういう反応をするのが正解なんだろうか。


まずは周りを見渡すだろう。たくさんの木が生えている、それもとても大きなモミの樹たちだ。


なるほど、木を3つで森と書きそれを「もり」と読むのも納得する。




樹の全長は彼女の身長を遥かに超えて、天を目指している。


しかし、見上げればまだ空が見える。この橙色はおそらく日暮れ時、夜が来たらあたりが闇に覆われる。


そうなってしまってはさすがにまずいだろう、そんな不安と、こんな景色は今まで見たことが無くて


逆にどんなことが待ち構えてるのか、と謎の好奇心が胸を満たした。




 という訳で立ち止まっていても仕方がないと、何のためらいもなく歩み出した。


何処へ向かっているのかなんて、わからないまま、何処へ行きたいのかなんて、わからないまま、


【黄昏の森】をさまよい始めたのである。




 そんなに時間は経ってないであろう頃、少し肌寒さを感じ始めた。耐えられないほどの寒さではない。


周辺を見渡す余裕もある。奥は暗いが、上を見ればまだ夕焼けが空を染めているからだろう。


 土と風と樹の匂いが混じっている。不快感は無い。むしろなんだか心が清々しくなっていく。


何処までも歩けそうだ。そんなふうに思えるほどに。水の匂いもしてきた。小さなせせらぎが耳に入る。


その音が大きくなる方へ、歩みを進めた。


 そしてその音の正体が、森を流れる小さな川だと判明したと同時に、この森にとてもよく似合う


木でできた家を見つけたのである。


明かりも灯り、夕餉の支度だろうかとても美味しそうな匂いがする。なんだかおなかがすいてきた。


 木こりを生業とする人でも住んでいるのだろうか、家の外には樹を切る為の場所もあった。


そして何のためらいもなく、家の扉の前に駆け寄る。ノックして、人が出てきたらもちろん


「道に迷ってしまって、お腹も空いて、もうすぐ日も沈みそうで、良ければ一晩泊めていただけませんか?」と言うつもりだった。




 木のぬくもりが溢れる、大きな扉をノックして「すいません」と声をかけた。


扉がギィッと少し重たい音を立てて開いた。穏やかな声で「どうかされましたか?」と問いかけた。


咄嗟に先ほどの言葉がするっと出てくるほど、優しくて暖かな声であった。






眼の前に現れたのが、彼女の背を遥かに超える大きな獣でなければの話であったが。




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