ヴィクトリア

ゆでたま男

エピソード1

ときは19世紀。産業革命以降大きく飛躍した蒸気機関技術により、人類はそれまでにない豊かな生活を手にいれた。だが、急激な発展の陰で問題も起きていた。

新しい都市が次々にでき、人口が増加すると、治安が悪化。警察は次第に手に終えなくなってゆく。そこで、政府は犯罪者に賞金をかけ、カウボーイやカウガールという賞金稼ぎにその役割を分担してもらうことになった。


銃弾がブルースの頬をかすめた。敵は数十人はいる。ブルースは、賞金稼ぎとして、今まであらゆる危機的状況をを乗り越えて来たが、ここが年貢の納め時と悟った。

「いいか、ヴィクトリア。もう一緒にはいられない」

「そんなのいやだ」

「わがまま言わないでくれ。合図をしたら、あの茂みの方へ向かって逃げるんだ。絶対に振り向くな。わかったな」

「うん」

「いい子だ。いくぞ。3、2、1、走れ」

ヴィクトリアは走り続けた。


2

10年後。

「動くな、その場に伏せろ」

突然入り口から入ってきた男は、近くにいた女の子を捕まえて言った。

「少しでもおかしなことをすると、こいつの頭が吹っ飛ぶぞ」

リボルバー式の銃を、女の子の頭に押し当てる。

「この銀行の責任者は誰だ?」

みな下を向くなか、男が手を挙げた。

「私だ」

「金と車を用意しろ」

「は、はい」

「ちょっと、いい?」

一人の女が立ち上がった。

「あ?なんだ。ぶっ殺されてーのか」

「あなたとっても素敵だわ。私も一緒につれて行って」

「ほぉ。いい心がけだ。こっちに来い」

男は、女の子を離し、女を後ろから羽交い締めにした。

「お前、いい女だな。名前は何て言うんだ」

「あなたの名前を先に教えてよ」

「俺はゲイル様だ。この界隈じゃ有名なんだぜ、悪党でな」

ゲイルは、左手でナイフを取り出すと、服のボタンを、上からナイフで一つずつはずしていく。

「ちょっと、1万ベイルのシャツよ」

「そんなもんいくらでも買ってやるよ。金を持ってここを出て、お前を楽しんでからな」

ゲイルは、女の体を反転させて、正面を向かせる。シャツがはだけて、谷間が見えた。

その瞬間、男の顔が凍りつく。

左胸にチェリーのタトゥーがあったからだ。

「そのタトゥーは」

「あら、何か問題かしら」

「お、お前はもしかして」

女は、不適な笑みを浮かべると、ひざで男の下腹部を強く蹴りあげた。

「うげぇっ」

男の後ろに回り、ヘッドロックを決める。

「ぐ、ぐぅるしぃ~」

「教えて上げるわ。私の名前はね、ヴィクトリアよ」


ヴィクトリアは、ゲイルの服を脱がせて手首を縛り上げると、銀行の外へ向かった。

「まったくいい度胸ね、私を相手に一人で強盗なんて。安く見られたもんだわ」

「あんたがいるなんて聞いてなかった」

「聞いてたらどうなのよ」

「100人は仲間を連れて来てたな」

ヴィクトリアは、足を止めた。

「あんたバカ?戦車でも持ってきなさい。

どうせ、友達の一人もいないんだから」

銀行の外に出ると、警官達がわんさか待っていた。

「お疲れ様です」

「これよろしく」

ゲイルを警官に引き渡す。

「ヴィクトリア、お手柄だね」

やって来たのは、アーロンだ。

若手の刑事で、頭以上に口がよく回る。

今まで幾度となくヴィクトリアに頼ってきたが、アーロンが頼りになったことは今まで一度もなかった。

「あぁ、お褒めいただき光栄だわ。それで、あいつ、いくらだっけ?」

「聞いて驚け。200万ベイルだ」

「200万!すっごいわ~、嬉しい」

まるで少女が誕生日プレゼントを貰った時の様に喜び、すぐ真顔になった。

「って、なると思った?」

「僕の何ヵ月分の給料だと思ってるの」

「五年分かしら」

「それなら、転職してるよ」

「まぁ、いいわ。化粧代くらいにはなるか」

「そんなに厚化粧だったの?見えなかったな」

ヴィクトリアは、素早くアーロンの腰についたホルスターから銃を抜いた。その銃をアーロンのアゴの下から突きつける。

「あんた、殺されたいの?」

「いえ」

アーロンは両手を上げた。

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