第一怪〜トイレの花子さん〜
俺の名前は
霊見なんて言う、読みだけみたら女みたいな名前だが、男だ。
私立四つ葉学園に通う高校二年生。
この世界は人口の七割を超能力者が占める世界。
ちなみに、俺の能力は「霊視」。怪異を見たり、話したり、触れたりすることが出来る。
そして俺は今、丑三つ時の学園へ来ている。
『お〜い。どんな感じだぁ〜?』
「特に何も無いよ」
スマホの向こうから聞こえた声に答える。
ビデオ通話中なのだ。
『にしても、優等生の霊見ちゃんが、丑三つ時の学園に忍び込むなんてなぁ?W』
「うるせー!お前らが罰ゲーム決めたんだろーが!後、ちゃん付けすんな!」
今言った通り、俺は罰ゲームで丑三つ時の学園へ来た。何の罰ゲームかって言うとババ抜き。
罰ゲームの内容は、花子さんを呼び出す。
花子さんとは、七不思議零番目「トイレの花子さん」の事だ。
四つ校七不思議は八つあるので実質八不思議だ。
花子さんの噂はこう。
其の一 丑三つ時に旧校舎の三階の女子トイレへ行く
其の二 一番奥のトイレを三回ノックする
其の三 「花子さん、花子さん、いらっしゃいますか?」と聞く
其の四 返事が聞こえ、花子さんがトイレから出て来る
其の五 気に入られると取り憑かれ、気に入られないと不幸なことが起こる
と、まぁ、こんな感じだ。
それを今から試しに行く。
突然ボタッ、とスマホに血が垂れる。
鼻血だ。
『うわっ、鼻血出てんじゃん。もしかして……女子トイレの百メートル以内に入った……?』
「入った」
鼻血をティッシュで拭きながら言う。
『マジかー。花子さん悪霊な訳?いや、別の悪霊がいる可能性もあるか』
俺の霊視の能力は、説明したこと以外にももう一つある。
それは、悪霊の、半径百メートル以内に入ると、鼻血が出る。悪霊が凶悪であればある程鼻血の量が多くなり、悪霊に近ければ近い程、鼻血の量は増えていく。
他の霊視能力者には、この能力は無い為、霊視とは違う能力ではないかと言われている。
ボタッ、ボタタタッ
『お、おい、大丈夫か?』
「ヤバい。ティッシュ切れた。こんなことならもっと持ってくるんだった……」
『やっぱもう帰っていいぞ!血やべぇし』
「大丈夫。いざとなったら逃げるし。血、拭きたいし」
『ならいいんだけどよ……』
トイレに行けばトイレットペーパーがあるはずだ。
女子トイレが見えてくる。
「着いた」
『じゃあ、やるか』
「その前に鼻血……」
鼻血を拭こうと思い、一番手前の個室へ入り、トイレットペーパーをとる。
すると突然、ブツンッ、とスマホの電源が落ちた。
「あっ」
おかしい。
充電はまだ五十パーセント以上あった。なのにスマホの電源が落ちるのはおかしい。
とりあえずトイレットペーパーで鼻を押さえながら個室から出る。
トイレの窓から月光が差し込み、トイレ内を照らしている。
一番奥のトイレが目に付く。
トイレに近づくごとに、鼻血の量は増えていた。
つまり、悪霊は俺が今いるこのトイレ内に悪霊がいる。
多分、花子さんが悪霊だよな……?
一番奥のトイレの個室の前に立つ。
旧校舎のトイレの扉は全て常に閉まっていて、鍵が開いていても、個室内の様子は扉を開けない限り見えない。
まぁ、要するに、現時点では、目の前の個室内に何がいるか分からないってこと。
おそらく中に居るであろう相手からは、今の所特に何もしてこない。
そりゃそうだろう。花子さんはこちらから呼び出さないと成立しないのだから。
鼻血の量が今までの比じゃない。俺が出遭ったどの悪霊よりもずっと凶悪で、強力だろう。
異常な量の鼻血が、トイレットペーパーに染み渡っていく。
鼻血のせいで手は真っ赤だ。
花子さんが悪霊ならば、この目でしっかりと確認して、これ以上被害が出ないように、祓って貰わなければならない。
その為には、花子さんを呼び出さないと。
一回、深呼吸をする。
「よし」
コンッコンッコンッ
「花子さん花子さん」
ゴクリッ、と、自分の唾を飲み込む音が聞こえる。
「いらっしゃいますか」
個室内でトタッ、と、着地音らしきものが聞こえる。
便座かロータンクから降りたのだろうか。
「はーあーいー」
男か、女か分からない声が聞こえ、個室の扉が開く。
「呼んだ?」
開いた扉から、無邪気に笑う、中性的な顔立ちの子が手をひらひらさせている。
「…………え?」
待て待て待て。よし、一旦整理しよう。俺のこの、異常な鼻血の量。この量から見て、相手は間違いなく悪霊だ。えっ?これが?こいつが悪霊?は?訳分からん。この中性的な顔で、アホ毛出てるショートカットで、四つ校の昔のセーラー服着てる、この、男か女か分からない、この人畜無害そうなこいつが悪霊?悪そうでもないんだが……。うん、考えるのはやめよう。無駄だ。
「うわっ!てか血の量エグいんだけど。トイレットペーパーで鼻押さえてるけど、もしかして、それ全部鼻血?」
悪霊?は個室から出てきて俺の鼻を指で差す。
「うん。そうだけど」
俺が返事をすると、一気に距離を詰めて来た。
「ちょっ、近っ――」
「えっ!お前俺ん事見えんの!?」
喋ろうとしたら言葉を重ねて来た。
「うん。見えるけど」
「マジかよ!霊感あるってこと!?」
「うん。俺の能力霊視だから」
「おー!」
なんだこいつ。無駄にテンション高ぇな。
「そーいやお前の名前なんだ?俺の名前はもちろん知ってると思うけど、花子だ。これからよろしくな!」
やっぱり、こいつが花子さんなのか。…………ん?
「えっ?花子さん、今、俺っ、て、言った……?」
「えっ?言ったけど?」
こいつ……まさか……。
「…………男?」
「男だよ?」
「えっ、じゃあ、なんで昔の
「あー、これね。花子さんは、死んだ代の女子制服着なきゃなんねーんだよ」
「嫌じゃねーの?」
「初めは嫌だったけど、今は別に」
「えっ、なんで?」
花子さんの顔が真剣な顔付きになる。
「だってさ、考えてみなよ。この格好だと……」
「格好だと……?」
「表面上合法的に女子トイレに居れるじゃないか!!!(クソデカボイス)」
「…………は?」
何言ってんだ?こいつ。
「だから、表面上――」
「それは分かった」
「むぐっ」
俺は花子さんの口を塞ぐ。
花子さんはそんな俺の手を払い除ける。
「ぷはっ、なら良い!」
「お前…………変態?」
「そーだぞ!」
良い笑顔で花子さんは答える。
「うん…………。良い笑顔だな……」
たぶん、何を言っても、ダメな気がする。
「そーいやお前の名前は?」
「あぁ、さっき言って無かったな。俺の名前は霊見」
「れみ?」
何故か花子さんはポカンとした顔をしている。
「あぁ。霊を見ると書いて霊見だけど……」
腹を抱えて、広角が少し上がっている。
何か変なこと言ったか?
「ブッハッッW霊見ってWW女子っぽい名前だなWW」
「なっ、う、うるせー!俺だってちょっと気にしてんのに!」
「わW
まだ腹を抱えて笑っている。どうやらツボったらしい。
人の名前で笑うなんて失礼な奴だ。
「ふー」
花子さんは一息つく。
「で、その鼻血いつ止まんの?」
俺は鼻血が出続けている。やべぇな。
「花子さんの半径百メートルから出るか、花子さんと三日間一緒に居れば段々止まる」
「三日?なんで三日なの?」
「特定の霊と三日間一緒に居ればその霊に対して耐性ができるから」
「そっかぁ。じゃあ、霊見は三日連続鼻血出っ放しだな!」
屈託の無い笑顔を向けてくる。
「えっ!?まさか憑いて来る気!?」
「うん。そりゃそうだろ。噂にも気に入られたら憑かれるってあるだろ?まぁ、気に入ったらっていうか、俺のこと見える奴に憑くんだけどな!ちなみに不幸になるってのは、俺の事見えねーのを利用してちょっとイタズラしてるだけ。靴紐解いたりとか……」
なるほどそういう事か。
「そんじゃあ、これからよろしくな!霊見!」
花子さんが手を差し出してくる
「……ホントに憑いて来んの?」
「当ったり前だろ!」
「…………よろしく」
俺は花子さんの手を握る。
「明らかに嫌そーな顔すんなよー」
そう言いわれながら、俺は、花子さんに取り憑かれる事になった。
霊見と愉快な七不思議(実質八不思議)ども 涼猫 @8972yarumina
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