開かずの扉
ゆでたま男
第1話
杉田は小学校の教師だった。40歳の独身男。
1ヶ月前に赴任してきたばかりだ。
その学校には、開かずの扉があった。
生徒達は、みな、子供の幽霊が出るから開かずの扉にしてあると言ってる。
だが、杉田はそんなバカなと信じない。
ある日。杉田は、遅くまで学校にいた。
時刻は午後8時。他の教師は既に帰った。
すると、ふと気配を感じた。
入口の引き戸のすりガラスに影が見えた。
「こら、だれだ?」
懐中電灯を持って廊下に出る。
廊下を照らすと、影が一瞬見えたが、
階段の方へ消えて行った。
背丈で小学生だとすぐに分かる。
杉田は、歩いて行った。
二階で何かの音がした。
「こら!いい加減にしなさい」
階段を登る。二階の廊下を進むと、
教室の扉が開いていた。
電気をつけて中に入る。
「出て来なさい」
その時、杉田は不思議な感覚にとらわれた。
その教室に見覚えがある気がしたのだ。
「まさかな」
学校なんてどこも似たようなものだ。
今度は、廊下で何かの影が走って行った。
廊下に出てライトを向ける。
廊下の一番奥。その扉はあった。
開かずの扉だ。
「なんなんだ」
職員室に戻ろうと、振り返ったとき、
ふとポケットに違和感を感じた。
手を入れると、何かが指に触れた。
固い何か。
背筋に汗が流れて行くのがわかった。
取り出すと、それは鍵だった。
倉庫と書かれた札がついている。
杉田は、まだ小学生だった時の事を思い出した。
その部屋は二畳ほどの部屋で、倉庫として使っていた。
どうしてか分からないが、とにかくその倉庫の鍵を手に入れていたのだ。
同級生にノボルと言う子がいた。
普段から、からかって面白がっていた。
次第にそれがエスカレートして、いわゆる、いじめのような状態になっていた。
「いいから入れよ」
「やめてよ」
ノボルを倉庫に押し込めると、扉を閉めて、鍵をかけた。
「開けてよ、開けてよ」
ノボルは、しばらく、そう言っていたが、
やがて、静かになった。
「ノボル?」
返事がない。
「おい、ノボル?ノボル?」
扉を叩いたが、静かなままで、反応がない。
なんだかとても怖くなって、鍵を持ったまま家に帰ってしまった。
ところが、家に着くと、いつの間にか鍵は無くなっていた。
次の日、当然ノボルの姿は学校にはなかった。
だが、そのことを誰にも言えずにいると、
担任の先生が、理科で使う実験の道具を出すため倉庫を開けたいが、鍵がないと言い出した。仕方なく、鍵屋を呼んだのだ。
「先生、やめようよ」
「なんだ、どうしてだ」
「開きました」
「変なやつだな」
目を閉じると、扉がきしむ音がした。
「あ!」
先生の驚いた声がした。
もうダメだ。
「なーんてな、冗談だよ」
先生は、笑った。
結局、そこにノボルはいなかった。
それどころか、ノボルの存在自体、
誰も覚えていなかったのだ。
まるで、初めから存在しなかったように。
未だにあれは、何だったのか分からないままだった。
「何でこの鍵が」
あの時、無くして見つからなかった鍵。
震える手で、鍵穴に鍵をさして回す。
カチャリと音がした。
扉をゆっくり開けて、ライトを向けた。
だが、中はもぬけの殻だった。
杉田は、ほっと胸を撫で下ろした。
その時、左手にひんやりと冷たい感触がした。誰かが手を握っている。
ゆっくり左手を見ると、小学生の時のノボルがそこにいた。
「ねぇ、どうして開けてくれなかったの?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
杉田は、何度も呟くように言った。
ノボルの体は、みるみる皮膚が溶ける様に崩れ落ち、骨が剥き出しになっていく。
「ねぇ、どうして?」
歪んだ声で、なおも聞いてきた。
「ぎゃぁぁぁ」
杉田は、叫びごえをあげた。
同時に、すごい力で山咲に部屋の中へ引っ張り込まれ、扉がしまり鍵がかかった。
教壇には、教頭が立っていた。
「杉田先生は急な都合でやめることになりました。しばらく私が担任を受け持つことになりました。みんなよろしくね」
ほどなくして、噂話が広まった。
「ねぇねぇ、知ってる?あの開かずの扉って、前にこの学校にいた先生が閉じ込められてるんだって。夜になると、学校の中を歩いているらしいよ」
開かずの扉 ゆでたま男 @real_thing1123
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます