第41話 禁魔獣戦 前編


俺の生み出した岩石の牢獄から出てきた禁魔獣は俺たちに視線を向けると一目散にこちらへと攻撃を仕掛けて来た。やはりそのスピードや攻撃の威力は凄まじく、奴の一挙手一投足全てに衝撃波が発生するほどであった。



「ふんっ!」


「はあああ!!!」



禁魔獣との戦闘は特に作戦を断てたわけではなかったが、メインを俺が引き受けて騎士団長が隙を突いて横や後ろから攻撃を仕掛けるという形に自然となっていった。


アイリスの情報では奴には刃での攻撃が効かなず、勇者の聖剣か賢者の魔法のみが効いたらしいのでいつものように剣を使うことは今回はせず魔法と体術のみで戦うことにした。


おそらくだが奴は物理攻撃への耐性が非常に高く、魔法攻撃への耐性も高いが高密度の魔力による攻撃であれば聞くのではないかと考えられる。


勇者の聖剣はそれそのものがほぼ魔力の塊と言っていいほどの魔力が込められている剣だと伝わっており、それに賢者の魔法しか効かなかったと考えるとそういう仮説が立てられる。



そのため俺は騎士団長の剣にも聖剣ほどではないだろうがかなりの魔力を付与させておいた。これで全く効かないということはないだろうと考えたのだ。


すると俺の予想通り、騎士団長の剣は禁魔獣に全く効いていないということはなく多少ではありそうだが奴の身体にダメージと傷をつけることに成功していた。



俺も魔法や魔力のこもった拳や蹴りで禁魔獣に応戦しているが、手ごたえはあるが大したダメージにはつながっていないように感じていた。


だが禁魔獣の攻撃も驚異的な威力とスピードではあるが、何とか俺が全て対応することが出来ており騎士団長も俺も禁魔獣と同様にそれほどのダメージを負っていない。


どちらも決定打に欠けるという感じである。



しかしルナたちが無事に街へと辿り着いて騎士団長がこの場から離脱することが出来れば最悪この体を犠牲にし、この辺り一帯を焦土と化してもいいのであれば倒せる見込みはある。


だがその前に奴が使う魔法はこの世界には存在していない未知の属性であり、使用してくるものも知らない魔法ばかりなのでまずは積極的に仕掛けることよりも禁魔獣のことを知ることが大事であろう。


それと同時に騎士団長がこの場を離脱するまでの時間稼ぎをする、この二つが今のところ優先すべきことだ。



だが一つ、禁魔獣に意思や感情などがあるのかは分からないが戦闘中ずっと奴の口がニターッと笑い続けているのが妙な不気味さを感じさせる。何か考えを持って行動をしているとなればさらに厄介なことになりかねない。



「はぁ!!」



俺はさらに拳の周りに風魔法による風刃を纏う。

風刃を纏った俺の拳はやつの身体をさらに傷つけることに成功した。



「キ...キエエエエエエ!!!!!!!!!」


「「?!」」



突然、先ほどまで無口だった禁魔獣が甲高い奇声を叫び始めた。騎士団長は咄嗟に耳をふさぎ、俺はすぐにやつに無音(サイレンス)の魔法を使った。


するとさらに一段階ギアを上げたかのように先ほどまでよりもスピードが増した。俺もさらに奴に呼応するようにスピードを上げて禁魔獣との攻防を繰り広げる。



奴の繰り出した拳を避け、懐に入り込んで顔面へと拳を繰り出す。その攻撃を残りの腕で防がれるが至近距離で風魔法により荒れ狂う暴風をぶつけて吹き飛ばす。


吹き飛んだ禁魔獣を猛スピードで追いかけ、行き着く間もなく追撃を加える。しかし不安定な空中で俺の追撃を見切って逆に反撃を食らう。


俺も何とか防御が間に合い、少し吹き飛ばされた程度で着地する。

そこに少し遅れて騎士団長が追い付く。



「オルタナ殿すまない。これでは足手纏いだな...」


「相手が強すぎるだけなのでお気になさらず。それよりももうすぐ殿下たちが街に到着しそうです」



俺は禁魔獣との合間を縫って魔道衛星にルナたちを追跡させている情報を確認していた。そうしてついにあともう少しで街に着くというところまでたどり着いているようだ。



「そうか...オルタナ殿、一人でも...いや一人の方が戦いやすいだろうか」


「...すみません」


「いや、謝る必要はない。では俺もここから離脱する」


「お願いします」



騎士団長は少し申し訳なさそうにそのように告げると隙を見てこの戦いから離脱することになった。そうして喋っている間にも禁魔獣がこちらに向かって迫ってきた。



「騎士団長、今です!」


「了解した!」



攻撃を仕掛けて来た禁魔獣を俺が受け止め、騎士団長が戦線から離脱する隙を生み出した。これでようやく周囲の影響を考えずにこいつを倒す手段を取れる。


そう思っていると目の前の禁魔獣の口が先ほどまでよりもさらに大きくニターッと口角を上げて笑い始めた。俺は差すような嫌な予感に襲われてすぐに禁魔獣から距離を取る。


だがやつは何も仕掛けてくることはなかった。

一体何を考えているのだ...?




すると突然、後ろの方から鈍く低いうめき声のような声が聞こえた。俺はすぐに後ろを振り返るとそこには木の陰の中から謎の黒い棘のようなものが飛び出てきており、それに腹を貫かれている騎士団長の姿があった。



「き、騎士団長!!!」



俺はすぐに騎士団長の元へと駆けつけようとするが、俺が向かおうとした瞬間にその騎士団長の身体を貫いている黒い棘からさらに複数の棘が飛び出して騎士団長の身体を串刺しにした。



俺は絶望的な光景に全身全霊で彼の元へと駆けつけ、その黒い棘を破壊して救出する。助け出した彼はかなりの重傷ですでに虫の息であった。



「今、治します!!!」



俺はすぐに回復魔法で騎士団長の治療を行おうとするが、そこに禁魔獣がここぞとばかりに猛スピードでこちらへ迫ってきた。


俺はすぐに騎士団長を地面に下ろして奴を向かえ打つ。



スピードに乗った奴の拳を避けて奴の腹に強烈な蹴りを入れる。吹き飛ばした禁魔獣に雷魔法のライトニングチェインで拘束し、高電圧と鎖による拘束で一時的に奴の動きを止めた。



そしてその次の瞬間に水の上位魔法、絶対氷結(ゼロ・アブソル)を発動させる。ライトニングチェインで拘束された禁魔獣の足元に巨大な魔法陣が現れ、禁魔獣およびその周囲を一瞬にして凍結させた。


これでしばらくの間は動きを封じることが出来るだろう。

その間に俺は騎士団長の治療を行う。



「死ぬな!あなたが死んだらアイリスが悲しむじゃないか!!!」


「......」



すでに意識のない騎士団長に最上位回復魔法:パーフェクト・ヒールを使用する。この状態の彼に回復魔法がどこまで効くのか分からないが絶対に死なせない...!!


俺が必死に回復魔法で騎士団長の治療をしていると何やら巨大な氷の山から気のせいで済ませてしまうほどの小さな小さな異音が聞こえた。



回復魔法を使用しながら横目でチラッと音のした方へと視線を向けるとまさか氷の山の中から真っ直ぐに黒い棘が伸びて来ており、それがすでに俺のすぐ目の前まで迫っていた。


反応し遅れてしまったが俺はすぐに避けようと全力で回避する。だがその棘が物凄いスピードで完全に避けることが出来ず、迫ってきた棘が右腕を貫通してしまった。


先ほどの騎士団長の件もあったので俺はすぐにその右腕を肩から引きちぎった。そのまま倒れている騎士団長を抱えてその場から退避する。


すると俺が棘から1mほど離れたぐらいの時に先ほどのようにその黒い棘からさらに無数の棘が飛び出て、まるで俺の右腕が針山のように串刺し状態になってしまっていた。



「まさかあの状態で攻撃できるとは...」



完全に氷で閉じ込めたはずの禁魔獣は氷の中からほとんど音もしないレベルの小さな棘を生み出して俺の不意を突いてきた。それに明らかに俺の頭を狙って放っていたので奴はちゃんとした意思を持っていると考えていいだろう。


騎士団長を回復する時間を稼ごうと思ったがどうやら難しいようだ。



「クリエイト・ゴーレム!」



俺は残った左腕を地面につけてゴーレムを生み出す魔法を発動する。すると目の前の地面に魔法陣が現れて、そこから岩石で出来たゴーレムが出現した。



「ゴーレム、この人を指定の場所まで急いで運ぶんだ」



俺はゴーレムに騎士団長を運ぶように指示をするとすぐに彼を抱えて街の方へと飛び出した。



騎士団長は先ほどの僅かな時間で多少の治療は出来たので今すぐに命に係わるという事態からは脱したのだが、まだ予断は許さない容体だ。


街に辿り着ければルナ、もしくは回復魔法が使える冒険者たちがいるので治療の続きをしてくれるはずだ。流石に彼の今の状況を完全に回復させるには上級以上の回復魔法が必要だが、容体を安定させるだけなら中級でも大丈夫なはずだ。


それに俺の生み出したゴーレムは今の俺の身体とは違って簡易型ではあるが、飛行魔法を付与して耐久性とスピードに特化するように生み出したのでよほどの魔物に阻まれない限りは無事に街まで送り届けてくれるだろう。



それに少なくともこの場に居続けるよりは騎士団長が生き延びる可能性は高い。



「キエエエエエ!!!!!」


「させるか!!」



すると騎士団長を抱えて飛び去るゴーレムを見た禁魔獣はそちらに向かって走り出したのだが、俺はゴーレムと禁魔獣との間に入って他を見向き出来ないほどの攻撃を繰り出す。


右腕をなくした今の状況では勝てる見込みがかなり絶望的にはなってしまったが、最終手段を使えばこの身体を犠牲にして奴を倒すことは出来るだろう。


この身体ではなく本体で戦うのであれば最終手段も特に懸念無く使えるのだが、今の身体で使えば周辺環境への影響は計り知れないものになるだろう。


そうなれば少なくともオリブの街周辺の地図を書き換える必要が出るぐらいの影響は出るだろう。もしかしたら他のところにも影響が出る可能性もある。



まさかこのれほどの魔物が存在しているとは思わなかったから今更ではあるが、もっとこの身体の性能を上げておけばよかったと禁魔獣と戦いながら僅かに後悔が積もっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る