第18話 ドラゴンを監視するギルド


俺たちは魔道車を飛ばしておよそ6時間半、緊急依頼の差出人である冒険者ギルド:レガノ村支部のギルド長の元へと到着した。レガノ村はこの辺りでは一番大きな村であり、この辺り一帯をこの支部が管轄しているのだ。


ドラゴンの生息域の監視もこのギルドが担当しており、何か変化があればこのギルドから情報がすぐに各地の冒険者ギルドへと送られるのだ。


以前のドラゴン討伐の依頼もこのギルドからの情報提供があって依頼が出されていたのだ。今回は生息域に何か異常があったのかどうか詳しい情報を得るためにこのギルドへとやってきた。



「これはどうも!話は伺っております、SSランクのオルタナさん」


「堅苦しい挨拶は結構だ。すぐにドラゴンの情報を詳しく教えてくれ」


「わ、分かりました!ではこちらへ」



このよぼよぼのお爺さんはレガノ村支部のギルド長でレガノ村の村長でもあるらしい。俺たちがギルドに到着するや否やすぐに応接室へと案内してくれた。


ギルド長は俺たちを応接室へと案内すると資料を取って来ると言って部屋から急いで出ていった。待っている間、俺は横目でチラチラとルナの様子を確認していたがとりあえず少し緊張しているぐらいで概ね大丈夫そうである。



「こちらが最近のドラゴンの生息域の変化を記録したものになります」


「拝見する」



俺とルナが応接室のソファへと腰を下ろして待っているとギルド長が沢山の資料を持って再び現れた。その資料を確認させてもらうとある日を境にドラゴンが活発に活動しているのが確認され、その数日後にとある1匹が生息域を離れたと記載されていた。


おそらくそれがルナたちが遭遇したあのドラゴンだったのだろう。


そしてその後、しばらくは何事もなかったのだがここ最近になって改めて計5頭のドラゴンが生息域を離れて飛んでいったという。



「なるほど、あまり詳しいことはここでも把握していないということか」


「ええ、あくまでも私どもはドラゴンの生息域を遠くから観測しているだけにすぎません。生息域内で何があったのかという詳しいことは分からないのです。ただある日を境にドラゴンの活動が活発化したのは明らかですので、何かがあったのは確実かと...」



まあ、確かにドラゴンの生息域外からだと変化の有無ぐらいしか分からないか。だとすればやはり詳しい情報を得るにはドラゴンの生息域に入ってみないと駄目なようだ。



「ちなみに、その5頭のドラゴンは今どこにいるか把握しているのか?」


「ここから西に馬車で1日ほど進んだところにある村が昨日、そのドラゴン5頭に襲われたと報告を受けております。それ以降の動きはこちらとしても把握出来ておりません」


「そうか、礼を言う」



このギルドで手に入る情報は全て確認し終え、俺たちはギルド長に礼を言ってギルドを出る。どうやらギルド長はかなり忙しいらしく俺たちの対応を終えるとすぐにどこかへと行ってしまった。



「ここのギルド、人が少なくて大変そうですね」


「そもそもの人口が少ないというのもあるだろうな。辺境の地というのもあってなかなか人手が集まらないのだろう」



そんなことを言いながら俺たちは再び魔道車へと乗り込んで次の目的地へと向かうことにする。次の目的地は先ほどの話でもあった、昨日ドラゴンに襲われた街だ。



「オルタナさん、やはりまずは5頭のドラゴンの討伐からですか?」


「とりあえずはそうだ。ただ今回はただの討伐というわけではなくてやつらの目的が何なのか、生息域を離れた原因を調べないといけない。出来ることなら話し合いができればいいが...」


「えっ、話し合い...ですか?ドラゴンと?」



助手席に座っているルナは俺の発言に首を傾げる。


ドラゴンというのは滅多に生息域から出ることはなく、侵入してきた者はその圧倒的な力によって瞬殺されることからドラゴンの生態については一般にほぼ知られていない。


だが大昔に生きていた一部の人々がドラゴンと共存していたこともあるというのが古文書に記載されているのだ。王立図書館の奥に保管されている一部の者しか読むことが出来ない古い文献にはごくごく限られたドラゴンの情報が記載されていた。


おそらく一部の貴族や研究者などはこれらの文献を読んで知っているのかもしれないが、現代ではドラゴンとの交流は一切ないので今でも人の言葉を話せるドラゴンがいるのかというのは俺のようにドラゴンと直接対峙したことのある者しか分からないだろう。



「あまり一般には知られていないが、ドラゴンにもいろんな個体がいる。基本的に若いドラゴンは血気盛んで好戦的なやつが多い。おそらく先日のドラゴンもその部類だろう。その後、段々歳を重ねて経験を積んでいくと人の言葉を理解し話せる個体が出てくる。そのような個体は理知的になって若い個体に比べて好戦的ではなくなる。そしてそれらの個体の中でも現在、知能も力も全ドラゴンの頂点に君臨するのが古龍と呼ばれるドラゴンの長だ」


「まさか話せるドラゴンがいるだなんて...驚きです」


「だからその5頭の中に1匹でも人の言葉を理解できるドラゴンがいれば比較的簡単に情報が得られるかもしれない。だが、人の言葉を理解できるほどのドラゴンが自分たちの生息域を離れるとは到底思えない。おそらく有無を言わずに戦うことにだろうな...」



出来ることなら戦わずに済むならそっちの方がいい。

俺は殺戮を楽しみたいわけではないからな。


だが相手に言葉が通じず、好戦的であったならば討伐しか方法がないという訳だ。



「...お話が通じる相手だといいですね」


「ああ、そうだな」



その5頭が話の通じる相手であることを願い、俺たちは魔道車を目的地へと猛スピードで飛ばしていく。






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レガノ村から魔道車を走らせておよそ1時間、話にあった昨日ドラゴンに襲われた村に到着した。


辺りは昨日以前には村があったとは思えないほどの瓦礫の山で炭化した木材が至る所に散らばっていた。村の跡地全体を探知魔法で調べてみたが、生き残っている人は誰もいないようだ。



「...ひどい」


「...ああ、そうだな」



正直こんな光景を前にして俺もルナも何も言葉が出てこなかった。ルナに関してはあの時もドラゴンに破壊された町と被害に遭った人たちを見ているから、あの時の出来事がフラッシュバックして体調を崩さないかどうかそれが心配だ。



「ルナ、大丈夫か?」


「...はい、大丈夫です」



俺が心配しているよりは大丈夫そうで安心した。だが一応、ルナに体調が悪いのであればすぐに言うように促しておく。恐怖や不安に立ち向かうという決意を固めた彼女の意思を尊重したいが、無理だけはしないで欲しいからだ。



「やはりドラゴンはすでにこの近くにはいないか」


「丸一日経ってますからね...どうやって探しましょうか?」



とりあえず直近被害のあった村に来てみたはいいがドラゴンたちはすでに探知魔法の範囲にすらいなくなっていた。正直そうだろうとは思っていたが、何かドラゴンの居場所や今回の騒動の原因が分かる手がかりが見つかるかもと思ったのだ。


まあ結局は何も分からず仕舞いだったけれども。



「......これ以上野放しにもしておけないか。仕方ない、あれを使うとしよう」


「あれ...?」



出来ればあまり使いたくはないのだが、とある魔道具を収納魔法で異空間から取り出した。


それは両手サイズよりも少し大きな金属製で長方形の箱。箱というよりは板の方が合っているかもしれない厚さではあるが、板というよりは少し分厚めの形状をしている物体である。


その魔道具を手に取って魔力を流し込み起動させる。すると表面上に様々な文字が浮かび上がって魔道具に組み込まれたシステムが起動した。



「お、オルタナさん。それは一体...?」


「そうだな、詳しくは言えないが...ドラゴンを探すための魔道具...とだけ伝えておこう」



この魔道具の正体は、俺が開発した魔道衛星(サテライトシステム)を遠隔操作できる魔道具である。上空およそ400㎞の地点に打ち上げて待機させている魔道衛星は地上の地形情報の取得はもちろん、対象の探索や超上空からの攻撃まで多種多様な機能を兼ね備えている。


それをこの操作用魔道具で地上から操作することが出来るのだ。ちなみにこの魔道具だけではなく、自宅にあるオルタナシステムを作動させている魔道具でも魔道衛星は操作できる。


実はこの魔道衛星を完成させるまで紆余曲折あってかなり大変だったのだが、完成した魔道衛星は俺のオタク心をあれやこれやといろんな機能を詰め込み、結果として今まで作ってきた魔道具なのかで一番ヤバい魔道具になってしまった。


意図してはいなかったけれど、結果的にそうなってしまったので致し方ないと言い訳しておく。まあつまりは存在を公に知られると非常に不味い代物ということだ。


だがせっかく作った魔道具を眠らせておくのは勿体ないし、超上空に存在するものを誰も知る由もないだろうということで現在進行形で稼働させているのだ。



というわけでルナにもその詳細を伏せつつ、魔道衛星を起動させて生息域を離れて行動している周辺のドラゴンを探知する。探知範囲を王国内の今いる辺り一帯に設定し、探知機能を発動させる。


するとものの数秒でここからさらに西に約100㎞進んだところにドラゴンの反応が5頭分あることが確認できた。おそらくこれがこの村を襲ったドラゴンたちだろう。



「どうやらここから西におよそ100kmのところにいるみたいだ。すぐに向かおう」


「えっ、もう分かったんですか?!しかもそんなに距離が離れているのに...?!」


「そういう魔道具だと認識してくれ。あとこの魔道具のことは他言無用で頼む」



例えルナでさえこの魔道具の詳しい内容を話すわけにはいかないので申し訳ないがそのように納得してもらう。ルナも他言無用という言葉を聞いてヤバイものだと理解したのかそれ以上その魔道具について聞いてくることはなかった。


そうして俺たちは再び魔道車へと乗り込んで反応があった方向へと急いで向かう。



次の被害を出さないためにも出来る限り速く目的地へと飛ばす。このまま行けばおそらく日が沈む前にはギリギリ到着できると思う。


日が沈み切るまでに何とか5頭のドラゴンたちの対処をしておきたい。そう思いながら俺は魔道車を安全運転で、かつ全速力で走らせる。



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