File:7 A Man of Mass Destruction (7)

「終わっ…た。」

 戦闘不能になった守宮を見て気が抜けたのか、糸が切れたかのように座り込む。

「大丈夫か、怪我はないか?」

 駆け寄って来た電童にそう声をかけられると、先程まで何ともなかった手に少し痛みを感じる。手を見ると、銃弾が触れた部分だけ火傷のような跡がある。

「さっきの銃弾でちょっと火傷したみたいです。」

「その程度で済んでいるなら何よりだ。危険な目に合わせてすまなかった。」

 電童は心底ホッとした様子だった。

「それにしてもだ、何故能力が急に使えるようになった?」

 さてどう説明したものか、まさか「変な声が聞こえたので」と言ったら正気を疑われそうだ…

「いや…自分にもよく」

 結局誤魔化した。さっきと同じ事が出来るかも分からないのだし。

「さっきのお前はどうにも別人のような、何かに操られていたような気がしてな…」

 そう電童が言いかけた辺りで、自分たちが来た方向から数人の足音が聞こえた。

「ようやく来たか、9分45秒とは待たせてくれる。」

「ギリギリで悪かったな静電気小僧!警察は忙しいんだ!」

 現れたのは某大泥棒のアニメに出てくる警部のような、ベージュ色のソフト帽とトレンチコートを身につけた男だった。

「我々に依頼をしている身分でよく言えたものだ、鍵崎かぎざき。」

「やかましい!ワシが依頼を出している訳では無いわ!貴様らのような変人集団に依頼するなど本来はなァ」

「お前のプライドをたれている暇があったらさっさとそれを連れて行け、時間が惜しい。」

「クッ、生意気な青二才が…」

 傍から見ていてもわかるほどに相当仲が悪いらしい、身分さえなければ即座に殴り合いそうな雰囲気だ…

「ところで静電気小僧、このガキは誰だ?」

 鍵崎はこちらを指さして聞く。ガキは酷くないだろうか、これでも二十歳にはなっているのに。

「今日付けでウチに入った新入りだ。名前は─」

「自分で聞くから言わんでいい。」

 鍵崎はこちらに向き直ると、警察手帳を取り出して見せながら。

「ワシは警視庁超能力犯罪捜査取締課の課長、鍵崎かぎざき 開閉かいへいだ。」

「破堂 甲矢です。よ、よろしくお願いします。」

 鍵崎はこっちを舐め回すように見て、ため息をついた。

「お前はまだ純粋な様で気の毒だ、頼むからあの変人共に染まってくれるなよ。」

「はぁ…」

 どうやら相当組織に困らせられているらしい、少々可哀想に見える。

「変人集団なのは認めるが俺を一緒くたにするな。」

「貴様も同罪だ貴様も!」

 その後もブツブツと何やら言いながら、鍵崎達は守宮を連れて元の道を戻っていった。

「色々あったが今日の仕事は終了だ。一旦超能力庁に戻るぞ。」

「は、はい。」

 少々フラつきながらも公園の来た道を戻り、待っていたらしい車に乗り込む。疲れからか、揺られているうちに寝てしまった。


「着いたぞ、起きろ。」

「んあ、ふぁい…」

 眠気のせいで頭がうまく回らないが、何とか車を降りる。

 頭を振ったりして意識を戻し、電童に続いて庁舎に戻る。特殊対策課に戻ると、入ってきたことに気づいた黒服が近づいてきた。

「どうした?」

「長がお待ちしております、早めに行かれた方が良いかと。」

 電童はそれを聞いて深いため息を吐き。

「…わかった。破堂、先に行ってろ。奥に進んで左の方だ。俺は書類を処理する必要がある。」

 と言って部屋の奥へ行ってしまった。

「わ、わかりました。」

 何かまずかっただろうか?と戦々恐々としながら、迷路のような部屋の奥を小走りで目指す。奥あたりに来て左の方を見ると、妙に少女漫画風なフォントで「課長室」と書かれた札が着いたドアがあった。

 ノックを2回して返事を待つ、5秒ぐらいして「入っていいよ!」と聞こえた。

「失礼します。」

「いらっしゃい破堂君、初仕事はどうだったかな?」

 高そうなデスクに頬杖をついて、氷川は待っていた。

「ちょっと色々あり過ぎて疲れました…」

「鍵崎君にも会ったんだってね?そりゃあ疲れるよ、初日からヘビーな仕事になっちゃったみたいだ。」

 言葉は労っているが氷川はケラケラと笑っていた。電童が頭を抱える理由がわかってきたかもしれない。

「こういうのが日常なんですか?」

「そうだね、じきに慣れると思うよ。」

 やはりとんでもないところに入ってしまった。と心の中で項垂れる。

「その、なんで僕は呼ばれたんです?」

「それはだね、これを君に渡そうと思って呼んだんだ。」

 デスクの上に置かれたのは、弁護士などがつけているようなバッジと手帳であった。

「これは?」

「ウチの組織のバッジと手帳だよ。君の正式な登録が済んだから発行しておいたんだ。」

「ははぁ…」

 手に取って眺める、バッジは目のようなデザインをしており、手帳の表紙にも同じようなエンブレムが刻まれている。

「持っておくと色々都合がいいから常に身につけることをおすすめするよ。手帳だけでも大丈夫!」

 氷川は自慢げにサムズアップしている。

「バッジはつけてる人少ないんです?」

「そうだね、この課ウチ服装自由だから。」

 確かに真面目そうな電童すら付けていなかったので、あまり必要なさそうだ。

「君への要件はそれだけ、もう帰って大丈夫だよ。」

「え、もう無いんですか?」

「うん。明日から大学と並行してもっと頑張ってもらうから、今日はちゃんと休んで英気を養うこと!いいね?」

「は、はい!」

 分かればよろしい。と言われ退出を促されたので、そそくさと退出すると、それを予見していたかのように電童がドアの外に立っていた。

「時間通りに終わったようだな。あとはもう帰って大丈夫だ。」

「ほんとに僕は何もしなくて良いんですね?」

「昼にも言ったが、少しづつ覚えた方が効率的だからな。免除だ。」

「あ、ありがとうございます…」

 申し訳なさを感じながら、軽い迷路のような室内を抜け、庁舎を後にした。

 さすがに限界だったのか、家に着いたあとは布団にそのまま倒れ込んでしまった。



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 破堂が帰ってすぐの時、課長室では別のことが動き出していた。

「さて電童、彼はどうだったかな?」

「未熟ですが素質はあると思います。慣れていけば一人でも問題無いでしょう。」

「なら良かった、君が認めたなら大丈夫だね。」

 うんうんと頷く氷川に、電童は単刀直入に切り出す。

「氷川さん、何故彼を拾ったんです?貴方が誰かを拾う時は必ず意味があるはずだ。」

「今回の意味、か。」

 氷川は少し考えてから、もう一度口を開く。

「破堂君を拾ったのは、アイツに対抗出来る可能性があるからさ。」

「まさか、氷川さんが長年追っている…」

「そう、等級『災』の1人。国際指名手配を受けながら未だ捕まっていないアイツ。」

「それにしたってなぜ彼を?彼は等級は3級です。対抗できるとは到底思えない。」

「政府の奴らとかが言ってる例の噂ってあるでしょ?」

「世界を脅かす災級のオーバーズが産まれた時、その抑止力たるオーバーズもまたどこかに生まれている。そんな大した確証も歴史も無い都市伝説がありましたね。」

「それを信じてみようって事さ、それに能力的にも見事に対比してるだろう?」

「ただの言葉遊びに見えなくもないですが…」

「それでもいいのさ、私はそんなものでも頼ってみたいぐらい……」

 氷川は余裕そうな表情をゆがませ、呟く。

「私は『創造』が憎くて堪らないんだ。」


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