File:6 A Man of Mass Destruction (6)

「暗殺者の癖に鉄製のダガーとは、不用心だな。」

 守宮を動かないように組み伏せながら、電童は呟く。

「刃物は重みがある材質の方が信頼が置けるからな…!」

 苦悶しながら拘束されている守宮は吐き捨てる。銃弾が3発ほど当たったはずだが、あまり効いている気がしない。防弾チョッキを着ているようには見えないので、スーツにそういう加工でも施しているのだろうか?

「あと10分程で異能課の連中がお前を護送しに来る、今のうちにシャバの空気を噛み締めろ。」

「ハッ…随分と甘いもんだな?」

 さっきとは違い、苦悶しながらも不敵に答える。不気味だ。

「甘い?3級程度には充分だろう。」

「そうじゃねえ、こうやって手足が使えねえ状況なら大丈夫と思い込んでる、お前らアマチュアに言ってるんだよ!」

「なっ!?」

 その瞬間、守宮の背中から爆発が起きた。

「電童さん!」

 吹っ飛ばされた電童はこちら側の少し離れた位置に転がってきたが、直ぐに起き上がった。

 多少傷を負っているが、そこまでダメージは受けていなさそうに見える。

「クソッタレ… 爆薬を仕込んでたのか!」

「俺も痛いが、この程度の拘束を解くには十分だ。」

 白煙を発している背中を撫でながら、守宮は立ち上がり、そして隠し持っていたらしい銃をこちらに向ける。

 応戦しようと銃を構えようとするが、先に撃たれて銃を吹っ飛ばされてしまった。

「ようやく得た自由だ…お前らなんかに、アマチュア程度に、このオレが、最高の暗殺者であるオレが、負けちゃあいけないんだよ!」

 髪を掻きむしり、地団駄を踏んで、まるで子供のように守宮は怒り狂っていた。

「アマチュア呼ばわりされる筋合いは無いな、我々もお前も、能力あってこそだろうに」

 電童は煽るように言い返す、同格扱いがさらに気に触ったのか、守宮はさらに怒り狂う。

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェ!」

 叫びながら銃をがむしゃらに乱射する、マガジンから弾が切れたのか、銃を投げ捨て、先程奪ったはずのダガーを持ち。

「二度と喋れねえようにしてやる、このアマチュア共がァ!」

 そう言って飛びかかった来た、僕の方に。

「破堂!」

 電童が止めようと駆け出すが、とても間に合いそうにない。

 迫る死に、足がすくむ。だんだんと世界がスローになっていく。

 思考が高速で回り出す。こんなところで死ぬのか?朝から訳の分からない状況に巻き込まれて、あっさり死ぬのか?

 そんなのはあまりにも呆気なさすぎるだろう。

 どうにかしたい、しかしどうにもならない。避けようと思っても身体は言うことを聞かない。

 もう少しぐらい、せめて何かしらに縋る権利ぐらい、与えてくれたっていいじゃないか。


 その時、突如としてが来た。

『受け入れるか?』

 頭の中に、誰かの声が響く。死に際に幻聴まで聞こえてきたらしい。

『死を受け入れるか?』

 もう一度響く、どうやら幻聴では無いらしい。どこかで聞いたことがあるけれど、それが誰なのかは分からない。

『今、ここで死を受け入れるのか?』

 再度問われる。そんなのは決まっている、まだ何も成せていないのに、死ぬのなんてごめんだ。

「まだ、生きたい。」

 そう答えた瞬間、世界の速さが元に戻っていく。

 戻る瞬間、最後にもう一度声が響いた。

『なら、足掻いてみせろ。』

 言われなくても。と、迫る死に向かって手を伸ばす。

 ダガーと手が触れた瞬間、ダガーは一瞬白い光を纏う。そして、粉微塵になって消え失せた。

「はァ!?」

 守宮は大きく狼狽えて飛び退く。その目は眼前に現れた突然の脅威に大きく慄いていた。

「これならどうだ!」

 持っていたのはスマートフォン程度しかない大きさの銃だった。流石はプロ、慄きながらも狙いはこちらをしっかり狙っている。

 1発、2発と発砲される。その瞬間、世界がもう一度スローモーションになっていく。放たれた弾丸の軌道が自分の心臓を狙っているのがはっきりと視える。

 豆程度の大きさのそれにも手を伸ばす。すると、同じように粉微塵になって消え失せた。

 守宮に視線を戻すと、弾丸を防がれたことに恐怖したのか、震えながら立ち尽くしている。

「ひっ…なっ、何なんだ、何なんだよお前はァ!?」

 守宮は後ずさりながら、じりじりと逃げようとしている。追わなければ、と駆け出そうとした瞬間、

「逃がさん!」

 という電童の声とともに、稲妻が守宮に直撃した。声すら出せず、守宮は倒れ込んでしまった。


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