File:3 A Man of Mass Destruction (3)

 手渡された契約書にサインをし終え、ようやく部屋から出ることになった。

「ちなみに僕の大学やバイトって…」

「大学の方は心配無いよ、ちょっと「お話」しておいたから欠席扱いにはならないさ。これからも通ってもらって構わないよ。」

 今の所単位を落とすほどの欠席などはしてないが、保証されたことは素直に嬉しい。

「でもバイトの方は今日付で辞めてもらう、これからの仕事に支障が出ては困るからね。」

 流石にそっちはダメらしい、給料日を過ぎてないのが悔やまれる。

 部屋の外は中と同じく窓がなく、殺風景な廊下であった。薄暗いので少々気味が悪い。

 長い廊下を歩いていくと、少し広いところに出る。

 そこはエレベーター前だった。このフロアの階数を見るとB1と書かれている。

「ここって地下なんですね。」

「うん、超能力庁舎の地下施設さ。あまり利用するとこもないし丁度いいかなって。」

 ちょうどエレベーターが来たので乗り込む。押された階は分からなかったが、ボタンの位置から見て割と上の階であることが分かる。


 10秒ぐらいだろうか、ガタンという音とともにエレベーターが止まった。

 開いたドアの前には、首にヘッドホンを掛けた20代ほどの男がたっていた。

「やぁ電童でんどう、待っててくれたのかい?」

「40秒で来いとって言ったのは氷川さんの方でしょう?こちとら非番だったというのに…」

 軽快な氷川の挨拶に、電童と呼ばれた男はいかにも不機嫌そうに答える。

「ゴメンゴメン、動けそうなのが君だけでね。」

「はぁ…そういうことはせめて2〜3日前に言うようにしてくださいよ。」

「予定通りに行かないものだよ、人生。」

 氷川は全く反省していなさそうに見える。ほんとにあれでも組織の長なのだろうか。

「とりあえず私はそこにいる彼を正式登録しなきゃいけないから、彼の案内と教育を頼むよ。」

 そう言って氷川はどこかへといってしまった。電童はこちらに近づいてくると、

「君が新入りの…」

「破堂 甲矢です。」

「俺は電童でんどう 栄磁えいじだ、よろしく。」

 電童は軽く自己紹介をすると、

「早速で悪いが時間も惜しい、歩きながら話そう。」

 と言って歩き始めたので、それに慌てて着いていく。

「これがウチの説明資料、大体のことはこれを読めばわかるはずだから、分からないことは質問してくれ。」

 そう言って渡された資料に目を通す。まず目が止まったのは組織名だった。

「特殊対策課……?」

 超能力庁は20年前の事件から発足している組織だが、特殊対策課というのは聞いたことがない。

「聞いた事ないのは当然だから安心しろ。」

 電童はこちらの言いたいことがわかっていたように答える。

「そりゃどうしてです?」

「ウチの課ってのは世間一般に公表されてる組織図には載っていないからだ。」

 ホントに大丈夫か?この組織、と思う。

「その…この課は一体どう言った仕事を?」

「資料にもある通り、犯罪を犯した能力者と戦い、逮捕する事だ。」

「そういうのって警視庁の超捜課とかの仕事では無いんですか?」

「そういうところはあくまでも等級が5とか4程度、良くて3級レベルの相手が主な仕事なんだよ。ウチはもっと上の奴らの相手なんだ。」

 能力者、もといオーバーズはその能力のレベルに応じた等級が設けられる。1番低いものが5級で、最も高いものは災級とされている。

 災級レベルは他の能力者とは違い、徹底的に管理されると聞いた事がある。

「ウチの課はほぼ全員がオーバーズで構成されている、いわば毒を以て毒を制す為の組織だ。」

「だから載ってないと…」

「そういう事だ、理解が早くて助かる。」

 話終わるか終わらないかの頃に、ひとつの扉の前にたどり着く。扉の上にある課の名前が書かれた札は、前衛芸術的なデザインをしていた。

「まぁ、あとは中で話そう。挨拶回りも兼ねてな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る