第一話〜出逢い〜

 ぐぅぅぅ〜

 俺は今、凄くお腹が空いている。

 お腹が空き過ぎて、お腹が痛い。

 と言うか、何か、こう、気持ち悪い。

 そんな腹減ってるなら何か食えば?って考えると思う。

 でも、家にご飯が無い。

 じゃあ買ってくれば?って考えるだろう。

 それだよ!それ!

 それが問題なんだ。

 外に出ると考えるだけで憂鬱だ。

 あ〜。心が沈む〜。

 俺はゴロゴロと布団の上で頭を抱え、転げ回る。

「あ〜。買い物行くしかないかぁ〜」

 俺は布団からしぶしぶ起き上がり、布団の外へ出る。

「服はこのままでいいか。ジャージだし」

 エコバッグを持ち、エコバッグの中にサイフを放り込み、クロックスに足を入れる。

「行って来まーす」

 ドアに手を掛け、力いっぱい押す。

 重い、ドアは、ガチャリと、重そうな音を立てて開いた。

 眩しい。

 太陽光を浴びたのは数週間ぶりだ。

 思ったよりも眩しいな。

 俺はジャージの下に着ているパーカーのフードを被る。

 太陽光が眩しいと感じるのは恐らく、太陽光を浴びるのは数週間ぶりだからだろう。

 ご飯が無くなる前にネットで買うべきだったな。

 俺は近くのコンビニに入る。

 カップ麺コーナーとレトルトコーナーに行き手当たり次第カゴに入れていく。

 レジで買い物を済ませ、早々にスーパーを出る。

「帰るか……」

 帰り道、突然ビュオッと、強めの風が吹く。

 その拍子にフードが脱げる。

「あっ……」

 しまった……、マスクも着けて来るべきだった……。

 すぐにフードを被る。

「ねぇ、さっき見た?あの黒いフード被ってる女の子、めっちゃ可愛いかった」

「見た見た!めっちゃ可愛いかった!」

「あの子可愛いー」

 まただ、また……女に間違われた……。

 俺は女じゃないのに……。

 俺のコンプレックスは、自分の顔が女顔だと言う事だ……。

 それと、もう一つ。

 それは……。

「ねぇねぇ君可愛いねー!小さいけど高校生だよね?ジャージ四つ高のだし」

 背が小さい事だ……。

 俺は、この二つのコンプレックスを指摘されたら、絶対に指摘した奴を許さない。

「誰が女で小さいだー!」

 俺は話かけて来た奴を睨みつけ、大声を出す。

「あっ!?えっ!?男!?」

「俺は、」

 ズボンのポケットから生徒手帳を出し、生徒手帳を開き、名前を指で隠しながら相手に見せる。

「男だ!」

 相手はびっくりした顔をしている。

 気づけば野次馬が群がっている。

 しまった。こんな街中で騒ぎ過ぎた。

「す、すみませんでした!」

 俺は走って近くにあった店に駆け込む。

 やべぇ……。俺、何やってんだ……。

 つーかここ何の店だ?

 当たりを見回す。

 レトロな雰囲気が漂う店内には、お洒落なティーカップや、壁時計、よく分からない置物などが置いてあり、ステンドガラスから店内に光が入っている。

 どうやらアンティークショップのようだ。

「よう、嬢ちゃんみたいな若い子がくるなんて珍しいな」

「なっ……!俺は男だ!」

 話しかけて来た店員さんらしき人に、さっきのように生徒手帳を見せる。

「男か、そりゃすまねぇ。まぁ、好きなように見てってくれよ」

「まぁ……、たまには少し、寄り道もいいか……」

 俺は店内をうろつく。

 ふと、一つのものが目に止まる。

 バラバラの球体関節人形だ。

「ドール……」

 ドールの頭を手に取る。

 髪は大体黒色だが、毛先の方にかけて、赤色のグラデーションがかっている。ウィッグではなく、植毛の様だ。

 目は瞑っている。

 ドールなんて、興味無い。

 でも、何故か欲しくなってしまった。

「あ、あの……」

 俺は店員さんに話しかける。

「ん?」

「これって何円ですか……?」

「それかぁ、高くて全然売れねぇんだよねー。約二十四万なんだけど……」

「二十四万!?高っ!」

「中々売れないし、値下げして……、」

「値下げして……?」

「なんと!今なら二十パーセント引きの十九万二百円!…………って、これでも高いか……」

「買う」

「えっ!?買ってくれんの!?」

「うん。ちょっと待ってて」

 俺はアンティークショップを出て、コンビニへ行き、お金を引き出す。

 何か、買いたいものが出来た時の為に、お金を貯めておいたのだ。

 そしてアンティークショップへ戻る。

 俺はサイフから現金を出し、店員さんに渡す。

「一……二……三…………よし、全部でちょうど十九万二百円!お買い上げありがとうございましたー!」

 ドールを気泡緩衝材に包み、紙袋に入れて渡してくれた。


 俺は家に帰り、紙袋から中身を出す。

 中からは、バラバラのドールと、ドールの服と、『Live a dollの取り扱い説明書』と書かれた冊子が入っている。

 俺は取説を開いて見る。

 恐らくドールの組み立て方が載っているのだろう。

 一ページ目には目次が載っていて、二ページ目には、『Live a dollの起こし方』と載っている。

「起こし方?組み立て方じゃなくて?変なの」

 俺はとりあえず、気泡緩衝材を外し、取説通りにドールを組み立てていく。

 

 ドールは組み立ると思ってたよりも大きめだった。等身大なのだろうか?

 後は、服を着せればいいんだが……。

 ドールを見る。

 ドールの体には、バスタオルを広げて、体が見えないようにしている。

 ドールの体のバスタオルを服を着せる為に取ろうとする。

「っ!!」

 顔が暑くなるのが分かる。

 落ち着け、俺。相手はドールだ。

 俺はバスタオルを取ろうとする。

「っ!!あぁぁぁぁ!!!やっぱ無理!!!!」

 組み立てた時は、組み立てる事に集中してたから大丈夫だったけど……。服着せるとか無理!

「しょうがない。このまま進めるか……」

 俺は取説を見る。

「えーと……。人間を起こす様に、起こしてください……?」

 訳が分からない。

 とりあえずやってみるか……。

「お、起きてー」

 俺は、体を揺すってバスタオルがずり落ちるといけないので、頬軽く叩く。

 柔らかい。人みたいだ。

「んっ…」

「………………」

 今…………こいつ…………、喋った…………?

「ワシはまだ…寝るんじゃぁ……Zzz」

「しゃ、喋った…………?ドールが……喋った……?嘘だろ……?」

 俺はもう一回ドールの頬を軽く叩く。

「ぬぅ……しょうがないのぅ……」

 ドールは目を擦っている。

「お主の為に起きてやるわい……」

 ドールの目がパッチリと開く。

 俺から見て、右が赤、左が青のオッドアイになっている。

 目の中には、四ツ穴ボタンを縫い付けたようなバッテンのマークがある。

「ん?なんじゃ、服は着せてくれて無いのか。まさかお主……」

 ドールはジッと俺の目を見てくる。

「な……、なんだよ……?」

「ワシにえっちなことする気だったじゃろう?W」

 ニヤニヤと笑いながら俺の方を見てくる。

「ち、違!お、俺は裸を見るのが恥ずかしかっただけで……。と、とりあえずこれ服だから着て!俺あっち行ってるから!」

「なんじゃ、思春期じゃのう」

 そんな声を背中に受けながら、リビングのドアを開け、キッチンへ移動する。

 ドールが動いて喋ってる。おかしい。でも不思議と頭は冷静だ。これが日本人の高い適応能力か。

 そういえば取説に「Live a doll」って書いてあったな。Live a doll……意味は……生き人形。そうゆうことか。

「服着たぞー」

 ドールの声が聞こえる。

「はーい」

 リビングに入ると、赤いリボンが胸元に付いた、黒基調の、少し赤が入ったゴスロリを着たドールが立っていた。

「さて、服も着たことじゃ。自己紹介するかのう」

 そう言いながらドールは取説を手に取る。

「ワシはここに書いてある通り、生き人形じゃ」

 ドールは「Live a doll」の文字を指す。

「まぁ、人間と思ってくれて良い。ちなみにワシの名はナイト・ブラッディ。お主の名は?」

「俺の名前は猫田夜」

「そうか、よろしくじゃ」

 そう言い、俺はナイトと握手をした。

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