異世界生活・16日目

行き先に若干の不安を抱えながらも馬車は先へと進みます。

司教様とエドさんの話し合いで、まずは王都へ向かったほうが良いだろうということになりました。

当初の予定では、王都を中心として螺旋を描くように巡る予定でしたが、お二人曰く「もはや時間の問題」ということです。


それ程までにひっ迫しているのでしょうか?私にはわかりません。しかし、王都へ近くなればなるほど、空は暗くなり人々の顔からは笑顔が消えています。クローウッドの街の人達はあんなにも幸せそうだったのに。


そっと、鞄の中に入れておいたサシェを取り出し、手のひらで包み込むように握り祈りを捧げます。ここに女神像はありませんが、少しでも人々の顔に笑顔が戻りますように…と。

窓の外、過ぎゆく景色を見ながらそのような時間を過ごしていました。


予定を変更して王都へ入ると決めたので、今は王都に続く広くて整備された街道を進んでいます。先に報せを送ったそうで、王都からほど近い街の教会では、大勢の人が出迎えてくださいました。


到着したのは夕方の礼拝後でしたが、参拝の方が大勢残っていらっしゃいました。皆さんエドさんに会いに来たのだそうです。なんと、エドさんは元々ここの教会に居たそうです。ご年配の女性が、涙を流して再会を喜んでいらっしゃいました。


さっそくお祈りをすると、女神像は今までにない強い光を放ちました。まるで、悪しきモノを焼いてしまうかのような光です。

天高く立ち上った光が曇り空に吸い込まれていきます。すると、空を覆っていた雲が晴れてきれいな星空が見えました。


どことなく、爽やかな風が吹きます。

街の人達の顔も、少しだけホッとしたような表情にみえました。


翌朝、礼拝を終えるとエドさんに呼ばれました。今日にも王都へ入る事、そして、聖女として本部の奥にあるご神体に祈りを捧げてほしいと頼まれました。それくらいなら…と了承し、馬車は王都へ向けて出発しました。


しばらくすると、巨大な壁が見えてきました。あの中に入ればすぐ目的地かと思ったんですが、王都の中心部まではまだ距離があるそうです。壁の外側にはスラム街があり、木の板を張り合わせた粗末な小屋に擦り切れた布が垂れ下がっています。どの人も暗い顔をして、地面に寝そべったり座り込んだりしていました。


いままで通り過ぎた街や集落は、貧しいながらも楽しそうに生活している人達ばかりだったので、この光景にショックを隠しきれません。


もちろん、スラム街というものは知っていましたし、日本に居る時も戦争で廃墟と鳴った建物や難民キャンプ、スラム街などをテレビで見ることはありました。


しかし、いざその光景を目にすると、私はそれらを現実として受け入れられていなかったのだと気付かされました。

目の前に居る人の為に何も出来ない自分が、ひどく恨めしく感じます。


エドさんが言うには、以前はここまで暗い雰囲気ではなかったらしく、貧しくても活気に溢れ、大人達は壁の内側の農園へ手伝いに行き、子供たちはゴミ拾いや溝浚い等の仕事をして日銭を稼ぎ、3日に一度神官達が炊き出しと子供たちに読み書きを教え、露店も並んでいたそうです。


司教様も窓の外の様子があまりにも違う事を気にされていました。

大きな門をくぐると、立派な農園が広がります。しかし、どこも立ち枯れのような状態になってしまっています。2つ目の壁沿いに馬車を走らせていよいよ王都内へ入ります。

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