第2話 左耳のピアス
マグカップを洗っていると、「ちーっす」と後ろから声がした。アルバイトの男の子だ。「お疲れ様でーす」「お疲れ様」と返す。
俊介が言うところのイマドキの若い子だ 左耳だけにピアスをしているのは、もしかするともう古いのかも知れないけど。タメ口スレスレの〜っす敬語。
「次 金曜日で良いっすか」
「良いっすよ」と答える。
ウチの会社はボードゲームの開発やカードゲームを扱っている。私は販売促進部、通称販促。実演販売宜しくショッピングモールなどで実際に子供達にカードやボードゲームで遊んで貰うイベントを開催している。その時のためのアルバイト、高木君だ。
「今度のヤツ どうやった?」
「うーん ちょい複雑過ぎるかも……訳わからんとやってる子もおったんちゃうかな。それなりに楽しんでたみたいやけど、対象年齢はもうちょい上げた方が良いんちゃいますか」
「そっか…」
他社と差別化を図ろうと新しい試みにチャレンジするのは良いことだが、考え過ぎて気がつけば子供が単純に楽しめなくなる商品になってしまうのは企画においては良くあることだ。もう企画部じゃない私が偉そうに口出しする事じゃないけど。
「桜さん まだ仕事っすか?」
「仕事っすー」
アルバイトの高木君は確かにイマドキの若者風だが、なかなかにキレ者だと私は思っている。
子供の扱いもずば抜けて上手い。
テキトーそうに見えて売上のことやゲームの内容・お客の反応などもちゃんと見て報告してくれる。
アルバイトの中では一番のお気に入りだ。見た目もお気に入りなのはパワハラになるから言わない。
「メシ食いました?」
「あー さっき誰かのお土産のお饅頭食べた」
「メシちゃいますやん」
高木君は笑って、持っていたコンビニの袋からサンドイッチと惣菜パンをくれた。
「良いの?ありがとー」
「飲みもんは自分で買うて下さいね」
高木君はそう言うと、じゃあまた金曜日と手を上げて帰って行った。
イマドキの若いもんの方がよっぽどエエやん[俺らの頃]より。
マグカップを当然のごとく女に洗わせるような奴よりよっぽどマシや。
出て行こうと思ったが、もう一度コーヒーを入れ直すため給湯室に戻った。
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