第6話

 中層ダンジョンは洞窟の幅が広くなり、更に縦穴なんかも増えてくる。行き止まりも増え、地形そのものがトラップのように牙を向いてくるようになるのだ。


 俺はそんな中層の中をダッシュしながら、迫りくる敵を槍で貫き、薙ぎ払って両断する。


:少しもスピード落ちないの笑えるわ

:高校生でここまで動けるのって、かなりの上澄みじゃね?

:1年経ってまだ3階うろうろしてる俺と同い年とは思えない……

:かっこよすぎる


 コメントがざわついている。だが、一番驚いているのは俺だ。まさかここまで動けるようになってたなんて。


「11階層突破。12階層行きます」


:【悲報】11階層、5分で突破される

:一番の難関とされる地底湖をこんな早く攻略できるとか人間か?

:目標の10階層既に通り過ぎてて草

:ドロップ品しっかり回収してるの?


「ドロップ品は、こっちのバックパックの自動回収機能で回収できてますよ」


 コメントを読みつつ、俺は突如として上から流れてくる滝の中から現れたケイブクラブを両断する。


:なんてことないようにケイブクラブを両断w

:並みの攻撃じゃ歯が立たないはずなのにどうして……

:イチジョー鬼つえええ! このまま中層のモンスター全員ぶっ〇してやろうぜ!


 うん、良い調子だ。正直想像以上に強くなりすぎてる感があって、力に振り回されないか心配だったのだが……成長率の上昇がスキルにも影響したのか、『根源掌握』のスキルもまた、かなり成長してるらしい。


 というのも、多分武器以外のものも把握できるようになってる。自分の戦闘力と、どれができてどれができないかが感覚で分かるのだ。


 もしかしたら、あと少しで俺自身の戦闘に関わる根源すらも分かるかもしれない。


 『根源掌握』の効果は、使い方が分かるようになる、というものだけではない。根源を掌握できたものに関しては、扱い方が分かるだけでなく、その武器の性能以上の性能を引き出すことができるようになるのだ。


 例えば刀だと『斬撃』、槍だと『刺突』が根源だ。これらを掌握することで、刀だとより切れ味が増し、槍だとより貫通力が増す、という風に強化することができる。


 自分の根源が分かったら武器と同じように性能が上がるのかは、未知数すぎて分からないが……とにかく期待だな。


 ちなみにだが、ついでに敵の力量も若干分かるようになっている。


 中層のモンスターは……今の所楽勝だ。


『ギャオオオオオオオ!』

「ハアッ!」


 現れたレッサーシーサーペントの水ブレス攻撃を避け、一気に加速し蛇のように長い胴体に風穴を複数作ってやる。


 うん、やっぱり余裕だ。


:つっよ……

:普通に強いんだが

:AWC社所属の配信者の中でも上位クラスじゃねえの?

:トップのシキには劣るけど、その他とは優るとも劣らないように見える

:上位勢の中では間違いなく最年少

:将来性があり過ぎる

:つまんねー! とっとと〇ねよ


 コメントもかなり活気づいてきた。同時接続者数は……は? 5000……?


「気づいたら5千人いってましたね」


:いやコメントとかいいから警戒しろって、一応そこ中層やぞ

:5千人おめ

:初見です

:初見

:ワタツミちゃんの件で若干炎上してたけど、普通に強いじゃねえか

:ワタツミちゃんのことに関してはまだ認めてないけど、実力は認めてやるよ

:←今のコメ、声震えてそう

:気持ち悪いベ〇ータで草


「ありがとうございます。もっと頑張ります」


 俺はそう言って、ダンジョンの攻略に戻る。


 さて、このままだと結構奥まで行けそうだな。インパクトが大事だし、出来るだけどんどん奥に行きたいし、もし可能なら中層突破までいきたいものだが……。


 等と考えながら跳びながら移動していると、着地した瞬間、不意に地面に魔法陣が広がった。


「っ!」


 これは……魔法陣トラップか!? ヤバい……!


 俺は目を閉じて衝撃に備える。だが、いつまで経っても攻撃は来ない。


 そっと目を開けた。そこには先ほどまで俺がいた場所とは、全く違う光景が広がっていたのだった。







:え? 何が起きたん!?

:場所が変わった?

:は?

:ん?

:なにこれ今どういう状況

:転移トラップ!?

:ヤバいヤバいヤバい

:マジでヤバい

:イチジョー、ぼーっとしてんじゃねえぞ。戻ってこい!


 はっ……しまった、呆然自失になっていた。


「さっきのは転移トラップですね。1年に数回、被害に遭う冒険者がいるとは聞いていましたが」


:ちなみに確率的には宝くじに当たるようなもん

:最悪な奇跡や

:転移先によっては死にかねないぞ

:は? ヤバいじゃん

:よっしゃ! 〇ねイチジョー!

:←そろそろコイツ通報しとくか

:不謹慎ってレベルじゃねえんだよすっこんでろタコ


 俺は流石にコメントを読む余裕もなく、周囲を確認する。


「……良かった。ここは変わらず中層のようです。洞窟に生えてる光るクリスタルの色で分かります。この色は中層です」


:とりあえず最悪の展開は避けれたか

:でもメインルートから大きく外れたのは間違いない

:未知の領域かよ。普通に死ねるだろ


 ダンジョンは階層で分かれているが、当然横にも広く普通に迷いやすい。


 メインルートとは、先達の冒険者達が開拓していった、次の階層へと行きやすいとされるルートのことだ。


 当然横への探索もされているが、基本冒険者にとって重要なのは下へと潜ることだ。横への探索は十分ではなく、未知の領域が広がっていることも珍しくない。


 そして、一番の問題は、このままだとダンジョンの外へ出ることは難しいということだ。ダンジョンは全体で見ればすり鉢状のようになっており、下へ潜れば潜るほど横の領域は狭くなっていく。


 つまり、最も広い面積を持つ階層は、1階層なのである。


 未知の領域から1階層へ上がっていって、その後出口を探すのは水分や食料的に厳しい。


「……という事で、25階層を目指します」


 それらを踏まえて、俺はぽつりとつぶやいた。


:は?

:おい嘘だろ

:なんて言った今?


「25階層は、ボス部屋直前のセーフゾーンです。24階層から25階層に潜る時は、どの地点から移動しても、ボス部屋の前に転移する仕様があります。そこからなら確実にメインルートに戻ることができる」


:言ってることは分かるけどさあ

:ソロじゃ無理だろ!

:死ぬぞお前

:マジで言ってる?


「生き残るにはこれしかないと思ってます」


:マジか……

:大丈夫かよ、マジで

【ワタツミ】:イチジョー君、大丈夫ですか!?


「あやっ―――ワタツミさん?」


:ワタツミちゃん!

:ワタツミちゃんキター!


「とりあえず今のところは大丈夫だ」


【ワタツミ】:良かったです……でも、私今来た所なんですけど……25階層を目指すって本気なんですか?


「……本気だ。だだっ広い1階層で遭難するよりかは、余裕があるうちに25階層を目指した方がまだ可能性はあると思う」


【ワタツミ】:そんな……

【シキ】:よう後輩。初めましてだな


「えっ?」


 突如として現れたコメントに、俺は目を丸くした。


:シキキター!

:シキ最強!シキ最強!

:AWC社所属の配信者の中でも最強の女やぞ!


 AWC社所属、シキ。先ほどのコメントでも少し話題に出たが、実力派中の実力派、チャンネル登録者数も100万を超えている大物配信者だ。


 実力もさることながら、見た目も良い為、CMでもよく見かける正真正銘の有名人だった。


【シキ】:偶然近くにいてな。とりま探しつつ25階層行ってやるよ。死ぬなよ~

:軽くて草

:安心感ヤバい


「シキ先輩、初めまして。それから、ありがとうございます。その、俺が言うのもなんですが、お気を付けて」


【シキ】:オレの心配なんざ百億年はえーわ


 まさかの先輩配信者の登場。正直、かなり緊張するが……ありがたくもある。


【ワタツミ】:シキ先輩! 私の同期を、どうかよろしくお願いします

【シキ】:おー


 その後、コメントは途絶えた。


「……こうしちゃいられないな。早速移動を始めます。配信は出来るだけ切りません。予定よりも長くなるかもしれませんが、どうぞお付き合いお願いします」


:最後まで見守るぜ

:付き合うわ

:応援してるからな

:死ぬんじゃねえぞ


 多数のコメントに応援されながら、俺は誰も見た事の無い未知の領域……中層の裏ステージへと足を踏み入れたのだった。

 

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