第4話 義母の過去

 マグノリアの生家は、昔に王国に吸収されてしまった神聖国の末裔である。

 宮中伯という爵位を持っていたものの、形だけの貴族であり領地は持たないため、暮らしぶりは領民と変わらなかった。


 オルデンブルク侯爵とはお互いの一目惚れで結婚まで至る。愛し合った幸せな結婚になるはずだったが、侯爵の母が二人の結婚に猛反対したのだった。

 侯爵もマグノリアもどうにか結婚したいという強い意志を持っていたので、説得を続け、最終的には渋々了承というような形で終わった。


 同居は嫌だったのだが、身体が悪い姑を心配した夫の不安を取り除いてあげたいという気持ちでオルデンブルク家に入ったのである。一緒に暮らしていけばいつか分かってくれることを信じて。


 しかし、姑はマグノリアを嫌ったままだった。

 外国人で爵位も低い女と結婚してもオルデンブルク侯爵家にとって、何の利益もないと罵倒される日々。家事は使用人ではなく、マグノリア自身にさせたり、気に食わなければ食事を投げられたりする事もあった。

 侯爵がいない時を見計らって体罰を受ける事も。姑は鬼のような人だった。


 夫が姑を諌めてくれたり、間に入ってくれたりしたが、態度は変わらなかった。それでもマグノリアは夫を愛していたので、同居を続けていた。

 姑からのいじめは彼女が亡くなるまで続いたのである。


 姑が亡くなり、心労が減ったおかげかマグノリアは健康を取り戻し、子宝に恵まれた。長男アッシュの誕生である。その後、長女を出産。

彼女が亡くなってからは、夫と死別するまで幸せに暮らしていた。


 十一年前に夫を亡くし、ライラックが嫁いでくるまで彼女が一生懸命家を切り盛りしていたのだ。


 いつかやってくるアッシュの妻には、姑と同じ態度を取らないようにしたいと思っていたのに。気がつけば同じ轍を踏んでいた。憎たらしかった、大嫌いだった姑と全く同じ生き物になってしまっている。

 マグノリアは自室で、昔姑にいじめられて一人泣いていた寝台を見て、なんて愚かだったのだろうと思う。


 自分の過去を清算して未来を見つめなければ。


 ライラックの態度に目が覚めたマグノリアは、人が変わったようになる。


 一緒に服を繕ったり、お茶をしたり、領地を見て回り戦時中でも領民が出来るだけいつも通りの生活が出来るようにライラックに助言をしたり。

 嫁と姑の同居は軌道に乗り始めていた。

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