第8話 黒の組織

時はハイムとセレナが家を出た頃に遡る。


ハイムとセレナの目的地であるカントン都市。高さ7メートルほどの壁に囲まれた、大陸を支配する国、シュバルツ帝国屈指の要塞都市である。


カントン都市は、シュバルツ帝国の西端に位置し、内陸部への魔物の侵入を防ぐべく軍事力が豊富だ。つまり兵士や冒険者で賑わった都市ということである。


カントン都市の入り口は2つ。内陸部側の門と西の方角を向いた、つまり内陸部側の反対方向の門である。


西の方角を向いた門から伸びる、横幅がやけに広い一本の道が森に入りそうになって途絶える地点に、2人組の、黒のマントを深く被った怪しげな集団がたむろしていた。



「兄者。ビロガー様にいったい何を命じられたんですかい?自分はあまりカントン都市で大事を起こしたくはないですぜ。戦える奴が多すぎる。」


「安心しろ。俺たちは、カントン都市には入らねぇ。時がきたらここから西へ向かう。」


「え、カントンにはいかねぇのか!?それはそれで残念だ。溜まってるんでハッスルしようと思ってたんですがねぇ。」


「バカが。俺らは新入り。ミス一個で、すぐ首と胴がおさらばする立場だ。気を引き締めろ。」


そう言って、男は周りを見渡す。まるで何かを見逃さんと探すように。


その行為にもう一人の男が疑問を持つ。


「なぁ、兄者。さっきからまわりをきょろきょろしてどうしたんですかい?あ、もしかして立ちションですかい!?なら自分がまわり確認しときますぜ!ついでに、兄者の兄者が見られないように見張っときますんで!」


「違う。いい加減にしろ。それに、私の息子は常に存在感を示している。お前ごときが、隠したところで隠せないほどにな。」


その言葉に男は、「よっ!男の中の男!!兄者、さすがだぜぇ!!」と大きく拍手して嬉しそうに笑う。


「おい!静かにしろ!!いいか、俺たちはある男女のグループがこの先にあるカントン行きの道に進んだら任務を開始する。」


男女の顔写真を胸ポケットから取り出して、男はその二人の写真を指差ししながら話を続ける。


「こいつらだ。名をハイムとセレナ。元金級冒険者団『風神かざかみ』の前衛とヒーラーだ。」


「えぇ!?金級!!そりゃ、すごい大物じゃないですかい兄者。なら兄者、そいつらの足止めが自分らの任務ですかい?」


「違う。それに、俺とお前が現役を退いたとしても元金級の奴らに太刀打ちできるわけねぇ。まぁ、今はだけどな」


吐き捨てるように男はそう言う。


「勿論ですぜぇい!この組織で成り上がってから、そいつらを殺しに行きましょうぜ!!」


「あぁ。....話を戻すが、俺たちの任務は、元金級の家にいるガキ2人の誘拐だ。」


そう言って男は地図を取り出し、目的地を指差す。そこは、男たちがいる場所よりさらに西に行った、凡そ誰も住まなさそうな場所であった。


「.....殺しは?」


「だめだ。......いや違ったな。男の方は別に殺してしまっても構わないそうだ。」


「男の方?なんでぇい兄者、女もいるんですかい?」


「あぁ。どうやらその女は組織で有効活用するから、にしろと言われている。全くそいつはついてない。」


そう言って少し残念そうにため息をつく。


「生け取りかぁ!!そりゃ楽しみだ!!兄者、先に壊さないでくれよ!!」


「俺に幼女趣味はない。勝手に遊んでろ。殺さぬ程度にな。」


その言葉に男は大きく頷き、歪んだ笑みを浮かべた。





    ◇





翌日、男たちはハイムとセレナと見られる男女のペアーがカントンの方へ歩いていくのを確認した。


「兄者....」


「行くぞ」


2人の男は、セレナとハイムの家へと向かう。家にいるであろう子供2人をさらい、殺すべく。


一見すると、ビロガーと言う男とこの2人の男の計画は順調に進んでいるように思われた。


だが、世界はまだ知らない。


大陸の端に、あんな厨二病とっきゅうじゅぶつが隠れていることを。


そして、その男が組織の計画をなぜか言い当てていることを。


時計の針は進み出した。どちらの思惑に沿って進んでいくのかは、まだ誰にもわからない。




    ◇





「......来る。来るぞマリー。間違いない、確かにすぐそこに...。我らから100メートルほど離れたところにきっと奴らがいる。」


今は召喚主たちが、ラボを留守にしてから2日ほど経った日の朝。我の予想では、今日奴らが来る。


なので、我は朝起きてからずっとラボの入り口の前で奴らを待っているのだ。(朝4時からずっと)だが、まだ奴らの正確な位置は発見できていない。


「....ルーク。それさっきも言ってた。どうしてルークの言う"奴ら"は、ずっと100メートル先にいるの?」


ふん。また、揚げ足をとりおって。そんなの我も知るか。多分いるんだからそれでいいだろうが。


「ふん、勝手に言っていろ。ただ、足は引っ張るなよ。」


我はマリーから視線を外し、100メートル先にある木々の合間をじっと見つめる。奴らが見つかることを信じて。


それから、時計の針が12分の1程進んだ頃(約10分後)、森の木々の間に違和感を感じた。


黒いマントを着た、変な奴らが見える。奴らだ!きっと奴らだ!!


やっぱりいた!


「おいマリー、あいつらはお前の知り合いか?」


そう言ってルークは、黒いマントに包まれた2人組ニヤニヤしながら指差す。そいつらは、森の中でルーク達の様子を窺っている。


「あの格好.....!?嘘、なんで黒の組織が!?」


黒の組織....絶対敵対組織だろ。どんなことやってるんだろうか?


「お前は知っているのか。何なんだ、あいつらは。」


「.....黒の組織」


おい、マリー。今は大事なストーリー進行中だ。ボケずに真面目にやれ。


「だから、それは何だと言っている。二度も言わせるな。」


「黒の組織、この国で最も大きな犯罪組織。逃げたほうがいい、ルーク。もう遅いかもしれないけれど、今すぐここを出ましょう..」


こいつはバカなのか?そんなことできるわけなかろう。そんなことをしてしまえば、我の朝からの努力はどうなる?


そんなことは我の心理的にも、物理的にも不可能だ。


「何を言っている。奴らの目的は我らなのだ。ずっと追ってくる。それに、それほどまでに大きな組織なら隠れたってすぐに見つかる。」


「わかってる.....。でもルーク、あいつらと事を構えてはダメ。そんじょそこらの小悪党たちとは訳が違う。」


「なら、危機に瀕するだろう我が召喚主たちを見捨てろと?そんな恩知らずな真似、我ができるわけないだろうが!」


「......はぁ。わかった、私も戦う。でも約束して。」


マリーは一息ついてからこう言った。


「絶対に死なないで。失いたくないから。」








あとがき



お読みいただきありがとうございます。もしよろしければ、評価、作品へのフォロー、コメントよろしくお願いします。



さて、やっと話が動き出しましたね。ここから先は、皆様から見ても一風変わった展開になっています。絶対に退屈はさせません。期待していて欲しいです。













  






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