恋する乙女

花園眠莉

恋する乙女

 高校生活の折り返しの頃、私は恋をした。その恋は実を結ぶことを知らないものだけれど青春を捧げている恋だ。


 気になったのはいつからだろうか。多分、席が近くで話すようになった頃からだと思う。彼の言葉選びとたまに感じる優しさを話すたびに知っていつの間にか恋になった。気がついた時には止めることの出来ないものになっていて認めざるを得ない状況。ちゃんと恋にしても良いことなんか一つもないのに。


 だって彼には私じゃない好きな人がいるから。その子のことはどんな子か知らないし、教えてくれない。今まで好きだった子も何の情報も言わない。秘密主義者でほんの少しだけムカつく。彼の好みを知りたいし、出来れば近づきたい。けれどその努力をすることさえ許されない。彼の隣にはどんな人が立つんだろう。綺麗な人かな、それとも可愛い人?きっと彼にお似合いの人なんだろうな。意味もなく抱えていたクッションを抱え直した。


 考えれば考えるほど胸がきゅっと苦しくなる。彼の恋を応援したいけどしたくない。そんな醜い感情が溢れてしまう自分が嫌になる。私のこと好きだったら良いのにと絶対にない未来に淡い期待を寄せる。つい、重たいため息を零す。


 彼のことを考えるたび幸せと苦しみに溺れてしまう。けれど一度考えたら離れてくれない。彼は今、何をしているのかな。なんて答えの分からない問いを頭から追い出す。


 今日の彼の笑顔を思い出す。男子の友達と話している時の屈託のない爽やかな笑顔が鮮明に思い出せる。思い出しただけで心拍数が上がって苦しくなる。それを私に向けて欲しい、羨ましい。


 明日は普通に彼と話せるかな。名字を呼ぶだけでドキドキするけれど会話をしたいな。好きな音楽、食べ物…タイプだって聞いてみたいよ。


 ふと時計を見ると二十三時過ぎ。もう寝ないと明日がつらくなる。ベッドに倒れ込んで目をつむる。


 明日も頑張ろう。片思いってつらいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋する乙女 花園眠莉 @0726

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ