異世界転生核兵器部

@hdmp

第1話 異世界転生核兵器部

同位体であるウラニウム238をウラニウム235に濃縮することによって、人類は核兵器を生み出した。ウラニウム235〇〇kgに中性子を1つだけ、やさしく投げ込むだけで、ウラニウム235は分裂し、新しい中性子が次のウラニウム235を分裂させる。この時にわずかな質量をエネルギーとして放出することを発見したのが偉大なるアインシュタインその人なのだが、ここでだれしもが疑問に思う。「わずか数グラムのウラニウム原子が失われることで、異次元のエネルギーを獲得できるのならば、人間1人がこの世から完全に失われたのなら、いったいどれぐらいのエネルギーなのかしらん?」と。「安定した元素である炭素と水でできた人体が原子崩壊するわけないだろ」ときっとアインシュタイン先生は言うだろう。だけど想像してしまうのだ。それが人間の最も偉大な機能であることは先生もご納得してくれると思う。当方26歳の日本人男性、体重はちょっぴりガリガリな53㎏、165㎝の標準的な身長にど近眼の視力を矯正するための眼鏡のせいか、異性との出会いはまったくありません。唯一の特徴はご先祖と両親より授かった星見清一郎というかっこのよろしい名前のみ。物理学を生業とし、神の力である核力の追及に一生を捧げている。この私が、現世から完全に消えたのならば、きっと地球が崩壊するほどのエネルギーを生み出すのは間違いない。


E=mc2 


この世で最も美しい公式に、自分の体重を加えることの不遜をゆるしてほしい。なぜなら当方、仕事はJ-PARKという日本の物理学の最先端を走りまくっている組織の末端中の末端であるからである。キャッチボールを始めた少年がメジャーリーグを夢見て何が悪い。毎日毎日、ウラニウム235を濃縮生成し続ける毎日に嫌気がさして、イマジナリーフレンドとしてアインシュタイン先生と会話するのは水が流るるがごとく自然のことではないか。


「おはよー星見君」


と巨悪がやってきた。1年先輩の研究員である里崎カナである。その凶悪な体を素敵な色のサマーセーターにて封印をし、さらに純白の鎧を身にまとうことで普通は悪の芳香をふりまくことはなくなるのだが彼女は違う。密閉し、圧縮し、かくすことでさらなる純悪として培養、さらに中性子線のようにどんな隔壁さえもやすやすと突破してしまうのだ。ああ!仕事の邪魔だ!でも彼女がいないと我が西岡研チームも前進することができない。なので当方もあいさつを返すことにした「・・・っす」「あ、やっと返事してくれたー、今日も仕事頑張ろうね!」「・・・・」「またどっか行っちゃったかな?」「・・・・」「うん、よしよし」巨悪はやっと去っていった。その後ろ姿をじっと見る。どうゆうわけか、巨悪の臀部のあたりを観察することで、当方、1日を生きるエネルギーを得ることができる。それを発見したのはこのラボに入職して1か月が過ぎたときであった。5月病とゆうやつだったのだろう。生成濃縮したウラニウムを超臨界させて、このビルごと爆破してやろうと企んでいた時のことであった。あの尻を眺めるだけで、どうして鼻孔に甘い香りが漂ってくるのであろう。理解に苦しむ、まさに巨悪のなせる業なのだ。「それは悪じゃなくね?」とアインシュタイン先生は言うが、ちょっとまっていただきたい。男子一生の仕事とこの研究所に人生を捧げる覚悟でいるところに、あのブリンブリンの物体がうろちょろされるのは邪魔でたまらん。集中できんのである。彼女の移動を願おうとチームリーダーの西岡氏に懇願直訴したが「ガハハ、よかったな」と一蹴に付されたのである。あ、その西岡氏が出勤なされた。


「おーう、朝かあ・・・」とエキセントリックにデザインされた髪をボリボリかきながら登場される。1週間は風呂に入らないという彼の肩まであるロングヘアは油っぽく、いかにも異臭が漂ってきそうな寝ぐせの塊であるにもかかわらず、そのキアヌ・リーヴスとトム・クルーズを足して3で割ったような顔面。そして「アイデアはプールに浮かんでいる」と県大会まで行った水泳人間である証左のようなアイアンボディはちょっとした彫刻のようである。異臭さえも異性にとっては「男性フェロモン」として許されるに違いない。敵。当方の遺伝子は彼をそう判断した。だが5人のラボメンをまとめるチーフとしての人徳があり、非人道的な仕事量をこなしていることが判明すると、徐々に我々の間にある氷塊は溶けていった。そんなものは最初からなかったのかもしれない。「おーう、星見、守衛さんにはちゃんと挨拶しろよ」と説教そして「お前のとるデータだけは信頼してるからな」とご褒美。これを日本人離れしたHOLLYWOODな笑顔で言われちゃうと、当方としても「・・・はい」とやや赤面しつつ返事をせねばなるまい。


「お前、ちゃんと返事しろよ」と隣に座っている男が言う。この男、クソ袋こと島袋は沖縄出身のくせにシルキーホワイトな肌をもち、那覇のトビウオといわれた筋肉質なボディを1年でアメフラシのように腐らせたクズである。ここ福島で「東京の女は毒」と酒に酔って語る真正の田舎者である。失笑。


「まー、ホシミーのキャラだから許されてるんだけどねー」といつの間にか出勤してきた女装男子が言う。角である。小学生に間違えられる153㎝のドチビであり、性別行方不明の化粧、きゅるんきゅるんにでかい瞳、今日は金髪のウィッグですか、へーお似合いですね。この面白人間こそがガチの秀才で、旧帝国大学を首席で卒業したあと院に進み、そのまま大学に残り教授になるのかと思いきや研究所に就職する謎挙動をかました。脳がbugを食ったのかと周囲から心配されたらしい。入所と同時に小動物系地味研究男子だった角は「スミちゃんでーす」とキャラを変更し、今のように日替わりで女装をしてくるようになった。触れてはいけない。周囲の気づかいはいまでも続いている。


角ちゃんがここにいる理由を語ったことがある。「Dr.ニシオカのアイデアに雷を食らったんだよね、サンダガだったよ」とのことだ。西岡のアイデアはウラニウム濃縮の新しい手法だ。それを一言でいうなら「川」である。ウラニウムの川を作り、そこからウラニウム235を抽出するというやり方だ。発表当時は「そんな夢みたいなことあるかい!」「STAP細胞かよ・・」と見向きもされなかったが、スミちゃんが西岡の研究を支持したことにより注目され、学会の再考を通り、爆速で資金が付き、J-PARKにラボが設けられ、西岡の人選でチームが組まれた。もし、西岡の研究が成功すればノーベル賞は間違いないだろう。核の力を身近な存在にしたとして。ダイナマイト以上のケタ外れの破壊力を人類にもたらすはずだ。ちょっと大きめのテロ組織ですら核兵器を持つことができる時代がやってくるかもしれない。だからIAEAは西岡の一挙一動に注目している。ビビっていると言えるかもしれない。その証拠が俺の隣で仕事をしている白人男性だ


「Mr.Hoshimi Greeting are important、 say オハヨウゴザイマス!」

「ハロー、マイトナー」


マイトナーがIAEAの手先であるのは明らかで、J-PARKもそれはなんとなくわかっていて、西岡も「まあ、優秀な人だし」と容認しており、本人でさえ「Yea!I’m super SPI!」とノリノリで肯定している。クソ陽キャ。だけど、仕事になると目つきが変わる。刃物を持っていると感じさせる。自分の命よりも大事な使命を持っていて、そのために命を捨てる訓練を積んできている。


「まあ、今日もたのむわー」


とチーフの西岡が今日の目標を告げて形ばかりの朝礼が終わる。俺たちは三々五々散っていく。全員に緊張が走っている。西岡があえてダルそうに話しているのも、今日が自分の人生で何よりも大切な日であることを知っているからだ。西岡のシステム「川」が動き出せば、ウラニウムが㎏単位で濃縮される。それはちょっとメモリを動かして、大目に作ってしまえば不安定なウラニウム235は臨界にはいる量だ。その、川が今日動き出す。


核分裂は水滴に例えられる。撥水性のある板の上に、なるべく大きな水滴を置く。表面張力でその形を保っている水滴は、あと1つ、水分子を加えるだけで2つに分離する。ウラニウムも同じだ。不安定な元素であるウラニウム235は、ある一定の量を超えた状態で中性子を加えると分裂を開始する。水滴と違うのは・・・・まあ、わかるだろ。とにかく超アブナイ物質なので、世界中が注目している研究なのだ。


だから部外者の外国人がラボに入ってきたときも「成功をはやとちりしてしまったおバカさんなのかな?」と思った。手には大きなブーケ、アジア系モデルのようなたたずまい。1mも余分なところがない衣服。つややかな黒髪ロングヘア。


「Freez!!!」というマイトナー。


手には拳銃?そんなの持ってたの?そのマイトナーの眉間に穴。「キャアアアアア!!」という巨悪。状況をいち早く理解したのはブクロだった。かつてのトビウオの筋肉でモデル女に突撃する。いいぞ!ブクロさん!その巨体でクソ女をぶっとばせ!とエールを送るが。両者が触れ合った瞬間に時間が止まった。信じられないことに、ブタブクロさんの突撃と同じ力で押し返しているらしい。女は腰を少し落としただけ。そしてブクロ、ノット=、ニシオカであることを確認し背中にナイフを突き立てた。


相手にならない。幼稚園児と力士ぐらいの力の差がある。


そして力士が幼稚園児を誘拐するように、モデル女は西岡氏を見つけ体を拘束した。


それがすべての目的だったのだろう。


だから、ついでに、というように見えた。


モデル女は悲鳴をあげる巨悪に向かって銃を発射した。


「うるさい」とでも言うように。


俺は計測器の影から、巨悪のお腹に穴が開くのが見えた。


そこからごぶごぶと血があふれてくる。


体から力が抜けた。


腰から床に座り込んだ。


右手に異物。


拳銃だった。


マイトナーが俺に投げ滑らせていたのだ。

彼と目が合う。


「You Do it」と目が言っている。


「引き金をひくだけか?」と目で聞いてみる。


「Yes」とうなずく。


拳銃は重く、冷たかった。


初めての感触に、よく聞くフレーズを重ねていた。


「そんなに当たるもんじゃない、特に素人には」


だから近づいた。


足音とかも気にしなかった。


1発


それだけでいい。


巨悪のかたきを撃つ。


そのためならハチの巣にされてもいい。


そんな使命感が体を動かした。


通路に出る。


3mぐらい先にモデル女が西岡氏を抱えて歩いている。


背中をとれた。


銃を構え、引き金を引く。


西岡氏に当たらないように、足を狙った。


破裂音。


ぢん!という廊下を跳弾する音。


銃?とこちらを振り向くモデル女。


片手でこちらの頭部に狙いをつける。


当方はさきほどよりやや上、膝を狙う。


発砲は同時だった。


パラペルム弾が俺の脳をぐちゃぐちゃに掻きまわすが、モデル女の膝が粉砕されるのを確認する。


ざまあみろ、と、俺は死ぬ前に思った。



***


「あ!起きた!おーいみんなー!」

「さあ、今度の転生者はだれかなぁ?」

「ふぁ、あの人だったらいいねぇ」

「料理人希望!!」


目を覚ます。女の子に囲まれている。


「ここは?」


と聞いてみた。


「核兵器部の部室だよ!」


とその子が言った。


「ふざけるな」


と俺は怒った。人生初の怒りであった。

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