第48話

エドワードが洞窟へ向かう数分前


「おお、皆無事か!」


光輝達が森の方でルヌプ兵達を引き付けている一方でエドワードは集落入り口で残った亜人達を救出していた。


「長・・・皆ダンジョンに向かった長達は死んだと思っていました」

「ああ、私も死を覚悟していたがここにいるエドワード殿達に救われたのだ。他の者も無事だ」


再会を喜ぶガウスと亜人達。だがエドワード達にはまだやることが残っていた。


「森へ向かった亜人以外だと残りは洞窟にいるのか?」

「はい・・・上位精霊様を封印するための道具を作らされていると・・」


それを聞いたノバは目の色を変える。


「でも、作っているナギ君が魔力を回復する道具に偽装するって言ってたからきっと大丈夫のはず」

「ナギという少年も洞窟にいるのか?」

「はい、技術者は皆そこにいます」


それを聞くとエドワードは転移門を展開させる。


「これは・・・転移魔法?」

「近くの河原にある我らの拠点に繋がっている。ランカという我らの仲間がそこでで料理を作っているからそこで休むと良い」


転移門を見た亜人達は驚いていたがエドワードの言葉には疑いもせず転移門をくぐり河原にある拠点へ避難する。


「よし残りは洞窟だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そして洞窟へ向かったエドワード、ノバ、ガウス達であるが洞窟へ近づくごとにノバの顔が険しくなっていく。


「エドワード殿・・・急いだ方が良いかもしれません。何か嫌な予感がします」

「分かった・・・ガウス、悪いがここで待っていてくれないか。この先は危険だ」


エドワードはそう言ってガウスにいくつもの魔法をかける。

【物理衝撃吸収】【魔力吸収】【精神安定】【自然治癒】


「ふむ、精霊との契約で魔法の発動はスムーズになったか?・・・防御用のをいくつかかけておいた。敵が現れても半日は持つはずだ」

「いや、かけすぎです!私なんかにこんな魔法かけなくても!それにノバ様の魔力量が!」

「安心しろノバの魔力は一切使っていない・・・この程度の魔力すぐに回復する」


エドワードはそんな風に言っているがこのレベルの【バフ】となれば大国の宮廷魔導士数十人が全力で数時間かけてやっとかけられるもの。しかも効果はもって10分程度。


それを数秒で半日分かけられている時点で精霊の契約云々以前に常識外れなのだ。


加えてエドワードの言う通り、これほどの魔法を発動してもエドワードにとっては気にするレベルの消費ではない。


「ハハハ、エドワード殿は本当に人間ですか?」

「たまに他の者にも言われるが一応、種族は人間だ」


そう言い残しエドワードとノバは奥へ進む。


「エドワード殿は本当に常識外れですね」

「我を常識外れと言うなら他のフロアボス達も常識外れだぞ」

「・・・知っています」


ノバが少し笑った様子でエドワードに答えると大きな扉を発見した。


「ん?この魔力はジョーの・・・もしや回復する道具に?」

「いや・・・これはマズイ!」


すぐさまエドワードが扉をこじ開けると目の前には火の精霊が今にも亜人の少年を襲おうとしていた。


少年の前に駆け付けたエドワードは精霊が放つ炎をかき消し少年に謝罪した。


「・・・間に合わなかった事に心から謝罪する」

「・・・誰?」


今のエドワードは黒いマントに仮面をかぶり正体を隠している。


少年が自分が何者なのかを問いている事にエドワードは答える。


「我はマスク・オブ・オリジン!精霊とお前達を救いに来た!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


エドワードは少し自分の考えの甘さに腹を立てていた。


目の前にいる精霊は火の上位精霊のジョーだ。そしてジョーのすぐ近くには干からびたルヌプ兵の死体が転がっていた。おそらくルヌプ兵がジョーと契約して魔力を根こそぎ吸い取られたのだ。


それが結果的にジョーの魔力を回復させる事に成功するが何かが原因でジョーが苦しみだしているようだ。


「ghaaaa!MOERO!」


ジョーの激しい炎に部屋全体が炎に行きわたろうとするがエドはすぐに結界で炎ごと彼を包み込む。


「少年、状況が知りたい。何故ジョーが苦しんでいる?」

「え?・・・あ・・・」


今まさに精霊に殺されそうになった所を救われ、その上位精霊を圧倒的な魔法で閉じ込めている黒仮面の男にもう一体の上位精霊の出現。未だ状況が理解できていないナギは言葉を発する事が出来ない。


本来であれば気絶していてもおかしくない状態に、エドワードは優しくナギを撫でた。


「あの精霊を救いたい・・・少年、教えてくれないか」


エドワードの言葉でようやく落ち着いたのかナギは冷静さを取り戻してきた。


「・・・ルヌプの兵士が上位精霊様と無理やり契約しようとして。そしたら急に干からびて上位精霊様が苦しみだしたのです」

「ルヌプの兵士と契約だと?!・・・まさか衰弱した状態で魔力を染めようと?」


状況理解したノバは苦虫を噛みしめる様子でジョーを見た。


「あの禍々しい魔力の正体はその男の物でしたか・・・」

「ノバ、助けられるのか?」

「もし、私だけだったら無理でしたが、エドワード殿が協力してくれるのなら可能です」

「分かった、お前を信じる」


ノバは改めてダンジョンで救助の要請をして良かったと思った。


もしノバだけがこの場にいたのなら相打ち覚悟でジョーを消滅させなければならなかった。だが今ノバは最強の魔術師エドワードと契約したことで本来の力以上の事が可能としている。


それこそ精霊帝を凌駕するほどの力。


「結界を解除したら私に魔力を注いでください、ジョーに流れているあの魔力を全て吹き飛ばします」

「了解した!全力でやろう!」

「え?・・・全力はちょっと!」


ノバが何か言いかけたがエドワードはすぐにジョーを封じていた結界を解除する。まるでバックドラフト現象でも起きたかのような爆発がエドワード達を襲うも、ノバの水魔法で消火していく。


「ハハハ!本当にエドワード殿は常識外れだ!」


若干テンションが上がったノバは溢れ出る魔力でジョーに流し込む。

『輸血』ならぬ『輸魔』・・・魔力が枯渇した精霊が同胞を助けるための手段である。


本来であれば応急処置としてある程度回復するくらいに魔力を渡すもの。だがジョーに流れた禍々しい魔力を吐き出させるためにノバは完全回復以上の魔力を流し込む。


上位精霊の魔力を完全回復以上に流し込む事は同じ上位精霊からしてみれば自分の命を差し出すようなもの。だからこそノバはエドワードの恐ろしさを実感している。


膨大な魔力をジョーに流しているのにその流れが衰える様子が無いしエドワードはまだまだ出せるといった様子だ。


(ああ・・・仮とはいえこれほどの人物と契約できた事を誇らしく思える)


そしてジョーの体内から黒い魔力が出し切ったのを確認するとすぐにその魔力を水の結界で閉じ込める。


「エドワード殿!もう大丈夫です!魔力を止めてください!」


ノバのストップがかかりエドワードはすぐに魔力を流すのを止める。


「もう大丈夫なのか?」

「ええ・・・不純物は取り除きました。すぐに目を覚ますでしょう」


そしてノバの言う通り倒れていたジョーはゆっくりと目を覚ました


「ん・・・ノバか?」

「ジョー気分はどうですか?」

「思考は少し靄がかかった感じだが魔力はすこぶる良い・・・何かしたのか?」


ジョーは不思議な様子で自分の身体を確認していた。


「ええ、あなたの魔力をスッキリさせました・・・随分といやな魔力が流れていたみたいですね」


ノバがそう言って水で封じている魔力を見せた。


「そうだ!あのクソ野郎、俺に魔力を流して!・・・ってそれどころじゃない!」


ジョーが慌てた様子で辺りを見渡しナギがいる亜人達に目が留まる。


「・・・精霊様?」


ジョーはゆっくりとナギ達の方へ歩き、そっと手をかざす。


「まずやるべき事をしなければな」


亜人達は当然制裁を受けるのだと思った。

それは仕方ない事だ・・・自分達のせいで何体もの下位精霊達が消滅していったのだ。


だがジョーは制裁を与えない・・・彼が与えたのは救済だ。


「え?魔力が安定した?」


精霊を失ってから体内の魔力バランスが取れなくなった亜人達は魔力暴走を抑えるために何度も苦しんだ。精霊を失い、非道な行為に手を貸してしまった事でそれが運命だと受け入れていた。


だがジョーは知っている。彼らが精霊を愛し、感謝し、精霊の為に涙を流していたことを。


だから今、ジョーの手によって彼らの魔力のバランスが調整され、彼らを救った。

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