第29話
メリアスと別れた後は研究所エリアに移動する。
「さて、一番心配なやつを後回しにしてしまったが・・・やっぱり」
ゾアが担当している研究所エリアだが、予想通りよく分からない状態が起きていた。
目の前には大きな黒いドームらしき建築物が均等に配置されており、道は真っ黒なプレートみたいなものが等間隔で配置されている。また道路には何体ものロボット、正確にはアイアンゴーレム達が物資らしき物を運びながら移動しており、空を見上げるとドローンみたいな物体がいくつも飛行している。
ぶっちゃけここだけオーソドックスな中世ファンタジー世界じゃなくて未来都市風なファンタジー世界になってる。
「あ、コウキさん来とったさかいすか。できれば完成してから見せたかったんですけどね」
「ゾア、これはいったいどういう・・・って何に乗ってるんだ?!」
ゾアの声が聞こえ振り向くとゾアは空中に浮くスクーターみたいなのに乗っていた。
「あ、コレさっき研究所で作ってみたやつなんです。魔石を原動力にした奴で最高1万mまで高く飛べるんですよ・・・まあその分燃費は悪いですが」
ゾアはそんな風に空飛ぶスクーターを自慢するがなんか色々と俺の中でこの世界が崩壊していく気がし、俺は無意識にモニターを操作して自作の武器【ツッコミ君】を取り出した。
見た目はまんまハリセンであり威力はたったの『1』しか無いが必ず衝撃を相手の脳天に与えるという防御無視の武器である。
「やりすぎだ!」
俺が思いっきりツッコミ君でゾアを叩くとパコーン!と気持ちの良い音を立てゾアは無意識に頭を押さえる。
「くは!痛くないのになんや今の衝撃?!」
ゾアは何が起きたのか理解できていない様子で俺のツッコミ君を凝視していたが今はそんな事はどうでもよい。
「ゾア、お前この設備を一人で作ったのか?」
「アイアンゴーレムを総動員させて作らせました。命令すれば夜間問わず作業できますから効率がええんです」
「たしかこっちにも作業の人員を手配していたはずだろ?彼らはどうした?」
「それが・・・ワイが説明しても全然理解してもらえず仕方ないので皆グラムのおっちゃんの所で作業してもらっています。正直優先度で言えば向こうの方が上なので結果的には良かったのかなと思って」
ゾアがそう説明しグラムの方が予定よりも早く作業が進んでいる理由が分かった。ゾアの方にまわしていた人員がグラムの方に行っていたのか。
グラムからそんな報告を受けていなかったが多分ゾアの建設を見て仕方なく引き取ったのだろう。この状況を見ればゾアの作業効率は確かに上がるし、住居エリアの作業ペースも上がるわけだ。
「ちなみに建物は空間拡張用に【刻印魔法】が施されておってな、見た目よりも2,3倍は広いんや。道にある黒いプレートは魔力補充の役割が・・・」
ゾアは楽しそうに設備の説明をしているのだが・・・
「・・・ゾア、いったん作業を中止しろ」
「え?何でです?」
「いいから、今からグラムと一緒に会議室に行くぞ」
俺はそう言ってグラムに連絡を入れてゾアと一緒に会議室へ向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
会議室に到着した後俺はゾアとグラムに正座させて座らせた。
「さて今回お前たちを呼んだ理由だがグラム何故人員の事を報告しなかった」
「・・・申し訳ございません。ゾアの現場を見て流石にあそこを任せるのは難しいと思い」
「そうじゃなくて、何故報告しなかったんだ?」
「・・・自分の怠慢が招いた事です。作業を優先することを意識しすぎて報告しなくて良いと思ってしまいました」
まあ結果的に人員増加で作業効率は上がってるし予定より早く進むことは悪い事ではない。
「報告、連絡、相談の『ホウ・レン・ソウ』は重要だ。作業員たちの不満は無かったのか?」
「初めは皆ゾアに対して不服を抱いていたようですが作業現場を見て自分たちでは無理だと悟って納得していました。今はこっちの作業員とイキイキと打ち解けて作業しています」
住民たちは居住区で作業している事に対しては不満は無いが・・・ゾアに対する信頼はかなり落ちている。
「ゾア・・・お前は作業効率を優先した結果、住民の信頼が下がってしまった。それについてなんとも思わないのか?」
「それは・・・改めて言われると反省すべきやったとは思ぉてはいるけど、ワイは最高の施設をなるべく早く完成させたいと思って・・・」
「ゾア・・・確かにお前が作っている場所は凄かったし、あんな場所が将来的に出来たらなとは俺でも思ったさ」
「じゃあ!」
「だけど今すぐにじゃない・・・俺はお前の持っている知識を活かして皆であの施設を作れるようにしてほしかったんだ」
『虚無の皇帝・ゾア』その異名を持つ理由・・・ダークエルフという種でありその高すぎる頭脳を使い多くの物を生み出す。ゴーレム、ホムンクルス、キメラを従え、彼が生み出した兵器を用いて敵を蹂躙する。まさに、彼が担当するフロアの頂点に君臨する皇帝という意味が込められている。そして彼が担当するフロアに現れるダンジョンモンスターは『人工物しか存在していない』という意味も含まれている。
フロアのテーマであるSF世界の『宇宙』という『虚無』、生きているのが自分だけという『虚無』・・・そういう意味ではゾアはまさしく『虚無の皇帝・ゾア』として生きているのだろう。
ワイトを呼び寄せたのもその虚無感を紛らわすつもりだったのではないかと最近思えてきた。だからなおの事ゾアを一人にさせたくはない。こいつの性格は良くも悪くもムードメーカーだ・・・だからゾアが皆に信頼されない状況に俺は我慢できない。
「ゾア、お前が優秀なのは俺がよく知っている。お前とワイトのぶっ飛んだ発明品とかよく見ているからな。だから今すぐじゃなくていい。簡単な物から皆に教えていってくれないか」
「・・・せやけど研究所エリアとか進捗が滞りますよ」
「研究所も大切だけどまずは土台だ。俺が何のためにあのフロアに『海と島しか用意しなかった』と思っているんだ?フロアボスを含め全員で快適に暮らせる場所を作りたいからなんだよ」
俺は理想とするフロアを二人に伝える。皆が居心地の良い場所なんてかなり理想だけど、フロアボスや住民たちの力ならそれが叶えられると信じている。
とりあえず言いたい事は言ったし説教タイムはこれで終わりだな。そう思って二人を見たら今にも泣きそうな顔で俺を見ていた。
「・・・コウキさん。ホンマにすんませんでした!ワイ、コウキさんが喜んでくれるとばかりに!」
「コウキ様!儂は感動しました!儂ら一同!誠心誠意皆の理想郷を作ってみせます!」
「ちょっと、二人とも感動しすぎ。というかグラム、今『儂ら一同』って・・・『コウキ様!話は聞かせてもらいました!』」
すぐさま現れたフロアボス達のモニター。後ろには住民たちの姿も映っている・・・もしかして全部聞かれていた?
「すみません・・・反省の為に他のフロアボス達とエイミィ様にも儂らの愚行を聞いてもらおうと思いましてこっそりモニターで繋いでいました」
おいおい、それこそ先にホウレンソウだろ・・・というか今になって凄く恥ずかしくなったんだけど!それにモニターってそんな使い方も出来たのかよ!巨体のグラムだから隠れていて気付かなかった。
『ふふふ光輝の言葉で皆が一致団結したみたいだね』
「エイミィも聞いていたのかよ・・・まぁ、本心だからいいけど」
『・・・良かったね。もうゾアは孤独な『虚無の皇帝』じゃなくなったみたいよ』
エイミィは俺にだけ聞こえるように言うと確かにゾアはモニターに映るフロアボス達に向かって土下座しているが、後ろにいる住民たちもすっかり許してくれているようで笑っていた。
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