第17話

「・・・・・・・・・」


珍しくエイミィは話があると言われ、二人っきりで会議室で対談を設けたわけだがかれこれ5分近くエイミィは黙ったままだった。


「それで、話ってなんだ?随分と思い悩んだようすだが」

「うん・・・実は光輝に話しておかないといけないことがあってね」

「大事な話?それってダンジョンに関わる事なのか?」


一応この世界にきてかれこれ一月以上経過しており、エイミィからは雑談混じりでこの世界の事はちょくちょく教えてくれていた。


「うん、まずこの世界には私以外にも神は存在するわ」

「マジ?」

「マジよ。『力』を司る女神、それが私。そして『記録』を司る男神のシンと『生命』を司る女神セフィロト。これがこの世界を支える三神と呼ばれているわ」


世界を支える三神と言われるとエイミィがいかに凄い存在なのかを感じさせる・・・普段の彼女を見ているとあまりそう思えないが。


「何か、失礼なこと考えていない?」

「滅相もありません、エイミィがいかに凄い存在なのかを再度認識しました」

「ふんそうでしょそうでしょ!・・・っておだてても何もないわよ。重要なのはこの次、実は三神には対をなす神も存在するの」

「対をなす神って・・・まさか邪神?」

「まあ、この世界では彼らの事は確かに『邪神』と呼ばれているわ。『災害』を司る男神ザズムフ、『疫病』を司る女神ゾフィ、『疑心』を司る男神ジック。彼らはこの世界の生物の脅威として存在しているの」


確かに聞く限りでは邪神と言われても納得する。だが『邪神』という言葉にエイミィはどこか納得していない感じだった。


「実はね大昔・・・今だと旧文明や古代文明と言われる時代にこの三柱が突然人類を滅ぼそうと動き出したの」

「・・・邪神なんだし、滅ぼそうとするのはその通りなんじゃ?」

「違うの!『邪神』って呼ぶようになったのは今の時代からで、旧文明の時は私たち全員で6神としてこの世界を育む役割をしていたの!災害、疫病、疑心・・・どれも人々が抗って成長を促すことが目的なのよ」


エイミィの真面目な説得に俺はすぐに納得した。確かに俺の世界でも脅威が存在していた事で大きな発展を繰り返してきた。


「彼らは突然人類を滅ぼそうと動き出した。当然私たちはそれを阻止するために動き出したわ。そして何とか邪神たちを封じることに成功したの、セフィロトの犠牲と引き換えにね」

「は?ちょっと待て!セフィロトの犠牲って、もうセフィロトはこの世界に存在していないのか?」

「落ち着いて、厳密には死んでいないわ。力を使い果たして神核状態となって眠っているの」

「神核?」


聞きなれない言葉に俺が首をかしげるとエイミィがすぐに説明してくれた。


「つまり石の姿になってスリープ状態になっていること。この状態でも世界の役割は行えるわ。そして長い時間を掛けて回復すればセフィロトは復活できる」

「そうなのか・・・ところでエイミィは『力』・・・つまりスキルを与える役割なのは分かるがセフィロトはどういう役割を担っているんだ?生命の管理とかよく分からないんだが」

「・・・これは絶対に他言無用よ。フロアボスにも絶対話してはいけないわ」


エイミィが真剣な表情で顔を近づけると俺は無言のまま頷いた。


「輪廻転生・・・セフィロトは死んだ生き物たちの魂を管理し、転生させるのが役目なの。そして転生の際にその人が培ってきた能力をある程度削るのも彼女の役目よ」

「能力を削るってどういう意味だ?」

「簡単に言えば引継ぎボーナス」

「あ、把握」


つまり、セフィロトは魂に定着した【スキル】をリセット、あるいは弱体化させて引き継がせることをしているわけだ。


「さっきも言ったように神核の状態でも管理は可能よ。ただその力の行使はかなり不安定になるの」

「不安定になるとどうなるんだ?」

「ここ数百年生まれ変わった者は【スキル】を全て失った状態で生まれたり、逆に大量の【スキル】を引き継いだまま生まれてくるのがかなりいるわ。だけどそれだけならまだ良かった・・・生まれ変わった者の中には生前の記憶を引き継いだまま生まれてくる人なんてのもいたのよ」


うぁ・・・思った以上に大混乱になっているんじゃないか?


「そういう人達を『転生者』って呼ばれているわ。そして転生者の殆どが強力なスキルを引き継いだまま生まれてきているの」

「強くてニューゲームかよ。セフィロトがいなくなって大変なことになっているじゃん」

「そうなのよ!だから一刻も早くセフィロトを復活させる必要があるの」

「復活って、どうやって?まさかダンジョンの魔力を使うのか?」

「それも考えたわ、だけどホワイトリー君を見て閃いたことがあるの」


エイミィがそう言うと彼女の掌に透き通った結晶体が出現した。神々しい光を放つその石はすぐにエイミィが言っていた神核だと理解した。


「それってもしかしてセフィロトの?」

「そう、セフィロトの神核は私が大事に管理していたわ。二重の意味で私は絶対に人の手に落ちてはいけない訳なんだけど・・・メリアス、例のモノを会議室に持ってきてくれますか?」

『はい、すぐに用意します』


エイミィはメリアスに連絡を入れると、すぐさまメリアスが現れ彼女の手には一凛の美しい花があった。花びらが虹色に輝き、茎や葉はまるで宝石のようだ。


「エイミィ様、以前言われた通りに『レオガラの花』を用意しました」

「メリアスこの花は?」

「はい、レオガラの花と言われている花でして、エイミィ様のご要望で育ててみました。咲かせるのに大量の魔力が必要でしたので少し時間がかかりましたが」

「ご苦労様メリアス・・・ですが、私が依頼したのは三日ほど前ですよね?完成したと報告を受けたのも昨日ですから二日で用意したのですか?」

「はい」


メリアスは平然と答えるとエイミィは表情を崩さないために必死に笑顔を保ち続けていた。後で知ったのだがこの『レオガラの花』とは女神・セフィロトが愛していた花で、咲かせるには膨大な魔力を栄養にして何千年も時間をかけてなければ咲かないらしい。その花びら一つで死者を蘇らせるという逸話もあるとか。


「流石ね・・・魔力も十分に花全体に行きわたっているわ。正直、これほど立派に咲いた花は初めて見るわ」

「エイミィ様に献上する花です、私が出来る最高の花を用意しました」

「これならいけるわ・・・メリアス、これから起きることは決して口外してははなりません。もちろん、他のフロアボスにも」

「・・・はい」


エイミィがそう言うとメリアスは何も疑問を持たずに彼女に従った。そしてエイミィは持っていた神核を『レオガラの花』に触れさせると神核はまるで吸収されるように花と一体化し光る球体へと変わり、次第に人の姿を形作り始める。


そして発光が収まるとそこには10歳ぐらいの小さな少女が立っていた。


「成功ね・・・セフィロト、聞こえる?」

「・・・ん、エイミィですか?私たしかザズムフ達を封印し『うぁあああああああ!!!!!良かった本当に良かったよ!!!』・・・エ、エイミィ!?」


エイミィは泣き顔のままセフィロト(?)に抱き着き号泣し始めた。その姿は女神というにはあまりにもかけ離れ、ただ友人との再会を喜ぶ涙もろい女性にしか見えなかった。

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