第14話 やり方

皆黙り込んだので、俺は誰にも聞こえないくらいの小声で

「リブラー」と呟いた。すぐに頭の中に声が響いてきて


ヘグムマレー・ウィズがスライムに好かれるようになった場合

未来に王国を巻き込んだ大きな悲劇が起こりえます。

それでも良いなら〇を、他の解決方法を選ぶのならば×を

お選びください。


とんでもないことを言ってきた。少し黙って考える。

つ、つまり、あのじいさんがスライムに好かれたら

王族とか国家に何か問題が起こって、戦争とか紛争とか

血で血を洗うお家騒動とかになるのか?

というか、そうとしか考えられない。よ、よし

「×で」

すぐにまたいつものリブラーの声がして


了解いたしました。

では、まずはヘグムマレーに

"リース"という王族の女性を紹介してもらってください。

彼女はとても好奇心旺盛なので、必ずナランさんに惚れます。

そこで、あなたは……。


「ちょ、ちょっと待て……その方法以外のはないのか?」

しばらく沈黙が続いて「あれ……?」と思っていると

いつの間にかサナーとローウェルから顔を覗き込まれていて

俺はその場から後ろに飛びのいた。

「ど、どうしたんだよ……」

サナーが心配そうに

「な、なあ、ナラン、休んだ方がいいかもな……」

ローウェルは真剣な顔で

「精霊憑きとかじゃなさそうだが……誰かと会話してるよな?」

「い、いや……そんなことはないし、疲れてもないから!」

サナーは俺の額に自分の右手を当てて

「熱はないな。おっさん、精霊憑きって?」

「ああ、なんかして傭兵で死線を潜ってると時折あるんだよ。

 各属性の精霊に憑依されて、いつの間にかそいつらに操られるってことがな」

サナーは慌てた顔になって

「な、ナラン!診てもらおう!」

「だから、大丈夫だって。ちょっと最近、独り言が出てしまうんだよ」

いつの間にか起きて話を聞いていたらしい元村長から

ポンッと肩を叩かれて、わざとらしく同情したような顔をされる。

「……」

くそ……もうこうなったら知らん!途中までだがリブラーの予測に従ってみよう。

「えっと、なんで独り言が出るかっていうと

 時折、頭の中に単語が浮かぶっていうか?それで最近のピンチをしのいでて……」

まずいい加減に言い訳するとローウェルが驚いた顔で

「そ、それ、天啓スキルじゃないか?

 確か混沌スキルが超低確率で変異すると

 天啓になるという話もきいたんだが、もし、そうなら大ごとだぞ」

「い、いや……そんな大したもんじゃなくて

 今は、リースっていう王族の女性の名前が思い浮かんで……」

ローウェルはあからさまに嫌な顔をした。

「……あー……天に見放された姫様ね……」

うわ、やばい二つ名が出てきた……。サナーが興味深そうに

「な、なにそれ、王族なのに見放されてるんの?」

ローウェルが大きく息を吐いて

「まあ、ちょっと待ってくれ、まずはナランがライトスライムリーダーに

 ヘグムマレーと仲良くしてもらうように言ってみてくれ。

 姫様の件については、それでもダメだったらということで」

俺は頷いた。恐らくそのためにわざわざローウェルが気を利かせて

ここまでスライムたちを運搬してきたのだろうし

やってみよう。たぶん、リブラーが言ってきてないから失敗するだろうけど……。


二時間後。


スライムライトリーダーは触手を伸ばして捕まえた

ヘグムマレーを庭園へと放り投げた。

「なんでじゃああああああああああ!!」

ヘグムマレーは思いっきりぶっ飛んでいって

ローウェルが風のように駆けていき、木の上で老人を華麗にキャッチする。

さらにライトスライムリーダーは、地面に

「あの狂人と話すとイライラする。もう筆談しないでいいか?」

と俺に尋ねてきた。サナーは字を見つめて

「いいと思う。デリカシーなさすぎだよ。あのじいさん」

「……そうだな。すまんかった。もう筆談しないでいいから」

ライトスライムリーダーはシュルシュルと触手を収めて黙り込んだ。

そうなのだ、ヘグムマレーはとにかく興味の赴くままに

「好きなモンスターは?嫌いなモンスターは」

「人間についての考察をきかせてくれ」

「神は信じておるのか?」「子供への愛はあるのかな?」

ライトスライムリーダーに様々な質問を二時間や休みなくぶつけ続け

そしてスライムが答えると、すぐに次の質問へと移るので

あんな尋ね方をしていると、確かに最後は触手で投げられて当然だと思う。

スライムにも気持ちがあるのだ。


ヘグムマレーを抱えたローウェルがゆっくりと戻ってきて

「ヘグムマレーさん、このやり方はあきらめましょう」

ヘグムマレーは悔しそうな顔で

「くっ、くううううう……なんでじゃ……私は仲良くなりたいだけなのに」

サナーが呆れた顔で

「もっと相手のこと考えないと。じいさん、友達とか女の人ともああなの?」

代わりにローウェルが

「いや、スライム以外にはとても紳士的だよ。

 この人は若いころはとてももてたんだぞ?

 子供も……いや……はぁ、仕方ないか」

大きくため息を吐くと

「リース王女と合わせてほしいと、ここにいるナランが言っていますが」

ヘグムマレーは驚いた顔で

「……そ、それが今回の依頼と関係あるのか!?」

ローウェルが黙って俺を見てくるので、俺は頷くしかない。

リブラーを信じよう。途中までしか予測を聞いてないけど……。


一度、俺たちは会社まで戻ることになった。

今度は、ヘグムマレーがこちらへと赴くらしい。

角材とお茶と、あとついでに出してくれたお菓子のお礼をヘグムマレーにしてから

四頭立ての荷馬車は、ライトスライムリーダーの乗った滑車を引いて

州都を帰っていく。

「お金あるし、装備とか買い物したいけど……」

サナーがボソッとそういうと、ローウェルが

「俺も同じ気持ちだが、依頼人が会社に来るって言うんだから

 さっさと帰って待っておかないとな」

「そうだよなぁ……」

サナーが俺に恨みがましい目を向けてくる。

「いや、しょうがないだろ……思い浮かんだんだから」

リブラーが。だけど。また嫌な予感がする……気が重い……。


夕暮れに照らされて来た道を戻り

そして廃墟群にライトスライムリーダーたちを降ろし

会社に着いた頃には、暗くなっていた。

屋敷の扉を叩こうとすると、それよりも先に

丸眼鏡をかけて坊主で長身、さらに筋骨隆々とした軍服姿の男が出てきた。

「あ、マジメルさん、お疲れ様です」

彼は黙って俺たちに会釈をして、ゆったりと去っていった。

ローウェルはいつの間にか俺たちから離れて

その背中を嫌そうに眺めている。

サナーがその様子にすぐに気づいて、マジメルが見えなくなると

「あれえええええ??もしかして苦手なのかあああ!?」

ローウェルに近寄ってニヤニヤしながら言うと、彼は

「……ほら、経理部長のあいつが会社の表の守護者なら

 俺は会社の暗部の守護者みたいなとこあるのは、もう分からんか?

 得意なわけねぇだろ」

「そうかああ、いいこときいたなぁ。な、ナラン!」

肩を叩かれた俺は、サナーに「巻き込むな」という視線を送った。


シーネが出迎えてくれて事情を話すと応接間で待ってくれと言われた。

ちなみに社長は留守らしい。

俺、サナー、元村長、そしてローウェルで椅子に並んで座るが

はっきり言ってやることもなく、十分もするとダレてきた。

サナーが暇なのか元村長に

「ねぇ、呪いって聞いたけど、なんで、同じ言葉しか喋れないの?」

元村長は悲しそうに頭を横に振って

「私が……村長です……」

と俯いた。サナーがなぜか俺を見てきて

「元村長についても何か閃かないか?」

閃くわけがないし、元村長個人に対して軽々しくリブラーは使いたくないが

その後もずっとサナーが答えられない元村長に尋ね続けて

何となくイライラしてくるし、間が持たないので小さく

「リブラー」

と呟くと、頭の中の声が


かつて、村の村長の座を争った政敵からかけられた闇魔法です。

解除する方法は、高レベルの祈祷師を連れてくることですが

何より、元村長本人が解除を望んでいません。

呪いが継続していれば、悪辣な本音を喋る必要が一切ないからです。


どうせそんなことだろうという説明がされて脱力する。

こんなありきたりの内容じゃ、サナーも納得しないだろうな。

リブラー無駄遣いしたな……これは、などと考えていると

遠くから、ヒューーーーーーーンという何かが飛んでくるような音がしたと

そう思った瞬間には、応接間の中庭に通じる窓が盛大に割れて

赤いマントのようなものにくるまれた一人……いや二人の人間らしき物体が

窓際に落下していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る