第11話 レア職

ライトスライムを大量にけしかけて村長の家を喰わせたその日の深夜

緊張している俺とサナー、そしてずっと顔がニヤけているローウェルは

会社の屋敷の広い応接間でテーブルをはさみ

車椅子に座って一言も発さない表情の読めない社長、そして不機嫌があからさまな

昨日会った金髪の少女、そして鼻歌を歌い続けるシーネの三人と対峙していた。

ちなみに俺たちは、村で買った布の服を着ている。


応接室のバルコニーから見える中庭には

俺たちが会社まで連れてきたライトスライムの群れが蠢いていて

ライトスライムリーダーがバルコニー近くまで寄ってきて

こちらの様子をうかがっている。

ローウェルが床に積んであった金銀財宝の入った宝箱を

静かにテーブルの上に乗せた。

「あの村長、たんまりため込んでたぜ。な、社長、こいつら面白れぇだろ?」

少女が不機嫌そうに

「ローウェル様、それ、窃盗ではないですの?」

ローウェルはニヤニヤしながら首を横に振り

「形としては、ちょっと違う。

 これ全部、村長が不法にため込んだ帳簿に出ない裏財産ってやつよ。

 表に出たら国から課税されちまうわなあ……それを俺たちが

 "探索で見つけた成果"として表に出して会社の売り上げとして計上すればー?」

少女は大きくため息を吐いて、どうでもよさそうに

「ロンダリングされて綺麗な財産になりますわね。

 ああ、ちょっと叔母様とローウェル様に鑑定士としてご報告したいのですけど」

ローウェルは興味深そうに少女を見つめ、社長もそちらへと顔を向けた。


「ナランさんは、ノースキルのサポーターから

 レア職の"ライトスライムテーマー"レベル12へと自然転職しました。

 スキルもスライム語レベル3、異種族への愛レベル1が追加されていますわ。

 要注意スキルの"混沌"も追加されていますが、まだレベル1なので

 自然消滅するかもしれませんわね。要経過観察です。

 サナーさんは戦士レベル9に上がっています。他に変化はありません」


そう言うと、わざとダンっと大きな音をさせて立ち上がり

「では、わたくしは、これで」

というと、さっさと応接間から出ていった。

ローウェルは嬉しそうに

「おお、ナラン、三回目の仕事にして上級職の仲間入りだな!」

「え……いつの間にか、上級職に転職してたのか?」

リブラーの助言に従っただけなんだが……俺如きが、まさかの上級職?

サナーがちょっと羨ましそうにこっちを見てくる視線がこそばゆい。

シーネは鼻歌をピタッと止めて

「ふふふーっ。やっぱり死の匂いはしませんねぇ……。

 一匹もスライムを殺さずに手なづけるなんて、凄いですねぇ」

不気味な笑顔で俺を褒めてくると、サッと立ち上がり

社長に恭しく頭を下げ退出していった。

ローウェルが嬉しそうに

「なあ、こいつら、派遣から社員にしても、もういいんじゃねえか?」

社長へと意外な提案をすると、社長は鼻で嗤いながら

「ふっ。この程度の強運の持ち主、何人も死んでいる。ダメだ」

と言って、テーブルの上に置かれた金銀財宝を眺めると

「……まあ、成果は認めよう。それで、報酬はあのスライムどもに

 うちの会社の廃墟群を食わせればいいんだな?」

サナーが手を伸ばして、発言の許可をされる前に

「あのっ!!私たち、スライム手なづける途中で装備と服だけじゃなくて

 前金をスライムに食べられてて!

 よかったら、追加で百万イェンぐらいください!!それくらいはしたかと!」

確かにサナーはライトスライムに皮鎧ごと

その中の入れていた三十万イェンを喰われている。

先ほど、帰りの道中で気づいて、夜空に叫び声をあげていた。

社長はまた鼻で嗤うと

「百万イェンは大金だぞ?貧乏な地域の一家が一年暮らしていける金だ。

 村長の家から、表に出せない財貨をもってきたローウェルならまだしも

 結果的にお前らのやったことと言えば、村長の家を食わせて破壊した挙句に

 会社にライトスライムの群れを連れ帰り

 今回は、ほぼ迷惑しかかけてないぞ?分かっているのか?」

確かにその通りなので俺は頭を抱えるしかないが、サナーはさらに

「で、でも!スライムたちが移動したことで洞窟でまたキノコが栽培できるし!

 村人も怯えなくてもよくなります!」

社長は少しイライラした顔になり

「……各所に金を配って頭を下げて、もみ消すのが大変だって言ってるんだよ。

 この大事な時に、いくらかかると思ってるんだ」

ローウェルがニカッと笑いながら

「まあまあ、この金銀財宝がたぶん、一億イェンは下回らないし

 全体的にはプラスでしょ?社長、怒らんでもいいだろ?」

機嫌を取ると、どうにか社長は息を吐いて気持ちを収めたらしく

「まあ、いい。紛失したと報告を受けた三十万イェンは出してやる。

 装備も、皮鎧とブロンズソードは使い古しのものを

 次回任務時に再支給する。

 あとは、喰わせてもいい廃墟群の位置を記した地図をやる。

 ナラン、責任を取ってしっかりとライトスライムたちを導いてやれ」

俺は恐縮して社長に深く頭を下げる。

ほぼ同時に室内に、再びシーネが入ってきて、札束と地図をサッと渡してきた。

このタイミングで渡してくるということは

最初からこの話の結論が決まっていたということだ。

まあ、こんなもんだろうな、と力が抜けた俺は

納得いかない顔のサナーの手を取り立ち上がり、応接間から出ていく。


さらに夜が更けこんでいく中で、

俺とサナーと面白がってついてきたローウェルは

ライトスライムの群れと廃墟群の西端へと移動して

地図や地形をカンテラで照らしていったり来たりしながら

廃墟群の食べてもいい家屋や区画をライトスライムリーダーと打合せし始めた。

ライトスライムリーダーは最後は

完璧に把握するためには、地図を食べさせてくれと地面に書いて言い出して

俺たちは了承して、食べさせることにした。

その透明な光り輝く体の中で地図が浮かんでいるのを眺めていると

触手が俺の足元まで伸びてきて、地面に文字で

「理解した。我が子たちにも間違わぬよう、きつく言っておく。

 ところで人間は、そろそろ寝なければならぬのではないか?」

いきなり心配されてしまった。

ローウェルがその文字と俺たちの反応を見て、腹を抱えて笑い出して

サナーがいつになく力なく

「ナラン、もう帰ろ……」

と言ってきたので、疲れているのかと思い

まだ観察したいと言ってきたローウェルに

ライトスライムたちの監視は任せて、俺たちは廃墟付き馬小屋に帰ることにする。


その帰り道、サナーが

「あのおっさん、なんなんだろ……」

と俺も引っかかってきたことを言ってくる。

「たしかになあ、あんなあっさり洞窟に閉じ込めるなんてな」

サナーに言ってないが、しかも村長から金までもらって

俺たちをスライムの生贄にしようとした。

古代図書館の脱出時に救われてなければ、とっくにリブラーに

ローウェルの退治方法を聞いているところだ。

サナーはさらにポツリと

「でも、生き残って出てきたら嬉しそうな顔をしてたからな……私にはわからん」

「もういいじゃないか……寝ようぜ」

ちなみに今回のことでリブラーの予測はまだ最後の一つが残っている。

それにはローウェルが関係しているのもサナーには言えない。

俺たちの家に帰ると、天井に穴の開いた家屋の周囲が少し片づけられていた。

「なんか、居ない間に修復作業してたのかも……」

サナーはそう言いながらフラフラと馬小屋へと向かっていく。

俺も続いて馬小屋へと向かい、二人とも倒れこむように藁の上で眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る