第18話

一ヶ月後僕は午前勤務を終えて、久ヶ原の家に行くと車で横浜にある輸入式の家具メーカーへ行き、彼の寝室で使う寝具一式を二人で選び購入した。再び都内に戻りスーパーへ向かい夕食用の食材を買い込み家に帰ってくると、車から荷物を抱えて中に運びひと段落したところで彼が調理台に向かい支度を始めていった。


「翔、蓮根の皮を剥いていってくれるか?」

「うん」


二人で並んで台所に立ち、その隣で手際よく彼も野菜を切っていく。


「かぼちゃとさつまいもを一緒に炒めるの?味別々にならない?」

「さっと炒めて味付けも薄くするからそんなに喧嘩しないんじゃないかな?」


フライパンに根菜類を炒めていきその間に次の食材を調理していく。


「レンジから温まったかぼちゃがあるから取り出してくれるか?」


熱で覆われたかぼちゃを出して実と皮を剥がしその実をマッシャーで潰していき、小麦粉と粉チーズ、塩で和えていく。僕がそれを棒状に成型して整えていくと、今度はオーブンレンジ加熱して焼いていった品が出来上がり、久ヶ原が取り出して余熱を冷ましていき、その間にバゲットを切ってテーブルに並べていった。

するとスマートフォンにメールが来たので開いて見ると比島がマンションに到着したと連絡が来たのでドアを開錠して中に入れさせた。


「いらっしゃい」

「こんばんは。……なんかすごくいい香り。これ私からワインのプレゼントです。一緒に飲みましょう」

「ありがとう、リビングこっちだよ」

「こんばんは。初めまして、川澤といいます」

「比島です。今日呼んでいただいてありがとうございます」

「もう出来上がるから椅子に座っていいよ」


僕と彼が調理した品物を運んで並べていくと、比島は嬉しそうに眺めていた。


「これお二人で作ったんですか?」

「うん。彼に手伝ってもらって仕上げたよ」


茄子とひき肉にしめじ、バジルとチーズをのせたのオーブンで焼いた重ね焼きに、かぼちゃのニョッキと、水菜を底に敷き詰めてかぼちゃとさつまいも、蓮根とごぼうを醤油や生姜を煎り胡麻で味付けて炒めた根菜のサラダ。

ワインとバケットを添えて出すと三人で席に着いて早速食べていった。


「ニョッキがふわふわして美味しい。作るの難しくなかったですか?」

「レンジで温めたかぼちゃに小麦粉やチーズを熱いうちに混ぜて成型してからその後に茹でていくだけだよ」

「茄子とひき肉の重ね焼き、ちゃんと均等に焼けてある。グラタンと似ているけど、あっさりしていて食べやすいね」

「これもかぼちゃとさつまいもを一緒に炒めたんですね。水菜がアクセントになっていてさっぱりして進みます。ワインにも合うしすっごく幸せ」

「良かった。今時期のものを使った料理が上手くいって、作った俺らもほっとするよ」

「課長がこんなに得意だなんて想像もできなかった。でも、これなら息子さんもきっと喜びますよね」

「そうだ、真尋くんあの後どうなったの?」

「今ちょうど示談の交渉中。真尋の意見を中心に動きも変わっていくみたいだから、俺の意見が妻に通れば双方に親権が分配されていくよ」

「うまくいくといいですね」

「それが終わったらこうしてあの子に飯を食べさせてあげたい。向こうも家に来たいって言っているんだ」

「それじゃあ次で決定になりそうなんですか?」

「その予定。やっぱり落ち着かないよ。業務中もいつ電話がかかってくるのかって気になってしょうがない」

「そうですよね。奥様どうするつもりなのかな……」


久ヶ原はあまり考えこみたくないので最終的に弁護人の確定を待つしか他が無いと言い、話題を変えようと比島が僕らにある話を持ち込んできた。


「そういえば、お二人がちょうど並んで座っているから聞きたいんですけど、お付き合いされているって本当なんですか?」

「……はい、僕ら同性同士っていう形で付き合っているんです」

「親御さんにはお話はされているんですか?」

「双方の親にも挨拶をしに行ったよ。確かに驚いでいたけど、長いスタンスで見ていけばいいんじゃないかって賛同してくれたんだ」

「男性同士って異性と違って世間体ではあまり協賛してくれない部分も多いですよね。どうしてそれでも付き合おうって決めたんですか?」


「久ヶ原さんと出会って、色々話していくうちにパートナーとして過ごすことがお互いのためになるって決めたんです。職種が違うし時間もまとまった休みも取りにくい時もあるけど、二人なら恥ずかしくない生き方をしていけるって考えていけるようになったんです」

「一般的なカップルみたいに口喧嘩もするけど、それが無いと互いの事を理解していけないしさ。至って無難に付き合っていけているんだ。気が楽なところもあるし、翔も人一倍努力家だしさ」

「お互いにいい刺激になっているんですね」

「一人でいるよりも二人の方が家族のように安心する。こうして料理も一緒に作れるようになって楽しいんだよ」

「なんか理想的でいいですね。私、どうすればいいんだろう……」


比島はワインをつぎ足しして一気に飲むとため息をついた。漠然とした表情を浮かべているので何があったか訊いてみた。

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