第2話

 夢の中で、なんとなく、彼女を待っている。


 他人の悪夢には興味がなかった。どんな悪夢でも、起きれば忘れる。どちらかというと、そっちのほうに自分は重きを置いていた。夢を忘れること。現実に引き摺らないこと。どんな悪夢も、忘れてしまえばただの記憶の整理。


 起きることのない自分には、彼女だけが、唯一の現実との繋がりだった。現実の自分は、たぶんベッドの上で終末を待っている。


 彼女には言っていない。夢の中のことを、彼女は変えることができる。その力で、もしかしたら、自分の夢も変えてしまうかもしれないから。


 彼女にときどき会うだけ。それだけの夢。起きることはない。ただずっと夢の中にいるだけ。それだけ。


 彼女が来た。


「今日もか?」


 訊いてみる。彼女は、悪夢を変えていく。


「今日もだよ」


「よくやるよ。他人の夢だろうに」


「他人の夢だから。他人の悪夢は、わたしにとって、寝覚めがわるい」


 寝覚め。自分にはない、眠りから覚める瞬間。


「悪夢は悪夢。現実とは関係がない」


「知ってるよ」


 それでも、彼女は悪夢を変えていく。やさしい女だった。

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