わるい夢

春嵐

第1話

 自分の見た夢で、誰かが傷つくことのないように。そうしているから、そうなる。そういう夢。に、している。


 夢を見る。そして、夢を変える。現実的な物理法則が通じなくてむずかしいこともあれば、手をひとつ伸ばすだけで解決してしまうこともあった。


 彼がいる。


「今日も?」


「今日もだよ」


 彼の夢とわたしの夢は、繋がっている。お互いに、現実での接点はない。というより、お互いの現実は、たぶん繋がっていない。別な場所、わたしの知らないどこかにいる、彼。


 彼も、夢を変え続けている。わたしと違って、自分の夢だけを。他人の夢には干渉しない。


「よくやるよ。他人の夢だろうに」


「他人の夢だから。他人の悪夢は、わたしにとって、寝覚めがわるい」


 実際、そう。悪夢を自分で見るよりも、他人の悪夢を眺めているほうが、なんかこう、気分が沈む。


「悪夢は悪夢。現実とは関係がない」


「知ってるよ」


 彼の口癖だった。悪夢は、悪夢。現実とは関係がない。

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