13話

 季節が巡り、初夏の風がそよぐ中。


 公都へと戻ってきたアルギスは、シンプルな服装に身を包み、1人慣れた様子で通りを歩いていた。


 

(……まさか、散歩がこんなに気分転換になるとはな)



 しみじみと自由を噛みしめながら、露店の並ぶ通りへと入っていく。


 石畳の敷かれた通りでは、商売人たちが行き交う人々に声をかけ、片隅に集まった音楽家たちは、陽気な音楽を奏でていた。



(少し、腹が減ったな。……あれでいいか)

 


 多くの人々が行きかう中、アルギスは腹を押さえながら、キョロキョロと辺りを見回す。


 そして、ゴチャゴチャと建てられた露店の中から、肉串の店を見つけると、軽い足取りで近づいていった。

 


「おい、肉串をくれ」



「おう!どっちの串にする?」



 良く焼けた肌に濃い茶色の髪をした熊のような店主は、串から顔を上げると、歯を見せて笑う。


 一方、不思議そうな顔をしたアルギスは、背伸びをして、網の上で焼かれている串を覗き込んだ。


 

「串に種類があるのか?」



「ああ、オーク肉か、”グラゾン”て魔物の肉だ。どっちも美味いぜ?」



 すぐに目線を落とした店主は、串をひっくり返しながら、得意げな表情を浮かべる。


 炭火でじっくりと焼かれた肉串は、表面から肉汁を滴らせ、微かに煙を上げていた。



(見たところ、牛肉に見えるが……)


 

 串から立ち上る香りに鼻をひくつかせたアルギスは、ゴソゴソとポケットを漁り始める。


 そして、銀貨を1枚取り出すと、店主の前に差し出した。



「2本ずつくれ」



「なんだ坊主、随分豪勢じゃないか。……良ければ残りの串も買ってくれないか?」



 銀貨を受け取った店主は、串を袋に包みながら、バツが悪そうにアルギスの表情を窺う。


 売り文句とすら言えない提案に、アルギスはピクリと眉を上げた。



「なに?」



「……いや、実は恥ずかしい話なんだけどよ――」 



 不思議そうに首を傾げるアルギスに対し、店主は時折、串を返しながら語り出す。


 伏し目がちに話す店主によれば、なんでも研究に傾倒するあまり、自らの生活が立ち行かないというのだ。


 

「そんなに金をかけて、一体なにを研究してるんだ?」



「もちろん、最高の肉の焼き方だ!」



「……そうか」



 訝し気に眉を顰めていたアルギスは、即答された内容に、すっかり毒気を抜かれる。


 呆れ顔で再びポケットに手を入れると、数枚の銀貨を取り出して店主に握らせた。



「これで、包めるだけ包んでくれ」



「おお!言ってみるもんだ、ありがとな!」



 パッと表情を輝かせた店主は、急いで焼いていた串を大きな袋に詰めていく。


 しばらくして、串を詰め終えた店主から受け取った袋を、アルギスは抱き上げるように片手に抱えた。


 

「かまわん。……せいぜい頑張れよ」



「ああ、絶対に結果を出すぜ!俺はマックスだ、よろしくな!」



 去っていくアルギスの背中に向けて、マックスは口元に手を添えながら声を張り上げる。


 後ろ手に手を振り、露店から離れたアルギスは、多くの人が行きかう通りで、抱えた袋の大きさに渋面した。


 

(ふむ。流石に、この量は食べきれないな……)



 ズッシリとした重みを感じさせる紙袋には、未だ湯気を上げる肉串が、パンパンに詰め込まれている。


 紙袋を両手に抱え直したアルギスは、古びた建物の目立つ、やや寂れた通りへと目線を向けた。


 

「仕方ない。どこか、座れる場所でも探すか……」 


 

「おい!お前、知らない顔だぞ!」



 誰にともなく呟いたアルギスの耳に、後ろから僅かに震えた声が聞こえてくる。


 足を止めて振り返ったアルギスは、そう歳の変わらない、幾分汚れた服の少年に目を細めた。



「なんだ?貴様は?」



「この辺は俺たちの縄張りだ。その包みを置いて、どっか行きやがれ」



 リーダー然とした少年の声に反応するように、アルギスと変わらない歳の子供たちが6人、木の棒を手にぞろぞろと建物の陰から現れる。


 たちまち周囲を取り囲まれたアルギスは、納得がいったとばかりに頷いた。


 

「なるほど、強盗の真似事か」


 

「痛い目あいたくなきゃ、さっさとしろ!」



 逃げようとしないアルギスに、少年はほっと胸を撫でおろしながら声を張り上げる。


 しかし、じりじりと距離を詰める子供たちを見回すアルギスの表情は、楽しげに歪んでいた。



「1つだけ訂正しておくぞ?……ここは、お前らの縄張りではない。――軍勢作成」



「う、うわぁ!卑怯だぞ!」



 術式の完成と同時に、アルギスの体から噴き出した黒い霧は、蠢きながら周囲を埋め尽くしていく。


 広がり切った霧が晴れると、アルギスの周りには、10体を超える漆黒のスケルトンが現れていた。



(やはりだ、同時に扱えるスケルトンの数が増えている。それに、なにやら色もおかしいな……)



 身を固くして怯える子供たちをよそに、アルギスは目の前のスケルトンをじっと観察し始める。


 すぐにスケルトンの使役に問題がないことを確認すると、小さく肩を竦めた。


 

「まあいい、好都合だ。――そいつらを捕らえろ」



 使役されたスケルトンは、骨だけの体とは思えない速度で動き出し、次々と子供たちを捕まえていく。


 拘束された子供たちが叫び声を上げる中、唯一スケルトンから追われていなかった少年は、地面に手をついてアルギスを見上げた。



「悪かった!俺たちが悪かったから許してくれ!頼む!」



「なぜ、こんなことをした?」



 スケルトンを消滅させたアルギスは、不思議そうな顔で少年を見下ろす。


 すると、目線を彷徨わせていた少年は、躊躇いがちに口を開いた。



「……お前、この辺来るの初めてだろ?」



「ああ。それがどうした?」



「貧民街の近くを1人で歩くなんて、公都に来たばっかりなんだな……」



 少年によれば、この辺りは貧民街が近く、治安も悪いため、最近まで外出することが出来なかった。


 しかし、騎士団によって貧民街の一斉浄化が行われたことで、少年の住む孤児院から初めて外出を許可されたというのだ。


 

「そこで、お前と……その袋を見つけたんだ。肉なんて滅多に見ないから、それで……」



(……やはり、実際に街を見ることは必要だ)



 黙って話を聞いていたアルギスは、自身の知り得ない公都の状況に、思わず額を押さえる。


 そして疲れたように首を振ると、手を降ろし、未だ地面にへたり込む少年と目を合わせた。


 

「はぁ。おい、お前らの孤児院とやらに連れていけ」



「え!?……今のこと、シスターに言うのか?」



 目を見開いた少年は、途端に勢いを失くし、どんよりとした雰囲気を纏い始める。


 一様に沈んだ表情を浮かべる子供たちに対し、アルギスは不快げに顔を歪めながら顎をしゃくり上げた。



「私の目的が、そんなチンケなものなわけないだろうが。いいからさっさとしろ」



「わ、わかったよ。ちょっと待ってくれ」


 

 慌てて立ち上がった少年は、近くに集まっていた他の子供たちとコソコソ話し始める。


 少年たちの会話が終わると、待たされていたアルギスは、真っすぐにリーダーの少年の下へと向かっていった。



「そんなに、これが欲しいならくれてやる」



「へ?う、うわぁ!」



 肉串の詰まった紙袋を押し付けられた少年は、重みに驚きつつも、どうにか両手で抱きかかえる。


 そして、他の子供たちと目を輝かせながら笑顔を交わすと、そのまま孤児院へ向けて歩き出した。


 

「強盗するほど欲しかったのに食べないのか?」



「これは持って帰って皆で分けるんだよ」



「……そうか」



 やや怯えを残しつつも、弾むような足取りで前を歩く少年たちに、アルギスはそれ以上、何も言えずに黙り込む。


 それからしばらくの間、古びた石畳が軋む道を進んでいた時、小さく息を吐いた少年は、歩く速度を落としてアルギスの横に並んだ。



「……なあ、お前の名前なんなんだ?」



「ん?私の名はアルギスだ」



 貧民街を見回していたアルギスは、チラリと少年を一瞥すると、すぐに通りの観察へと戻る。


 一方、アルギスの顔をじっと見つめた少年は、二の足を踏みつつも、ゆっくりと口を開いた。



「俺は、リットだ。……その、さっきはごめんな」



「ああ。以後、気をつけろ」



 気にした様子もなく、ヒラヒラと手を振ったアルギスは、通りの先にある、錆びた鉄柵と石造りの建物を見据える。


 やがて、遠目に見えていた建物に辿り着くと、串の入った袋を抱えなおしたリットは、庭で洗濯物を干している女性の下へと走っていった。



「シスター!お土産があるぜ!」



「まあ!……こんなに、どうしたの?」



 肉串の詰まった袋を渡されたシスターは、驚きつつも、すぐにリットへ疑うような視線を向ける。


 すると、リットはあたふたしながら、後ろを振り返ってアルギスを指さした。


 

「悪いことはしてないよ!あいつから貰ったんだ!」



(してるけどな、悪いこと)



 指をさされたアルギスは、通りでの出来事を思い出しつつ、他の子供たちと共にシスターへ近づいていく。


 暗い修道服に身を包んだシスターは、袋をリットへ預けると、しゃがみ込んでアルギスと目線を合わせた。



「貴方がこの子たちに串をくれたの?」



「ああ、私には量が多くてな。好きに食べてくれ」



「貴方の慈愛の心に多大なる感謝を。私はシスター=レイラ、よろしくね」



「アルギスだ」 



 胸に手を当ててニコリと微笑むレイラに、アルギスもまた薄い笑みを返す。


 ややあって、何やら渋い顔になったレイラは、キラキラとした目で紙袋を覗き込む子供たちへと声を掛けた。


 

「……食べるなら、中で食べなさいね」



「はーい!」



 元気の良い返事と共に、子供たちはリットの持つ紙袋に惹きつけられるように、孤児院の中へと入っていく。


 全員が孤児院へと戻ったことを確認したレイラは、悲しげな表情でアルギスに向き直った。



「なにかお返しをしたいのだけれど、ここには何もないの」



(……別に、特別何かを返して欲しいとも思わんな)



 孤児院の外観を見回していたアルギスは、蔦が這う古びた壁や、くすんだ窓ガラスに眉を顰める。


 そして、アルギスが口を開こうとした時、頭を悩ませるレイラの下に1人の少女がやってきた。



「ねえシスター、串食べないの?」



「ええ。私には、これがあるもの」



 屈みこんだレイラは、どこからか茶色いクラッカーを取り出すと、少女へ見せつけるようにクラッカーを弄ぶ。


 しかし、レイラの持つクラッカーを見た少女は、小さな鼻に皺を寄せ、しかめっ面になった。


 

「えぇー。それ、おいしくないよ?」


 

「私はこっちの方が好きだから、串はみんなで食べなさい」


 

 再びどこかへとクラッカーを仕舞うったレイラは、少女の肩に手を置いて、くるりと体の向きを変える。


 そのまま背中を押されると、少女は満面の笑みで振り返った後、孤児院へと駆けだした。



「わかったー!」



「……はぁ」


 

 少女が孤児院へと戻ったことを確認したレイラは、弱々しいため息をついて肩を落とす。


 すると、レイラの手元をじっと見ていたアルギスが、上機嫌な声を上げた。


 

「おい、今の魔術はなんだ?」



「え?ああ、何のことはない魔術よ?」



 手を軽く振りながら、レイラはクラッカーを出したり消したりしている。


 改めて魔術を見たアルギスは、口元を隠すように手で覆い、口角を吊り上げた。



「お前の属性は、”影”だな?」



「!よくわかったわね」



 自らの属性を言い当てられたレイラは、動きを止めて目を丸くする。


 そして、クツクツと楽し気に笑い出したアルギスを見ると、不思議そうな顔で首をひねった。

 


「なにか、いいことでもあった?」



「ああ、飛び切りの良案を思いついた」



 顔から手を降ろしたアルギスは、目をスゥッと細め、レイラを見上げる。


 心中を見透かすようなアルギスの視線に、レイラは警戒交じりに腕を組んだ。



「私に、できることなの……?」



「なに、そう難しいことじゃない。お前の使える魔術を教えて欲しいやつがいるだけだ」



 身構えるレイラに対し、アルギスは穏やかな声色で話しながら、ゆっくりと両手を広げる。


 一転して優しげな微笑みを浮かべるアルギスに、レイラは警戒心を解きつつも、悩まし気に目を伏せた。



「私はそんなに大した魔術を使えないのだけれど……」



「さっき使っていた第二階梯。あれで十分だ」



 口元を揉みほぐしていたアルギスは、あっけらかんと言い放つ。


 そして、レイラの返事を聞くこともなく、鉄柵の門扉に足を向けた。


 

「貴方、一体何者なの?」

 


「気にするな。……後日、ここにハーフエルフを送る。そいつに教えろ」



「え、ええ、わかったわ」


 

 戸惑いつつも頷いたレイラは、足早に去っていくアルギスの背中を見つめる。


 やがて、アルギスの姿が鉄柵の奥へと消えると、ため息をついて孤児院の中へと戻っていくのだった。


 

 ◇


 

 太陽が頂点へと昇り、気温も上がり切った頃。


 真新しいメイド服に身を包んだマリーは、アルギスから呼び出しを受けていた。


 

(まだ礼儀作法も完璧じゃないから、なにかしちゃったかな?)



 頭の中でぐるぐると呼び出しの理由に考えを巡らせながら、急ぎ足で廊下を進んでいく。


 アルギスの部屋へと辿り着くと、ゴクリと唾を飲み込み、勇気を出して扉を叩いた。

 


「アルギス様、マリーでございます」



「入れ」

 


 入室の許可を得たマリーが扉を開けると、笑顔で足を組み、ソファーにもたれかかっているアルギスが目に入る。


 何やら上機嫌な様子のアルギスに、マリーはホッと胸をなでおろしながら、近づいていった。



「お呼びとのことですが……いかがされましたか?」



「お前に命令を出す。今週から時間がある時に、公都の孤児院へ行け。既にエマには了承を取ってある」



 機嫌を窺うように表情を覗き込むマリーに対し、足組みを解いて前のめりになったアルギスは、一息に指示を出す。


 すると、命令という言葉に身を縮めつつも、マリーは素早く頭を下げた。



「は、はい。かしこまりました」


 

「……近くに良い串屋もある。小遣いをやるから、ついでに孤児院にでも買っていけ」



「かしこまりました。そのようにいたします」



「ふむ」 



 満足げに頷いたアルギスは、頭を下げ続けるマリーから目線を外す。


 膝に手をついてソファーから立ち上がると、新調されたばかりの重厚な机へと向かっていった。


 

「場所は追って伝える。もう下がっていいぞ」



「それでは失礼いたします」



 頭を上げたマリーは、机に腰かけるアルギスを尻目に、扉へと歩き出す。


 すぐに部屋を出ると、来る時と同じく疑問で頭をいっぱいにしながら、廊下を進んでいった。



 

 ――――それから数日が経った日の午後。


 マリーの姿は公都商業区の露店通りにあった。


 

「えーと、確かこの辺りに……」



 メイド服姿のマリーは、アルギスから渡された簡易的な地図を手に、辺りを見回す。


 そして、地図に描かれた肉串の露店を見つけると、購入しようと急いで近づいていった。



「あの、串をください!」



「あ、ああ、はい!今、包みます!」



 マリーの姿を見て頬を引きつらせたマックスは、ぎこちない動きで袋に串を詰めていく。


 アルギスから聞いていた印象と随分違う店主の態度に、マリーは首を傾げていた。



「あの、どうしたんですか?」



「い、いや、ご領主様の使用人様を待たせて、申し訳ねぇです……!」



 ペコペコと頭を下げるマックスは、冷や汗を拭いながら、必死で追加の串を焼いていく。


 時折感じるマックスの視線を追いかけたマリーは、俯くように自身のメイド服に目線を落とした。



(あ!このエプロン……) 


 

 マリーの目線の先、メイド服のエプロンには、エンドワース家の意匠が刺繍されている。


 すぐにマックスの態度の原因に気が付いたマリーは、慌ててワタワタと手を振った。



「ワタシは、ただの雑用のようなものなので気にしないでください」



「そ、そうかい?そりゃ、こっちとしちゃ助かるけど……」



 未だ躊躇いを残しつつも、マリーの態度にマックスは少しだけ表情を緩める。


 エプロンのポケットに手を入れたマリーは、ジャラジャラと音の鳴る革袋を取り出した。



「では、これで買えるだけお願いしますね」



「え!こんなに!?」



 革袋を受け取ったマックスは、その重さにぎょっとして肩を跳ね上げる。


 慌てて中を見ると、マリーの取り出した革袋には、20枚を超える銀貨が入っていたのだ。


 

「少し、待っててくれ」



「は、はい」 


 

 急いで後ろにあった大きな箱の蓋を開けたマックスは、ポカンとするマリーをよそに、箱の中からありったけの肉串を取り出す。


 そして真剣な表情で串を丁寧に焼き上げると、ひと際大きな袋に詰めてマリーへと渡した。



「へい、お待ち!」



「ありがとうございます。また来ますね」



 小さな体が隠れるかと思うほどの袋を両手に抱えながら、マリーは露店通りを去っていく。


 

 それから、地図を思い出して寂れた通りの通路を進むこと数十分。


 ついにマリーの目の前には、錆びて変色した鉄柵と、古びた石造りの孤児院が姿を現していた。


 

「ここ、だよね?あんまり串屋さんから近くなかったけど……」


 

 マリーがキョロキョロと柵の外から孤児院を覗き込んでいると、庭で遊んでいた子供たちが寄って来る。


 警戒するように遠巻きに眺める子供たちの中から、最年長だろう、マリーと同い年ほどの少年が声を上げた。



「お、お前、誰だ!?」


 

「ここに来るようにとのご指示なのですが……」



 他の子供たちを守るように前に立つ少年に対し、袋の上から顔を覗かせたマリーは、困ったように首を傾げる。


 何とも言えない空気が漂う中、孤児院の中から出てきた女性が明るい声を上げた。



「あ!貴女が魔術を習いに来る子ね」



「え?」 



 駆け寄って来る修道服の女性を見たマリーは、聞き覚えのない内容に目を白黒させる。


 孤児院の子供たちを間を抜けてきた修道服の女性は、マリーを見て、ニコリと微笑んだ。


 

「私はシスター=レイラ。貴女に魔術を教えることになっているの」



「……あなたの属性は?」



 レイラの言葉にピクリと反応したマリーは、期待半分、不安半分で上目遣いに問い返す。


 すると、レイラの表情は一層、穏やかなものに変わった。



「”影”よ。貴女もでしょう?」



「は、はい!あの、良ければこれ、食べてください!」


 

 アルギスの命令の理由を理解すると、マリーは花が開くように表情を明るくする。


 そして、抱えていた肉串の袋を、高く掲げてレイラへと差し出した。



「!じゃあ、これからよろしくね。……とりあえず、中に入りましょう」



「はい!」

 


 隠れていたマリーのメイド服が目に入ったレイラは、狼狽えつつも、どうにか笑顔を繕う。


 アルギスの正体に汗を流しつつも、鼻息を荒くするマリーを引き連れて、孤児院の中へと戻っていくのだった。

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