バイト先の地雷系がヤらせてあげると迫ってくるが、俺には好感度MAXのメンヘラ幼馴染が”いる”のでお断りします
じんむ
❤︎プロローグ❤︎
朦朧と混濁する意識の中、ぼやける視界の先で仕切られたカーテンのようなものをかろうじで確認し、ここが現実の部屋の中である事を理解する。起き上がろうとするがまるで体は言う事を聞かない。一体俺の身に何が。
状況の整理がつかない中、不意にフルーツのような香りがふわっと漂ってきた。
怪訝に思っていると、甘い吐息が俺の耳元に触れる。
「ねぇ? 何からしたい?」
「……なにを、するって?」
女の声の意図が読み取れず、なんとか言葉を絞り出し尋ねる。
「そんなの決まってるじゃん」
甘えた猫のような声が聞こえると、ベッドがきしむ様な音と共に視界が遮られた。まだ焦点が合わずはっきりとは見えないが、目の前に女の顔があるのは理解できる。
一旦顔が離されると、俺の腿で柔らかな温もりが沈んでいくのを感じた。
女はきめ細やかな指を俺の指に絡めさせる。
手の甲に服の生地の感触を感じると、間もなくして暖かな人肌が指に触れる。女は再びゆっくりと顔を近づけながら、俺の手を自らの肌に沿わせると、ひと際柔らかなものを俺に触らせた。五本の指が吸い込まれるように張り付くのを感じる。
「セックス」
徐々に意識が定まっていき、女の輪郭もはっきりとしていく。
病的に白い肌は、赤っぽい涙袋を際立たせていて、猫のようにやや吊り上がった目じりには赤紫のアイラインが引かれている。妖艶に微笑みながら俺のことを覗き込む瞳からは、黒い雫が零れそうな心持がした。俺はこの女を知っている。
「なるほど、な。でも悪い、が……それは、できない……」
なんとかどけようと、未だコントロールがうまく行かない反対側の手をなんとか動かすが、冷たい金属に阻まれてしまった。手錠とはまた月並みな事をしてくれる。
「なんで?」
逆鱗にでも触れたか、女が低く尋ねる。
鮮明になっていく意識の中、くっきりと頭の中にはある少女の姿が浮かび上がってきた。
「俺には、幼馴染がいるからだ」
そう、俺には綿貫空那という幼馴染がいる。
世間でよくある家が近所とか家族ぐるみの付き合いだとかそういったタイプの幼馴染ではないが、面識は幼稚園の頃からある。最初の出会いは俺の目の前であいつが転んで大泣きしたのを宥めたのがきっかけだ。
当時の認識としてはべつのくみのおともだち、くらいのものだったが、なんの縁か小学校から中学までは同じクラスになったのもあってかいつの間にか一緒にいる事が多くなり、高二の今もそれは同じだ。
だからそういった行為に及ぶことはできない。
「幼馴染ってあいつ……やっぱり付き合ってるわけ?」
「そういうわけじゃないが」
それでも俺の守るべき相手であり大切な存在なのは事実だ。
関係性としては両片思い、という言葉は適切ではないが、比較的近いのはたぶんそれだろう。
「なるほどね」
女は納得したそぶりを見せると、二つに結った髪のうち一つのヘアゴムをほどく。
髪は女の肩を滑り落ち、俺の頬を優しくなでた。甘い香りが鼻腔をくすぐると、女が頬を紅くし八重歯を見せる。
「さっさと気持ちよくして忘れさせたげる。あたし経験豊富だからたぶん飛ぶよ?」
自信ありげに言ってくるが、まったくもって俺の心は平常時と変わらなかった。
「いや無理だ」
否定すると、流石に不快に思ったか女は眉を顰める。
「しつこい。どうせあんたのは待ちきれなくてうずうずしてるくせに」
そう言ってやや乱暴に俺のベルトへと手をかけるが、すぐにその手が止まる。
「嘘でしょ……?」
絶句したような声にため息が漏れた。
「はぁ、だから言っただろ。俺のは好きでもない女には一切反応しない不良品なんだ」
俺、
しかしこんな事になるなら放っておけば良かったな。
もはや意識は完全に戻り、今までの事が鮮明に呼び起こされる。
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