L'épéiste de Pirate 〜海賊剣士〜

平中なごん

Ⅰ 庶民出の剣士

 聖暦1580年代初頭、遥か海の彼方に未知の大陸〝新天地〟を発見したエルドラニア王国は、その植民地化を押し進め、世界最大の版図を誇る大帝国へと成長を遂げていた……。


 だが、そんなエルドラニアと敵対するアングラント王国やフランクル王国は、私掠船(※おおやけに海賊行為を認められた船)による海上輸送妨害を画策し、また、新天地のエルドラニア人社会から弾き出された他国の移民達の中には、生きるために海賊となる者も少なくはなかった。


 エルドラニアの新天地における最初の植民地エルドラーニャ島……その北の海に浮かぶ小島トリニティーガーは、いつの頃からかそんな海賊達の巣窟となっている。


 そのトリニティーガーを根城とする海賊達の中に、己の剣の腕だけを頼りに一味の頭目にまで登りつめた、一際変わった来歴を持つフランクル人海賊がいる……その男の名はジャン・バティスト・ドローヌ。〝海賊剣士エペイスト・ド・ピアータ〟の通り名で知られた、名だたる船長の一人である。


 鷹の様に眼光鋭く、痩せ型の長身に青のジュストコール(※ロングジャケット)を羽織り、オールバックにまとめた頭には黒い羽根付きのつば広帽、腰には海賊の好む湾刀〝カットラス〟ではなく、なぜか細身の直剣〝レイピア〟を下げるという、いかにもなフランクル人好みの恰好をしている。


 おそらくは、それも彼の前職に関係があるのだろう……。


 ジャンはフランクル王国西部のレ・ザブンドロンという港町の貧しい荷運び人足の家に生まれた。


「我が名はジャン・バティスト! 腕に憶えのある者は俺と勝負しろ!」 


「ジャンのやつ、懲りずにまたやってるよ……」


 しかし、幼い頃より周囲が呆れるほどにチャンバラ遊びを好み、独学で剣の腕を研くと決闘をふっかけては実戦経験を積み、いつしかそこらの騎士でもかなわぬくらいの遣い手になると、その実力から衛兵隊への士官を経て、ついには国王直属の銃士隊にまで登りつめたのだ。


 その上、銃士になってからは隊の訓練で改めて正式に剣術を学び、ますますその道に精通すると、いつしかフランクルでも指折りの大剣豪となったのである。


 銃士隊は、王都パリーシスの治安維持にも当たるエリート衛兵部隊で、その証として羽根つきのつば広帽に鮮やかな青い陣羽織サーコートを羽織り、その粋な制服姿とも相まって市民の間でも人気の高い男達である。


 その銃士の中でも剣豪として名の知れたジャン・バティストは、街を歩けば若い娘達にキャーキャー言われるような、パリーシスっ子の誰もが知る大の人気者であった。


 だが、彼や彼同様に実力のみでのし上がってきた銃士隊を快く思わない者達もいる……やはり王直属であり、正規に王の護衛を任される近衛隊である。

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