最も蠱惑的な読後感

うわ、やられたな......というのが読了後すぐの感情だった。
やられた。本当にやられた。
物語は食べ物を食すことに一切の喜びを感じない女の子の視点で進行するのだが、設定の驚きとは反対に主人公の感情はごくごく普遍的だ。誰しも興味や喜びを全く見出せない対象を持っているが、この子の場合は対象が食べ物の味だった。ただそれだけである。

......のだが、物語の終盤に少女は人生で初めて「食べたい」と抑えきれない衝動、欲望を感じるものに出会う。目が引力で釘付けにされ、喉がごくりと鳴る。突き動かされるまま手を伸ばし、貪る。貪る。貪る。

これはホラーではない。これは純然たる喜びだ。アダムとエヴァが初めて目を開いた時に抱いた至上の喜びに比肩しうる、極めて純然かつ圧倒的な喜びの咆哮が聞こえてくるだろう。聞こえない?なら試しに1本食べてみるといい。もしかすると君はまだ"蓼"を食ったことがないだけかもしれない。

......いいから食え!オラッ!!!

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蓼食う虫も