第15話 厄介な客

 時刻は午後5時をまわり、日もずいぶん傾いてきました。ワルミちゃんは「行きたいお店がある」と一旦学園の寮に行き、近くの銀行から現金を降ろしてきました。お友達と放課後ショッピング! 素晴らしいですね~。

 行き先は静岡都の郊外にある、家屋を改造して作った小さな雑貨店とのこと。冒険者に必要なアイテムを揃えてあるのでしょうか。


▽ワルミ

「マダム、やっていらして?」

▽店番のおばあちゃん

「おやおや…いらっしゃい 店は7時半に閉めるよ

 ゆっくり見ていきなされ…フォフォフォ」


 やってきたのは【鈴風商店】。ホヨの実家と同じく冒険者や一般人向けに道具を売っていて、消耗品やおもちゃ、駄菓子などがたくさんあります。ワクワクしますね。ワルミちゃんは……周りの商品には目もくれず、店番をしているおばあちゃんに話しかけます。


▽ワルミ

「………マダム・フィンベル

 ?」

▽店番のおばあちゃん

「………あいよ」


 おばあちゃんがをチリンと鳴らすと、盗聴防止結界に似たバリアが広がり……不思議な模様が描かれた石碑が現れました!

 これは【転移ポータル】と呼ばれていて、模様に手をかざして魔力を込めると起動し、どこかに瞬間移動できる便利な装置とのこと。これもゲーム知識というものでしょうか。ワルミちゃんは本当に物知りでとても頼りになります。


▽ワルミ

「………ふむ マダムがちゃんといらしたようでよかったですわ」

▽店番のおばあちゃん

「………まさかこんな若いお嬢さんがを知ってるとはね

 さ 数十秒で戻っちまうから早くしな………キヒヒヒ」


 ポータルの先には……もう一つ小さなお店がありました。先程のお店のようにいろいろなアイテムが並んでいますが……より冒険者向けになっています。武器に防具、回復薬や巻物に魔法書、不思議な色の鉱石などなど……どれもこれも不思議で強い力を感じます。そしてお店のカウンターには……先程のおばあちゃんが先回りしていました。びっくりです。


▽ワルミ

「この【裏商店】は店番のおばあ様…

 【マダム・フィンベル】に合言葉を伝える事で入れますの

 ………と付いている通りギルド未認可の非合法なお店ですわ

 ですので他の方には内緒にしてくださいまし 刑務所行きになりますわよ」

▽ホヨヨ

「こわいです~~~…」

▽ワルミ

「これからもっと危険な橋を渡る事になるんですから…お覚悟なさい?

 ………と、ありましたわね」


 ワルミちゃんが手に取ったのは、シンプルなデザインのコサージュ。周りのものと同じく奇妙な力を感じます。


▽ワルミ

「マダム、これを日本円で購入したいのですが…」

▽マダム・フィンベル

「…ほう、【フェイクコサージュ】かい 18万円だよ

 高校生にゃ厳しい額だと思うが…お金は足りているかい?」

▽ワルミ

「………ええ 現金一括払いでお願いいたしますわ」

▽マダム・フィンベル

「………おやおや 御貴族の娘さんかい?

 …ヒョヒョヒョ まあいいさね 毎度あり」


 18万円! すごくお高いです! 気になって他の商品も見てみると…

どれも数万円から数百万円するとんでもない高価な品物ばかりでした。どひー!!

 長財布から現金18万円をスッと出してポンと購入。わお。そしてワルミちゃんは、購入したコサージュをホヨに渡してきました。いきなりとんでもないプレゼントです。


▽ワルミ

「…【フェイクコサージュ】。装備すると【偽装Lv2】の効果を付与………

 つまりこれを付けていると自身のレベルや装備を事が出来ましてよ

 《下級鑑定》や【エディットオーブ】までなら騙せますわ

 ただし中級以上の鑑定効果には破られてしまうので気を付ける事

 冒険者端末での自身のデータも見られないようにしてくださいまし


 前にも言いましたが冒険者は実力社会、

 中途半端な強さで悪目立ちしてしまえば………

 色々と危険な事が起きてしまいますわ この世界はそういうものですの

 能ある鷹は爪を隠す、とも言いますでしょ?


 周りにウソをつくのは心苦しいでしょうけど…どうか耐えてくださいまし」

▽マダム・フィンベル

「………それが賢明だよ、少年 とは武器であり資産だ

 ダンジョンやレアなアイテムの情報を求めて争い奪い合う連中はたくさんいる

 アタシがごく一部の者にしかこの店を開かないのも…それが理由さね


 …特に少年、君は気を付けた方がいい

 指に付けてるもそうだし、何より君は優しそうだからね

 なにも騙し合えと言うわけじゃない せめて悪意に抗える力を付けてほしいのさ」


 ……薄々感じてはいました。この世界はと。


 ダンジョン入口の列に並んでいた時も…周りの冒険者達はなんだかしている人が多かった。富と名声と力を貪り合う………獣のようだ、と。ホヨは…ちょっと自信が無くなってきました。この先生きのこれるのでしょうか。

 コサージュを受け取り髪飾りとして付けてみます。冒険者端末から詐称データの編集が可能で、コサージュの見た目も変えられるようです。レベルは……まだ入学初日なので1にしておきます。形は…野らしくクラゲさんにしましょう。単なるファッション用としても便利そうです。


▽ワルミ

「………それにしてもマダム………えらくこの子に親身じゃないですか

 もしかして一目惚れしましたの?」

▽マダム・フィンベル

「…生意気言ってんじゃないよ小娘

 は珍しかっただけさ 用が済んだらさっさと帰んな」

▽ワルミ

「また来ましてよ~~~! ホーッホッホッホッホッホ!!」

▽マダム・フィンベル

「………まったく 厄介な客が来たもんさね」




――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――*――




 帰りの転移ポータルでは周囲の人気のない場所にランダムで飛ばされます。足跡もしっかり隠しておかないと面倒ですからね。

 時刻は午後6時をまわっています。お店から出たところで解散となりました。ではではお家に帰りましょう。しかし妙です。この辺りは初めて来る地域のはずなのに、端末の地図を見なくても自宅の方向がなんとなく分かるような気がします。ホヨは帰巣本能が強いのかもしれません。

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